上 下
99 / 312

99 はぐれセイレーンと魅了魔法(王子視点)

しおりを挟む

 ――で、僕は海辺まで見に行った。

 いや、ホラ。危険だって分かってはいたけれど放っておくのも後々気になるし。僕は自分でも駄目だと分かっているけれど、気になったら最後まで確認しないといられないタイプ。

 一応ここは僕の国の管理下にあるし、魅了魔法や魅了スキルの使い手が好き勝手をやっていたら問題だろうとの考えからだ。
 あと、やっぱり純粋に気になるのもある。怖いもの見たさだろう。

 何だかんだ怖い怖いと言いながら、桜も毎日見に行っていたしな!


 近くに漁港があったので行ってみると、先ほどの船が丁度戻ってきたので近寄った。やはり魅了の気配がするが――船には釣り人しか乗っていない。

 話を聞くと、職業としての漁師ではなく純粋な釣り人らしい。結構な量が釣れているが素人だそうだ。

 他国……というか、僕の国である王国への輸出用以外は、こうして自給自足で魚を取って夕飯のおかずにしているそうだ。この辺ではみんながそうなのだと言っていた。

 そして――続いて語られた話に驚いた。


「やっぱり少し沖に行った方がより大物が釣れるからねえ。まあ、船酔いが心配だけど、セイレーンの釣り竿があるからそれは大丈夫」

「セイレーンの釣り竿? セイレーンというと、あの、船乗りを歌声で惑わすという魔物の??」

「おうよ。悪名高い魅了の歌声を持つ魔物だけどよ、この辺では珍しくはぐれのセイレーンが棲みついててさあ。でも、歌声に漁の邪魔されちゃ商売上がったりだろ。彼女も彼女で、群れから離れて安定した終の棲家を求めていたから、協定を結んだんだ。ほら、歌声を聞いて魅了状態にある船乗りは船酔いなんてしないだろ。その効果を利用して、漁具や釣り竿に歌声で魅了魔法をかけてもらって船酔いを防止してるんだよ。おかげで漁師は魅了効果でより仕事に集中できるし、俺も何時間だって船釣りが楽しめるってもんさ! 磯釣りもいいけど、やっぱ大物を狙いたいからな。やっぱ船だよ、船! 見ろよ、このでっけぇ魚。すげぇだろ。セイレーン様様だよ。だから、セイレーンだけは王国の魔物排除魔法からこっそり外してもらったんだ。まあ、大っぴらにはできないけどな。他のセイレーンに気付かれたら狙われ放題だし。内緒、内緒。ってか、兄ちゃん王国の人だろー。カッコいいもんな。はぐれのセイレーンちゃん、惚れっぽいけど悪い子ではないからイジメるなよ。交渉次第だけど機嫌がいいとあの子、魅了での入れ食いも付与してくれるんだからな。いいか、本国にはチクるなよ」

 ほれほれ、と大漁の魚を見せつけて嬉しそうな釣り人。お裾分けと口止め料だと言われ二匹ほど大きい魚を貰ったので素手で持って帰ったら離宮のメイドが慌てていた。

 魚は塩焼きにして出してもらったらとても美味しかった。運動をしたせいか、食欲もあるようだ。


 やはり運動は素晴らしい。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、幽閉されちゃいました!!~幽閉された元男爵令嬢に明日はあるか?~

ヒンメル
恋愛
公爵領に実質幽閉されることになったリリア・デルヴィーニュ(旧姓リリア・バインズ男爵令嬢)。 私、ゲームのヒロインだったはずなのに何故こんな事になっているの!!おかしい!!おかしい!!おかしい!! ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」のBL色強めの番外編「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」  (https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/974304595)にも登場していたリリアのその後の話です。BL的な話はなく、淡々とリリアの日常を書いていく予定なので、盛り上がり(鞭とか鎖とか牢獄とか?)を期待されている方には申し訳ないですが、(たぶん)盛り上がりません。 「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」ががっつりBLになってしまったため、話が読みにくいとおっしゃる方がいらっしゃるかと思うので、最初に簡単ですが、登場人物の説明を入れました。 いきなりこの話を読んでも大体はわかりますが、わかりにくいところがあると思います。登場人物説明を読んでから、第一話を読んでいただければと思います。 ※小説家になろう様でも公開中です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...