102 / 324
102 魅了堕ち幽閉王子は選択する(王子視点)
しおりを挟む雨の日も。風の日も。嵐の日も。
それこそ海が大荒れの時だって。
僕は毎日欠かさずにはぐれセイレーンの元へと通い続けた。
そう。僕は3D酔いを克服するための努力をすることを決めたのだ。
確かに早く元の生活に戻るためには何もしないのが一番だ。
しかし、多少時間はかかってもより多く。そしてより長くゲームを楽しむためにはコレは必要な事なのだと僕は判断した。
急がば回れ。
損して得取れ。
思い立ったが吉日。
かつて鈴木さんの家で。何となくだらだら見ていた子供向けの教育番組で覚えたことわざの数々が僕の背中を押してくれる。
毎日毎日。手漕ぎボートで岩礁地帯へ訪れる僕に、はぐれセイレーンは呆れているようだった。
嵐で大荒れの海を手漕ぎボートで渡り、びしょ濡れになって岩礁まで辿り着いた時にはドン引きされた。
「いや、こんな日は私だって海底の洞窟の奥で大人しくしているわよ、何で来ているのよ。まったくもう。念の為様子を見に来てよかったわ」
ブツブツと、文句を言いながらも彼女は大荒れの海を前に歌ってくれた。
結界魔法でしっかりと保護をしたから、岩礁の上だけは風一つなく雨も避けられて快適だが、結界の外側には激しい雨風が吹き付けられているのが見える。
横殴りの大雨をえらく透明なガラスの内側から眺めているような感覚だ。それをぼんやりと眺める僕。その横には嵐の中を泳いだせいで、ちょっとボロボロのセイレーン。
はたから見ると異様な光景だろう。
しかし、彼女は気持ちよさそうに歌っているし、僕も大荒れの海を見るのにはすぐ飽きたので、いつも通り記憶魔法でゲームの画面を再生させた。
魅了魔法の付与の最中、僕はいつもゲームのプレイ動画を再生させている。使用時に即した状態で眼鏡に付与を行う方が、効果が強くなるらしい。
彼女の言う通り、最初のうちは効果が分からなかった。でも、最近では随分と眼鏡に魅了魔法が浸透してきたのか、一時間くらいでは酔わなくなった。
既に召喚主の活動限界である一時間半をも超えていると思われる。かなり効果が出てきているのが実感できた。
これで僕がこの眼鏡を使えば、召喚主と合わせて三時間を超える。二人で交互にゲームをやれば、召喚時間を目いっぱい使って、建設を楽しむことが出来るだろう。
協力して理想の世界を作りあげる日も近づいたようだ。
コンビニに、書店に、ゲーム屋さんに……。ああ、それとせっかくだから今回の離宮も作りたいな。広がった僕の世界をぜひ彼女にも見てもらいたい。召喚主に見せるためにしっかりと隅々まで漏らさず覚えていこう。ゲーム内で寸分たがわず再現できるように。うん、そうしよう!
やりたいことがいっぱいだ!!
脳内で離宮の建設予定地の視察を進めながら、召喚再開後の計画を立てていく。召喚が再開される日が楽しみでたまらない。つい、表情が緩んでしまう。
そして――。
そんな僕を。呆けた顔のセイレーンが見ていることにはまったく気が付かなかった。
46
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説



アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる