魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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115 召喚主の警戒心が薄すぎる(王子視点)

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 召喚主の警戒心が薄すぎる――そう思ったのは離宮から戻った後だった。


 ついつい、召喚再開からの召喚主との再会で、初日はおしゃべりに終始してしまった。まあ、話したいことが山ほどあったから仕方ない。

 翌日も。ゲームを始めたはいいが、僕が作りあげた『幽閉中の塔』や、『幽閉前に住んでいた城』がいつの間にか最新の状態へと更新されていて、召喚主に根掘り葉掘り聞いてしまい、あまりゲームはできなかった。

 いや、だって。あの自動更新機能は凄いと思う。塔の外に出されて、戻された時に習慣的にやっているチェック作業をしなければ気付けなかった変更点がいくつもあった。

 いったい、いつ変更がされたのか。それすら分からないのに、ゲームのデータ上でその全てが直っていたのだ。

 凄いな、科学技術。生活の場である塔と違って城の変更点を確認するのは現状難しいが、方法がまったくないわけでもないのでそのうち努力してどうにかしようと思う。


 それはさておき。


 会話が弾んでゲームがなかなか進まない。でも、召喚主との会話にも飢えていたので会話も減らしたくない。

 そこで僕は考えた。


 そもそもの召喚時間が短いのではないか――と。


 ずっと楽しみにしていた夏休み。召喚主の大学が長期休みに入るからと、召喚を増やしてもらえる予定だった。それなのに自分のせいとはいえ離宮に送られてしまい、まったくゲームができなかったのだ。

 どうにかして失われてしまった時間を取り戻したい。


 塔の中に幽閉されている僕は時間を持て余すことには慣れていたけれど、こんな風に過ぎる時間を惜しむ日が来るとは思わなかった。それだけ今のこの召喚生活が充実しているということだろう。

 だからちょっと伸ばしたい。お願いします!!

 ダメ元で頼んでみたら召喚主から許可が出た。なので、午前、午後、夜、の一日三回召喚してもらえることになったのだ。夏休みが終わるまでのわずかな期間だけだけど、それだけでもかなり嬉しい。



 城の変更点もこの目で確認したいし、そのためには塔の地下から城の地下へと続いているらしい地下ダンジョンを調べ直さねば。そのためにも監視から外れる時間は必要だ――。

 塔へと戻ったあと。そう思った僕は食事の世話係を介して、塔の管理者から午後のお昼寝タイムをもぎ取った。僕は体調を崩したばかりだし(ただの3D酔いだけど)、僕の体調不良は彼らの評価に直結するので、割と簡単に許可が出た。

『足音とか気になるからー。グッスリ眠りたいからー』としつこく言っておいたのでお昼寝中は見回りも来ない。これで、午後は夕飯まで自由に動けるようになった。

 でも、ダンジョンの探索なんかは後でいい。せっかく手に入れた自由な時間。

 やりたいことはただ一つだ。僕は決めていた。


 あの、国民にはほとんど知られていない海辺の離宮をゲームの中の理想の世界で再現する――と。


 だって、すごく奇麗だったし、召喚主にもぜひ見せてあげたいと思ったから。あと、せっかく手に入れたあの眼鏡を思う存分試したい。


 そして待望の三回召喚が始まった。

 療養中、プレイ動画を見ていくつか選んでおいた候補地の中からここぞという場所を決めて、素材を集めて再現する。

 時間はいくらあっても困らない。むしろあればあるほどいい。再現率が増すというものだ。


 その過程でこの眼鏡の素晴らしさを実感できた。

 酔わない。集中できる。そして召喚主がチラチラと目線で構ってくれる。最高だ!!


 僕の選択は間違っていなかった。酔わないからいつまでもゲームをやっていられる。でも、流石に食事の時間には一度幽閉中の塔へ帰らなくてはならない。ちょっと面倒臭いが仕方がない。

 でも、午後のお昼寝タイムをもぎ取ったことで監視が外れたので、召喚主に頼んで午後1時には二度目の召喚をしてもらえることになった。

 夏休みの間だけだけど、一日三回の召喚に加えてのフライング召喚。最高だ!!


 午前・午後と夢中になって建築を進めて、さあ、夜も! と召喚してもらったところで。

 普段との違いに気が付いた。

 夜の召喚で、僕がパジャマなのはいつものことだけど。
 この日は呼び出してくれた彼女もパジャマだった。


 夏のパジャマは薄くてゆったりしていて……あと、お風呂上りなのか彼女から石鹸のいい香りがしてちょっとドキドキする。

 僕の我が儘で実現した本日三回目の夜の召喚。

 パジャマ姿の彼女を前に。
 僕は何と声をかけていいのか分からなかった。




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