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101 3D酔い防止眼鏡を作ろう(王子視点)
しおりを挟む翌日。はぐれセイレーンの出現場所へと行くことにした僕は変装をした。
魅了堕ちして幽閉されている僕が、魅了魔法を扱うセイレーンの元を訪れるというのは流石にまずいと考えたからだ。
変装に使うのは、そう! 召喚主が言うところの王子専用眼鏡。召喚主が僕を観察し、彼女が吟味したうえで調整に調整を重ねた至高の一品だ。
彼女が指示し、僕が魔法で微調整を行っていたからほぼセルフサービスではあるが、気に入っているので役にたって嬉しい。お忍び用にとせっかくカスタマイズしてもらったが、幽閉中の身では使う機会などなかったからな。
今までは召喚主が乙女ゲームに夢中になっていて僕を構ってくれないときに着用し、眼鏡好きの彼女の周りをウロチョロしてこっちを見てもらうイタズラに使うのみだった。
アレはアレで楽しかったけれど、あまり建設的ではないし、いい加減そろそろ怒られそうな気もしている。
この眼鏡の本来の用途がお忍びの変装用だから、そういった意味では今回が初装備だ。
ただ、効果があるかはハッキリ言って怪しい。今、暮らしている離宮には王国人は僕しかいないから。
あまりに離宮が利用されないので、働く者は全て現地採用となっているそうだ。僕の管理が緩いのもそのせいもあるのかもしれない。
そんな訳で僕の容姿は島では少し目立ってしまうらしい。でもまあ、こういうのは気の持ちようだからな。堂々とこっそりすれば問題ないだろう。
一応はちゃんと変装もしているのだから!
はぐれのセイレーンが現れるのは沖にある岩礁地帯。
小さなボートを使い手漕ぎで向かうのでかなりの時間と体力が必要だった。昨日の釣り人に頼み込み、船酔い防止の釣り竿を貸して貰ったので酔うことはなかった。
体験したからこそ分かるこの効果。すごい。これは期待が高まるぞ。
大きめの岩礁の上にセイレーンはいた。上半身は人間で、下半身は魚。話に聞いていた通りだった。島民との容姿の違いに警戒したのか、どうせ貴方みたいなイケメンは元婚約者みたいに私を捨てて妹を選ぶのよ、とか訳の分からないことを言っていたが、地道な交渉の結果、協力してもらえることになった。
道具に魅了魔法を付与すれば、使用中はほとんどの状態異常が無効になるから、おそらくは3D酔いも起こらない――そうだ。素晴らしい。
とりあえず僕も釣り竿に魅了魔法を付与してもらえばいいかと思っていたが、酔いを防止するためには目的の行動を取る際、魅了魔法を付与した物を常に身に付けている必要があるらしい。だから付与する道具を選んでいるとの事。
漁師は漁具に。釣り人は竿に。
なるほど。確かにそれらには常に触れていることだろう。
それだとゲーム中はコントローラーを持っているので釣り竿は邪魔になる。
考えた結果、今かけている眼鏡に酔い防止の為の魅了魔法を付与してもらうことにした。
これならかけっぱなしでいいので両手が空くし、ゲーム中も自然に身に付けていられるだろう。魅了効果でゲームに集中できるし、何より、召喚主が選んでくれた眼鏡を有効利用できる。
おまけに怒られることなくあのイタズラも自然に続けられる。
良いことずくめじゃないか。
ただし。
「私は陸へは近づけませんし、『実際に眼鏡を使用した状態』で魅了をかける必要があるので、付与中は貴方にココに通ってもらわなくてはなりません。そして、プレイ動画とやらを見ながらの付与を行うことになります。その際、徐々に治まっては来るでしょうが、付与が終わるまでは酔いも起こります。そして、毎日歌声を聞かせたとしても二カ月程度の時間がかかります。強い魅了をかければ期間は縮まりますが、私の体への負担も大きいし、貴方の精神面にも影響が出ますのでそれはお勧めできません。どうなさいますか?」
はぐれセイレーンの言葉に僕は息を飲んだ。
ここに来て僕は選択を迫られたのだ。
早く塔へと幽閉されたい。
そして、異世界に召喚してもらってゲームがしたい。
でも、3D酔いがあるから思う存分は遊べない
眼鏡に魅了魔法を付与してもらえば3D酔いをすることなく遊べるようになる。しかしそれには二カ月もの時間がかかる。
しかも、その間は再び3D酔い状態になってしまうから体調不良を疑われ、塔に戻るのは確実に遅くなる。
そうなるといつ異世界に召喚してもらえるかも分からない。
早く帰ることを目的とするならば間違いなく前者だ。
時差ボケも克服したし、3D酔いもコントロール出来ている。このままいけば来週には僕の希望通り、再び塔へ幽閉して貰えるだろう。
しかし、長期的に考えると……。
短期目線で考えるか。長期目線で考えるか。
僕が出した結論は――。
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