魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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82 偽王子(大)の恩返し

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「いらっしゃい。王子、コーンフレーク食べる? チョコとプレーンどっちがいい?」

「……両方」

「オッケー。おやつ食べて待っててね」




 あれから約一週間。私は偽王子(大)の取り扱いにようやく慣れた。前の偽者よりはるかに時間がかかった。
 いや、だって。この人、口数少ないんだもん。

 語るに落ちる偽王子(猫耳)に比べたらいいのだろうけど、いや、もう、何でこう両極端なの。この人、トイレ行きたいのに言わないし。モジモジしつつ、ゲームに集中できないのを見て、ようやく気が付いたわ。

 さりげなくトイレに案内したり、それとなく使い方を教えたり、無駄に神経使ったわ!

 前の偽者は気にせず分からないことはバンバン質問してきたのになあ。


 とにかく、困ったことがあってもこちらから聞かない限り口には出さないから全てにおいて察するしかないというおもてなしにとっては超ハードモードだった。

 そんななか。前の偽王子(猫耳)と同じくエンドレスにお菓子を食べ続けるので食事に問題があるのかと思い聞いてみたら、塔での食事が足りないらしい。

 ああ……まあ、そうだよね。見るからに筋骨隆々だし、日頃の運動量も違うだろうし、王子と同じ食事量で足りるわけがない。と、いう訳でこの偽王子にもおやつの他に軽食を出すことにした。

 そして、反応を見つつ行きついたのがコーンフレーク。手軽に食べられるのが気に入った……のだと思う。いや、気に入ったのは表情で分かったけど理由は言わないし。

 他にも色々食べさせてはみたけれど、コレの反応が一番良かったから、あまり深く考えないことにした。


 おやつはやはり甘いものが嬉しいようだ。それでいて、飲み物は甘さ控えめのミルクたっぷりコーヒーがいいらしい。おやつを楽しみ、軽食を摂り、ゲームで一勝負した後は。


「……何か手伝えることはあるか」


 と聞いてくる。コレだけが、唯一口数が少ない偽王子からの自己主張かな。最初のうちはただただ、反応を見ながら一方的におもてなしをしていたんだけど、途中で部屋の電気が切れちゃって、蛍光灯を換えるのを手伝ってもらったことで空気が変わった。

 流石は長身の偽王子(大)。ちょっとした踏み台を使うだけで、楽々と天井の照明器具に手が届く。自分で交換しようと思ったら椅子を出さなきゃいけないし、カバーも結構重いので外すのだけでも大変なのだ。


「お手伝いありがとう。助かっちゃった!」


 そう、お礼を言ったら、向こうからお手伝いはないかと聞いてくるようになった。そういえば、本物の王子もしょっちゅう洗濯物を畳んでくれていたなあ。

 おっと、発見。共通点☆

 良かった。見た目性格、全然似ていないけど、気遣い面での類似点が出てきた。

 偽王子(大)にはあれを頼むか。乾燥機役は頼まない。本物と同じ魔法を使えるか分からないから危険は避けたい。サクッと消されたら嫌だから。
 まあ、今の時期なら魔法を使わなくても、おやつの時間には洗濯物も乾くよね。

 そして偽王子(大)はタオル畳み機能を搭載した。
 いいね、いいね。似てきたよ! その調子で王子のフリを頑張って!!


 大丈夫……! 例え偽者だとしても、お手伝いを喜んでやってくれるいい人とはきっとうまく付き合っていける。
 本物の王子が戻ってくるまでの間、私に偽者だとバレているのをバレずにやり過ごせる……!


 ……と、思っていたのに。



 ――まさか最後の最後で、あんな手強いのが召喚されてくるなんて思ってもみなかった。




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