魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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129 ぼくとしょうかんぬしのなつやすみ2(王子視点)

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 それ以上考えると落ち着かなくなりそうだったので僕はゲームに集中しました。

 今日はもう、建設はしないで召喚主と共に建てている『幽閉されたい塔』の中を動き回ることにしました。


 僕は彼女から信頼されているのでゲームの中ではベッドも隣同士です。時間差で同じお風呂に入ります。かけ流しの温泉完備の大浴場です。
 お腹が空いたら学食へ行って、好きな物を食べられます。お腹がいっぱいになったらゲーム屋さんに行って気分にあったゲームを選びます。コンビニがあるので大好きなコーラとポテトチップスはいつでも買えます。
 おやつを用意したらお部屋に戻ってゲーム三昧です。攻略に詰まったら書店で攻略本を探します。


 ゲーム内の自分を動かしながら、そんな夢のような幽閉生活を思い描いていたら、彼女の寝言が聞こえました。

 今日もいつも通り、形だけイヤホンをつけてゲームの音は切っています。今までは何を言っているのか分からなかったけれど、中途半端翻訳機能が付いたおかげで召喚主の寝言が所々聞き取れて楽しいです。

 でも、今日はうなされているようでした。


『○○ー○……やめてー。サクッと○○○○ぇぇー……』


 サクッと……?? 確かにそう聞こえました。

 お菓子をとられる夢でも見ているのでしょうか。ポテトチップスはパリッとなので僕が犯人ではなさそうです。良かった。何にしても、朝が早い召喚主の眠りが浅くなってしまっては大変です。

 召喚主の世界のことは分かりませんが、僕の世界では悪夢を見るのは瘴気が原因だと言われています。悪い気が悪夢を見せるのです。
 魔力があればある程度抑えられるのですが、彼女には魔力がありません。だから悪夢を見ているのだと思います。苦しそうに先ほどから寝返りを繰り返しています。

 いつの間にか彼女が抱きついていたクマがベッドの下へと落ちそうになっていたので僕が代わりにクマちゃんを抱っこしてあげました。何にしてもこのままうなされ続けるのは可哀想だと思いました。

 僕の国ではまだ魔力制御が下手な子供が悪夢にうなされているときにはおでこにチュッとキスをしつつ、悪夢を追い払えるように魔力を分け与えます。親から子への、おまじないのような物です。魔法は呪文を唱えることで発動するので、口を使って魔力を注ぐ方法が一番手っ取り早いのです。

 僕も幼い頃には両親にやってもらったことがあります。どんなに魔力制御が下手な王族でも、これだけは皆、身に付いています。

 何度も言いますがおまじないのような物です。だから、深い意味なんてないし、意識するようなことでもありません。
 だから、召喚主のおでこにチュッと一瞬してやれば、すぐに解決します。でも、流石に本人の許可もなく、寝ている召喚主にソレをするのは――と躊躇しました。

 けれど。

 そんな風に思っておでこを見ていたら、まだ僕はキスをしていないのに彼女のおでこに僕の魔力の痕跡を見つけました。既に何日も経っているようでごく僅かな反応ですが、僕は何故か、それが面白くありませんでした。


 ここ数日の観察で気が付きましたが彼女は眠るときに枕元のクマを抱いて眠る癖があるようです。僕が腕に抱いているこのクマです。
 そして、このクマには僕の魔力が詰まっています。彼女はクマに顔を埋めて眠ることも多いので、おそらくその時に僕の魔力が彼女へと移っていったのだと思います。

 だから、ソレは間違いなく僕の魔力のはずなのに。

 彼女のおでこに縋りつくようなソレが不愉快で、気付いた時には痕跡に上書きするように僕の魔力をドバッと注いでいました。

 ……大丈夫。純粋に僕の魔力を注いだだけなので、多すぎたところで問題はありません。かけ流されるだけです。そのお陰か、召喚主のおでこにあった違和感はキレイさっぱり流れ去って、代わりに僕の最新の魔力が残っています。
 召喚主を苦しめていた悪夢の元もなくなったようです。召喚主の口元が安心したように緩みます。

 それを見て思わず僕の頬も緩みました。


 しかし。

 寝たままの体勢で。不思議そうに、僅かに首を捻る召喚主。
 そして。


『キス……? ○○○、前にも…………○』


 召喚主の声が聞こえて、彼女の手が僕の唇が触れたばかりのおでこに伸びました。心臓がビクン、と跳ねました。
 悪夢をこっそりと祓うつもりでしたが、魔力を流し過ぎたせいか彼女を起こしてしまったみたいです。やましいことはないけれど、誤解でもされたら大変です。僕は慌てて彼女から身を引きました。

 思わず抱えていた彼女のクマをギュッと抱きしめます。


 寝起きの良い彼女ですが、アイマスクを着けているせいで視界がきかず、少し混乱しているみたいです。おかげで僕の行動も存在も気付かれませんでした。
 これ幸いと、僕はベッド横の魔法陣ラグまで下がりました。彼女が起きてしまうようならこのまま帰ればバレません。悪気はなかったけれど、言葉のほとんど通じない今はうまく状況を説明できる気がしませんでした。

 でも――。戸惑っているような召喚主を見つつ、疑問が浮かびます。


(『キス……?』『前にも』……?)


 確かにそう聞こえました。中途半端な翻訳なので分かりませんが、彼女は前にも誰かに同じようなことをされたことがあるようです。

 僕の世界と違い、コチラでは婚約者を早くから決めたりはしません。それに、彼女は二次元、それも眼鏡キャラに夢中で現実の男性には全く興味がないようです。
 だから、相手は家族の誰かなのだと思いました。

 けれど。


『先輩……? ○○○○』

「……っ!?」


 それを聞いた途端、僕は思わず逃げるように塔へと帰ってしまいました。




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