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85 偽王子(腹黒)はお疲れの様です

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「いらっしゃい王子。疲れた顔してるねー。先に昼寝する?」

「そうですね……」


 あれからすぐに、迷っていた大きめサイズのビーズクッションを購入した私。

 自分で使ってみたけどなかなかいい。体が沈み込むのでクッションというよりソファーっぽい座り心地。

 座ったら動きたくなくなっちゃうんじゃないかと思って買うのを迷っていたけれど、これに座りながらのゲームとか、実際やってみたら最高だった。早く王子にも使わせてあげたい。

 偽王子(腹黒)もこのクッションを相当気に入ったようだ。

 召喚されて来るなりそこで昼寝して、そのまま帰ることすらある。いや、何しに来てるのよ……とは思うが、無駄にネチネチ質問攻めに遭うのもストレスなので、コレはコレでいいと思う。

 それに、本物もお腹いっぱいになったり3D酔いしたりするとしょっちゅうお昼寝していたしね。うん。そう考えると一番偽者としての精度は高い気がする。年齢設定くらい合わせろとは思うけど。

 そして、この腹黒さんは来て早々眠りこける姿からも分かるように非常にお疲れのようだ。眼鏡を外して、クッションに体を沈めると同時に即、寝落ち。

 何とな~く前の二人の上司っぽい雰囲気がするから色々と大変なのかもしれない。

 痩せているというか窶れている感じが窺えたので、この偽王子にはエナジードリンクと共に健康を考えた系のおやつを用意することにした。その結果、栄養価が高くクッキーみたいなお手軽に食べられるものに興味を示したのでそれにした。

 あまり食事には興味がないらしいが、この場で食べなくても持って帰るくらいには気に入っているみたいなのでコレでいいのだと思う。その効果かどうかは知らないが、少しは健康になってきたように見える。いや、まだ一週間くらいだからそこまでの変化はないけれど。

 とか思って寝顔を眺めていたら、パチリと目が開いて視線が合った。


「あ、王子、おはよう」

 びっくりはしたけど挨拶は大事。すると向こうも「お早うございます」――と挨拶を返して体を起こした。

 おっと寝起きがいいですね。王子と違って。

 でも、いいことだと思うのでそれは言いません。どうかそのままでいてください。ってか、コレは王子の方が偽者さんに寄せるべきだと思う。


 起き上がった偽王子がやたら腰を捻ったりしている。グッスリ寝すぎたようだ。肩やら腰やらを擦っているので痛むらしい。


「あ、王子。今日も湿布貼る?」

「ええ……お願いできますか」

「オッケー。んじゃ、ローブ脱いでね」


 これはここ数日ですっかり習慣づいたこと。よっぽど疲れているらしく寝返りも打たず眠りこけるので腰に来るようだ。そういう時は湿布を貼ってあげている。

 ローブの下は地味目の騎士服? みたいなの。王子の物とは質も色も違うが、機能的ではありそうだ。ローブを脱いで上着も脱いで、シャツもまくってもらったら湿布を貼ってやる。

 無防備に背中を見せてくれるとか、最初に比べたら随分心を開いてくれたなあ、と思うのだけど。


「べ…別に、信用したわけではありませんよ。貴女への警戒を怠っているわけじゃないですから」


 とか、そんなことを言われた。あれ? 心の声でも漏れていたか? うーん。たぶん前の二人と違ってこの人、色々気が付いているっぽいんだよな。でも、見て見ぬフリをしてくれるならそれでいいか。

 サクッと消されるのが怖かっただけだし。


「……とりあえずこの件については様子見をさせていただくことにしました。なので、今まで通りにお過ごしください。貴女が何を知っているのか。どこまで知っているのか。場合によっては消すこともあるのでソレはお気を付けくださいね」


 湿布を貼る背中越しに、淡々とそんなことを言われた。忠告、というヤツだろうか。

 湿布を貼り終わり、眼鏡をかけた後はもういつも通りだった。食えない感じの腹黒眼鏡。ニコニコ笑顔がいい感じに嘘くさい。

 ちなみにお昼寝中、こっそり眼鏡のお手入れをしているのでその仕上がり具合をしっかりとチェックする。

 うん、問題なし。年齢不詳ながらもイケメン度合いが上がっていますよ! 王子とは方向性が違うけど!!



 まあ、でもさ。こんな感じのこと言われたら危機を脱したって思うよね。あ、そろそろ王子帰ってくるのかなって思っちゃうよね。

 翌日の召喚時。現れたのは腹黒さんじゃなかった。
 王子でもなかった。


 召喚されてきたのは久々の偽王子(猫耳)。彼からの機密情報垂れ流しによると、王子はあと二週間くらいで戻るそうだ。

 やっと会えるかもと思っていただけに少しガッカリしたけれど、帰ってくる時期は大体分かったし、久しぶりの猫耳に癒されもした。だから正直油断した。


 そんな偽王子(猫耳)が久しぶりにやってきて。気まぐれに選んだのはクラフト系ゲーム。
 王子扱いを心掛けていた私はとくに警戒もせずにゲームを起動させてしまった。

 機密情報満載の。塔やら、城やら、消されかねない情報が満載のデータがそこにあるというのに。

 それをうっかり王家の影ともいえる人にやらせてしまった。


 それがまさか、あんなことになるなんて。


 私が本当の意味で追い詰められるのはこれからだったのだ。




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