115 / 326
115 召喚主の警戒心が薄すぎる(王子視点)
しおりを挟む召喚主の警戒心が薄すぎる――そう思ったのは離宮から戻った後だった。
ついつい、召喚再開からの召喚主との再会で、初日はおしゃべりに終始してしまった。まあ、話したいことが山ほどあったから仕方ない。
翌日も。ゲームを始めたはいいが、僕が作りあげた『幽閉中の塔』や、『幽閉前に住んでいた城』がいつの間にか最新の状態へと更新されていて、召喚主に根掘り葉掘り聞いてしまい、あまりゲームはできなかった。
いや、だって。あの自動更新機能は凄いと思う。塔の外に出されて、戻された時に習慣的にやっているチェック作業をしなければ気付けなかった変更点がいくつもあった。
いったい、いつ変更がされたのか。それすら分からないのに、ゲームのデータ上でその全てが直っていたのだ。
凄いな、科学技術。生活の場である塔と違って城の変更点を確認するのは現状難しいが、方法がまったくないわけでもないのでそのうち努力してどうにかしようと思う。
それはさておき。
会話が弾んでゲームがなかなか進まない。でも、召喚主との会話にも飢えていたので会話も減らしたくない。
そこで僕は考えた。
そもそもの召喚時間が短いのではないか――と。
ずっと楽しみにしていた夏休み。召喚主の大学が長期休みに入るからと、召喚を増やしてもらえる予定だった。それなのに自分のせいとはいえ離宮に送られてしまい、まったくゲームができなかったのだ。
どうにかして失われてしまった時間を取り戻したい。
塔の中に幽閉されている僕は時間を持て余すことには慣れていたけれど、こんな風に過ぎる時間を惜しむ日が来るとは思わなかった。それだけ今のこの召喚生活が充実しているということだろう。
だからちょっと伸ばしたい。お願いします!!
ダメ元で頼んでみたら召喚主から許可が出た。なので、午前、午後、夜、の一日三回召喚してもらえることになったのだ。夏休みが終わるまでのわずかな期間だけだけど、それだけでもかなり嬉しい。
城の変更点もこの目で確認したいし、そのためには塔の地下から城の地下へと続いているらしい地下ダンジョンを調べ直さねば。そのためにも監視から外れる時間は必要だ――。
塔へと戻ったあと。そう思った僕は食事の世話係を介して、塔の管理者から午後のお昼寝タイムをもぎ取った。僕は体調を崩したばかりだし(ただの3D酔いだけど)、僕の体調不良は彼らの評価に直結するので、割と簡単に許可が出た。
『足音とか気になるからー。グッスリ眠りたいからー』としつこく言っておいたのでお昼寝中は見回りも来ない。これで、午後は夕飯まで自由に動けるようになった。
でも、ダンジョンの探索なんかは後でいい。せっかく手に入れた自由な時間。
やりたいことはただ一つだ。僕は決めていた。
あの、国民にはほとんど知られていない海辺の離宮をゲームの中の理想の世界で再現する――と。
だって、すごく奇麗だったし、召喚主にもぜひ見せてあげたいと思ったから。あと、せっかく手に入れたあの眼鏡を思う存分試したい。
そして待望の三回召喚が始まった。
療養中、プレイ動画を見ていくつか選んでおいた候補地の中からここぞという場所を決めて、素材を集めて再現する。
時間はいくらあっても困らない。むしろあればあるほどいい。再現率が増すというものだ。
その過程でこの眼鏡の素晴らしさを実感できた。
酔わない。集中できる。そして召喚主がチラチラと目線で構ってくれる。最高だ!!
僕の選択は間違っていなかった。酔わないからいつまでもゲームをやっていられる。でも、流石に食事の時間には一度幽閉中の塔へ帰らなくてはならない。ちょっと面倒臭いが仕方がない。
でも、午後のお昼寝タイムをもぎ取ったことで監視が外れたので、召喚主に頼んで午後1時には二度目の召喚をしてもらえることになった。
夏休みの間だけだけど、一日三回の召喚に加えてのフライング召喚。最高だ!!
午前・午後と夢中になって建築を進めて、さあ、夜も! と召喚してもらったところで。
普段との違いに気が付いた。
夜の召喚で、僕がパジャマなのはいつものことだけど。
この日は呼び出してくれた彼女もパジャマだった。
夏のパジャマは薄くてゆったりしていて……あと、お風呂上りなのか彼女から石鹸のいい香りがしてちょっとドキドキする。
僕の我が儘で実現した本日三回目の夜の召喚。
パジャマ姿の彼女を前に。
僕は何と声をかけていいのか分からなかった。
36
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる