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134 先輩の謎

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「にしても、どこで汚れなんてついたんだろう? 朝、しっかり顔洗ったのになあ。鏡も見たのに全然気が付かなかった。寝ているときにクマちゃんの色素でもついたのかしら……?」

 そういえば、朝起きた時にはクマが居なくなっていた。夜中、金縛りにあって起きた時はどうだったか……既に居なかったな。
 まあ、クマに関しては間違いなく王子がアチラへと連れて帰ったのだろう。

 特に今まで色落ちなんてしたことなかったけれど、あのクマは何だかんだ頻繁に異世界との間を行き来しているからその関係で少し材質が変化したのかもしれない。

 相変わらず抱き心地は素晴らしいんだけどな。召喚が再開されたら王子に品質保持の魔法でもかけてもらおうか。

 なんか王子愛用のジャージにはそんな感じの魔法をかけていた。おかげで洗濯機でガシガシ洗っても傷まない。経済的だよね、アレ。あと楽。

 あとは――私が寝ている間に王子がおでこに落書きでもしちゃったとか?

 忙しい朝に大迷惑になるそんなイタズラをするとは思えないけど、あの王子なら思いつくくらいはしそうだな。何が原因か分からないけど、今度来た時に何か心当たりないか聞いてみるか。


 私がおでこの汚れの原因に思いを馳せていると、先輩が不思議そうに首を傾げていた。


「クマちゃん……?」

「ああ、私、寝るときにヌイグルミを抱っこするのが小さい頃からの癖なんですよ。大学入るちょっと前にお兄ちゃんにゲーセンで獲ってもらったヌイグルミがあるんですけど、枕元に置いているから、いつの間にかそれを抱えて寝ちゃうんですよね。もしかしてその子が色落ちでもしたのかな……と」

「ああ……あのクマか。あの兄……そうか、なるほどそれで……」


 何故か。言いながら、ほ……っと安心したように息を吐く先輩。

 どことなく険しかった表情が和らいでいる。先輩も王子のようにクマ好きなのだろうか。意外と男の人のクマちゃん人気高い? 気になる……いや……それよりも気になることがある。

(あのクマ……?)


「あれ? 私、あのクマのこと、先輩に話したことありましたっけ??」

「……………………一年くらい前に、流行ってて、どこのゲーセンでも置いてあったからな。ソレかな……と。お前のアパート近くのゲーセンにもあったから」

「あ、そういえばそうですね。そうそう、ちょうど引越しの日にお兄ちゃんにアパート近くのゲーセンで獲ってもらって……って、私、一人暮らし始めたこと先輩に言いましたっけ??」


 確か……お兄ちゃんからのアドバイスで、一人暮らしを始めたことはできるだけ周囲に言わないようにしていた。先輩に対してというよりは、新たに出来るだろう友人に対してだ。1人暮らしを始めるとアパートがたまり場になっちゃったりとか、色々面倒なことがあるらしい。

 まあ、結局友人らしい友人も出来なかったし、せっかく家族の監視を離れ、好きなだけゲームが出来る理想の環境が整ったというのに自らその楽園を手放す気はないので、何となくお兄ちゃんの指示には従っていた。
 それは、高校時代の知り合いに対しても、だ。

 だから、友人からの年賀状なんかも全て実家の方に届いているのだが。


「サ……サークルの入会の時に住所を書いてもらったからな。前の住所とは違っていたから……だから……その」

「あ、そうか! 入部の書類にはアパートの住所書いたんだ」


 一応、弱小とはいえ正式な大学のサークルだから、すぐ連絡はつくようにしておかないとマズイかな、と思って正直に書いたんだった。


「やっぱ先輩はすごいなあ……。一を聞いて十を知るというやつですね! 先輩は高校の頃から名前を張り出されるくらい成績もよかったし」

「!? おおお、お前、それ知ってたのか!??」

「? ……中間や期末の試験の度に、成績上位者だけ廊下に張り出してあったじゃないですか。いつも先輩の名前載っているから、先輩凄いなあ、やはり眼鏡は伊達じゃないなあって思って見てましたよ?」


 実際、先輩は優秀だ。多少……いや、かなり変わり者ではあるけれど。

 ただ、ビックリするほど目立たない。炎天下。真夏にこんな分厚い我慢大会のようなローブを着ていても、周囲から変な目で見られることもない。先輩自身、暑がる様子もなくすました顔してるし――。


 …………あれ?


 炎天下。遮るものなく話しているので、かなり暑い。でも、目の前の先輩は平然としている。

 しかも――今から思い返してみれば、さっき先輩に捕まったときは別に暑さは感じなかった。あんなに引っ付かれていたというのに、むしろ、ひんやりとして快適で――。


 え。こんな太陽光集めそうなモノ着こんどいて、そんな事ある??


 疑問を感じたら確かめずにはいられない。さっきの今だし別にいいよね。今更だし。ってか、確かめるなら屋外・炎天下の今しかない。
 ――と、いう訳で。


「あ、先輩すいません。ちょっと失礼しますねー」


 暖簾をくぐるように。再び先輩のローブの中へと自ら入った




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