魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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102 魅了堕ち幽閉王子は選択する(王子視点)

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 雨の日も。風の日も。嵐の日も。
 それこそ海が大荒れの時だって。

 僕は毎日欠かさずにはぐれセイレーンの元へと通い続けた。


 そう。僕は3D酔いを克服するための努力をすることを決めたのだ。


 確かに早く元の生活に戻るためには何もしないのが一番だ。

 しかし、多少時間はかかってもより多く。そしてより長くゲームを楽しむためにはコレは必要な事なのだと僕は判断した。

 急がば回れ。
 損して得取れ。
 思い立ったが吉日。

 かつて鈴木さんの家で。何となくだらだら見ていた子供向けの教育番組で覚えたことわざの数々が僕の背中を押してくれる。



 毎日毎日。手漕ぎボートで岩礁地帯へ訪れる僕に、はぐれセイレーンは呆れているようだった。

 嵐で大荒れの海を手漕ぎボートで渡り、びしょ濡れになって岩礁まで辿り着いた時にはドン引きされた。


「いや、こんな日は私だって海底の洞窟の奥で大人しくしているわよ、何で来ているのよ。まったくもう。念の為様子を見に来てよかったわ」


 ブツブツと、文句を言いながらも彼女は大荒れの海を前に歌ってくれた。

 結界魔法でしっかりと保護をしたから、岩礁の上だけは風一つなく雨も避けられて快適だが、結界の外側には激しい雨風が吹き付けられているのが見える。

 横殴りの大雨をえらく透明なガラスの内側から眺めているような感覚だ。それをぼんやりと眺める僕。その横には嵐の中を泳いだせいで、ちょっとボロボロのセイレーン。

 はたから見ると異様な光景だろう。

 しかし、彼女は気持ちよさそうに歌っているし、僕も大荒れの海を見るのにはすぐ飽きたので、いつも通り記憶魔法でゲームの画面を再生させた。

 魅了魔法の付与の最中、僕はいつもゲームのプレイ動画を再生させている。使用時に即した状態で眼鏡に付与を行う方が、効果が強くなるらしい。

 彼女の言う通り、最初のうちは効果が分からなかった。でも、最近では随分と眼鏡に魅了魔法が浸透してきたのか、一時間くらいでは酔わなくなった。

 既に召喚主の活動限界である一時間半をも超えていると思われる。かなり効果が出てきているのが実感できた。

 これで僕がこの眼鏡を使えば、召喚主と合わせて三時間を超える。二人で交互にゲームをやれば、召喚時間を目いっぱい使って、建設を楽しむことが出来るだろう。

 協力して理想の世界を作りあげる日も近づいたようだ。


 コンビニに、書店に、ゲーム屋さんに……。ああ、それとせっかくだから今回の離宮も作りたいな。広がった僕の世界をぜひ彼女にも見てもらいたい。召喚主に見せるためにしっかりと隅々まで漏らさず覚えていこう。ゲーム内で寸分たがわず再現できるように。うん、そうしよう!

 やりたいことがいっぱいだ!!

 脳内で離宮の建設予定地の視察を進めながら、召喚再開後の計画を立てていく。召喚が再開される日が楽しみでたまらない。つい、表情が緩んでしまう。

 そして――。

 そんな僕を。呆けた顔のセイレーンが見ていることにはまったく気が付かなかった。




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