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74 鈴木さんと心の妹(前の召喚主視点)
しおりを挟む俺は自分のオタ趣味を小馬鹿にしてくる理解のない姉たちに囲まれて育ったせいか、昔から妹に対しての憧れが強い。そんな中での『お兄ちゃん』呼びだ。ああ、もう録音しておけばよかった。いや、大丈夫か。きっと忘れることはない。
なにせ相手は現状、妹にしたいランキングトップの心の妹だ。その他は全て二次元だから唯一のリアル妹ともいえる。血縁はまったくないが。
彼女とは趣味も合うし俺と価値観も近いと思う。まさに理想通り。ああ、本当にこんな妹がいればいいのになあ。妹だったらなあ。めっちゃ可愛がるのに。
……ってか、もう妹でいいんじゃないかな。そうだ。心の中でどう思おうがそれは俺の自由。心の妹として存分に可愛がればいいんだ。血縁なんてあってもなくても関係ない。
そうさ! ちゃんと立場を弁えて心の中で愛でる分には問題ないはずだ!!
俺は携帯電話の彼女の登録名をスポーツドリンクの女神から心の妹へと正式に変更した。当初は名前をそのまま入力することも考えたが、それだと少し余所余所し過ぎる。
俺にとって彼女は女神であり心の妹でもあるのだから。
そんな大事な心の妹である彼女の姿が最近見られない。
働き者の彼女は結構な頻度で早朝にバイトを入れているのに。
残業になるたび俺は彼女に癒されていたというのに。
もう一週間近くも妹の安否を確認できていないのだ。残業の辛さなどどうでもいい。それよりも心のお兄ちゃんとして妹が心配でたまらない。
電話をすることも考えたが……流石にそれはやりすぎかもしれない。そうだな。ここはメールだ。親し過ぎず距離を取りすぎず、ごく自然な形で連絡を取れる。
ようやく仕事もひと段落ついて、今日、明日と俺も連休だ。今は早朝。コンビニに寄って今日も彼女が居ないのは確認した。そろそろ電車も動いているし、一度帰ってゲームでもして仮眠を取って、あまり遅くない夜にでもメールをしてみるか……と、思っていたのだが。
夕方。仮眠を取っていたのだが、何かとっても嫌な予感がして目が覚めた。
まだ明るいのに。何かあった訳ではないのに。俺のお兄ちゃんセンサーがビシバシ反応をしている。俺の大事な妹に危険が迫っているような。取り返しのつかない事態に巻き込まれてしまいそうな。
いけない。彼女は俺の心の妹だ! お兄ちゃんとして、俺が守ってやらなくては!!
そんな気持ちを込めて込めて込めまくって、それでいて彼女に変な風に思われないように社会人として当たり障りのないような内容でメールを送った。
予定よりちょっと早いがまあいいだろう。安否確認だけでもしたい。
結果。彼女は無事だった。大学で夏休みの集中講義を受けるためにバイトを休んでいたらしい。
……そっか。そうだよな。彼女はまだ学生さんなのだからそういうことだってあるよな。俺だって、大学在学中は長期休みに集中講義を取ったりして――そういえば、あの時もあの王子に……いけない、いけない。もう何年も昔の話だ。蒸し返すのも良くないな。
とにかく今は講義終了後で、大学の先輩とケーキ屋さんでお茶をしているそうだ。邪魔しちゃって悪かったな。そうは思うが、先ほど覚えた妙な焦りは消えている。メールをしてよかった。
うん。とりあえずはもう大丈夫。そんな気がする。
何故だかは分からないが、俺のコレ系の勘はよく当たる。かつて憎き姉に大事なコレクションを捨てられた時も、何やら嫌な予感がして、嫁にしたいキャラランキングトップのフィギュアだけはたまたま別の場所に隠しておいたのだ。
おかげで嫁だけは死守できた。なので、勘でもなんでもいい。利用できるものは利用して、俺は心の妹を守ってみせる!
とか、彼女からの返信メールを読み進めつつ決意を新たにしていたのだが。
『鈴木さん、また残業続きだったんですか? 徹夜が得意だからって、あまり無茶しちゃダメですよ』
――そんな一言に俺は再び癒された。
いや、もう、どんだけ俺の理想に沿ってくれるんだよ。俺の妄想から飛び出してきたんじゃないのかこの子ってくらいの仕上がりだ。優しい。俺の心の妹、超かわいい。
しかし、おかしいな。俺、彼女に徹夜が得意とか言ったっけ? 確かに昔からかなり寝付きも寝起きもいいし、無理が利く。なので、結構ゲームや仕事で無理を重ねてきたけれど。
今まで誰もそんな事言ってくれなかった。気の合う後輩ですら、仕事が終わるとさっさと帰る。昨日もゲームのイベントがあるからと、最低限だけ仕事を終わらせてアイツはとっとと帰って行った。残りの仕事は翌日大急ぎで仕上げるそうだ。
事実、間に合ったと先ほど携帯に連絡が来ていた。分単位で納期ギリギリとか俺には無理だ。アイツの異常なまでのメンタルの強さは俺も見習うべきかもしれない。いや、やっぱヤダな。心臓が持たない。
何はともあれ、心の妹の安否は確認できたので一安心だ。しかも、心の妹から仕事の心配をしてもらえるとかとんでもないご褒美までついてきた。よし、このメールは保存しよう。
今回はただの勘違いだったみたいだけど、俺の嫌な勘は結構な確率で当たるから、これからもお兄ちゃんセンサーが働いた時は躊躇せず動こうと思う。勘違いなら勘違いで、俺が変な目で見られるだけだからそれでいい。
大丈夫!
心の妹のことは、どこにいようと何をしていようと、(心の)お兄ちゃんが守ってやるからな!!
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