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73 鈴木さんとモーニングコールの思い出(前の召喚主視点)
しおりを挟む学生にとっては夏休み。とはいっても社会人である俺にはそんなものは関係ない。休みがとりやすい時期ではあるが、何だかんだと家庭がある者優先だし、人数が少なきゃ少ないで、急ぎの仕事がある場合には残業になったりもする。
ここ最近は海外案件の仕事が続いていて時差の関係で残業になることが多かった。でも、お陰で自身の夏休み前にはある程度の目処がつきそうだ。
そんな中。俺にとっての癒しの存在であるスポーツドリンクの女神改め『心の妹』の姿が最近見えない。
残業はつらいが、朝食を買うために訪れる早朝のコンビニで彼女に会えるのをちょっとだけ楽しみにしていたのに。
大袈裟かもしれないが彼女は俺の命の恩人だ。熱中症を起こしかけているところを渡されたスポーツドリンクで救われたし、残業で顔を合わせるたびにお疲れ様ですだの、お仕事大変ですねだの、声をかけてもらえるのが少なからず癒しになっていた。
そんなある日。急な出張でかなりの早起きをしなくてはならなくなり起きられるか心配していたところ、彼女が親切にもモーニングコールで助けてくれた。
かなり昔の話だが。入社したての頃、同じような出張であの悪魔……王子に目覚まし時計をいじられて、寝坊をしたことがある。始発に間に合わずタクシーを使う羽目になった時の心と財布の痛みは今も忘れられない。
おかげで恐怖心から眠ることが出来ず、早朝からの出張はかなり無茶な徹夜で乗り切ることが多かったのだが。雑談の中、そんな事情を知った彼女がモーニングコールを引き受けてくれたのだ。
あの時の感動は忘れられない。
♪♪♪~
「……はい、鈴木…」
『あっ、鈴木さんお早うございます』
「ああ……うん。起き……(うとうと)」
『あっ、まだ寝てるでしょー。ダメですよー。ほら、しっかり起きて! お兄ちゃん……じゃなくて鈴木さん!!』
「……今、なんて」
『あ、起きました?』
「いいから、今なんて?」
『鈴木さん?』
「もっと前!!」
『しっかり起きて?』
「その後!!!」
『お兄ちゃん……? あ、すいません。よく兄にも電話してるんでついうっかりと間違えて』
「素晴らしい」
『え?』
「あ、いや。素晴らしい寝覚めだった。おかげでしっかり目が覚めたよ。ありがとう!!」
『あ、そうですか? ふふふ。じゃ、気を付けて出張に行ってきてくださいね。お兄ちゃん……じゃなくて、鈴木さん。じゃあ』
……お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん…………
あまりの嬉しさに泣きたくなった。こんな形で憧れの『お兄ちゃん』呼びが味わえるなんて。
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