魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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79 偽王子に栄養を

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「いらっしゃい。今日はツナサンドとツナマヨおにぎりどっちにする?」

「ツナマヨおにぎり!!」

「オッケー。おやつを食べて待っててね」


 おやつを食べつつ、ご機嫌でゲーム機をセットする偽王子。
 ……やっぱ本物に似てきた。



 あれから約一週間。私は偽王子(猫耳)を召喚する生活にすっかり慣れていた。相変わらず本物の王子は現れず、来るのは既に見慣れた完成度の低い偽者ばかり。

 偽王子(猫耳)のちょいちょい、機密情報をぶっこんでくるクセは相変わらずだが、私もサラリと受け流せるようになったので問題はない。そして、彼からもたらされる情報の中には王子の近況もあった。

 どうやら、離宮は塔からかなり離れているらしく、時差ボケに苦しんでいるらしい。そのせいか、生活リズムが崩れ、体調が戻っていないようだ。3D酔いからはとっくに解放されている筈なのに。まあ、でも王子の世話をする人たちはそんな事知らないだろうしなぁ。
 これは少し長期戦を覚悟するべきなのかもしれない。

 そうしたらそうしたで、懸念事項があった。




「うまぁー、うまぁー。表面に少しだけ塩味付いたツナマヨおにぎり最高。お茶も美味しい。コレ、合うな」

 偽王子はサッと作って出してやったおにぎりを美味しそうに頬張っている。

 この偽王子はやたらお菓子に食いつくなー(物理的に)と思っていたんだけど、ちょいちょいこぼれてくる機密情報から察するに、幽閉中の塔での王子用の食事が口に合わないらしい。

 そのせいで、若干飢え気味だったのだ。

 あの、警戒色を一転しての、驚異的な懐き方は今から思うとそれも関係しているのかもしれない。餌付けをされている状態というか。

 まあ、昔、ケガをした捨て猫を拾ってきた時に苦労したものなあ。好き嫌いが激しくて、仔猫用のご飯もミルクも食べないし飲まないし。色々工夫して食べさせてたっけ。結局はケガが元で死んじゃったけど。うっ。涙が。

 とにかく、偽王子には食事が足りていないようなので、おやつと共に軽食も出すことにした。

 ただ、やっぱり猫耳のせいか気まぐれなところがあるので、いくつか種類を用意して、今日みたいに召喚をしてから本人にメニューを決めてもらっている。食べたいものを食べた方が食欲だって出るだろうし。

 とはいっても、アチラとコチラでは食べ物も何もかも違う。偽王子に至っては種族すら違う。最初は探り探りだった。

 結果、どうやら消化器官は割と人間に近い上に丈夫な事と、魚系が好きなことが分かったので、メニューはそちらに寄せている。

 ちなみに。偽王子が選ばなかった方は私の夕食になります。と、いうわけで、今日の私の夕飯は余りもののツナサンド。そして昨日はおかかオニギリだった。


「ふわぁあ~……」

 食事後しばらくお気に入りのゲーム(落ちゲー)をやっていたが、飽きたのか食事を摂って眠くなったのか居眠りをし出した。ベッドに寄りかかって本を読みながらそれを見ていたのだが、ふと気が付いたら私の太ももに頭を載せてスヤスヤと眠っていた。

 いや、自由だな、おい。

 とはいえ、時折猫耳がぴくぴく動くのも可愛いし、何といっても私は末っ子。こうやって、年下(多分)に甘えられるのはちょっと……嬉しかったりする。

 昔から、家に遊びに来る親戚の子供達を構い倒していたもんなあ……。みんな、成長しちゃって来る頻度減ったけど。

 何にしても、一人暮らしを始めてからはアパートでペットとは無縁の生活を送っていたし、猫耳だけとはいえ、触れるのは嬉しい。最初は嫌がっていたものの、耳掃除をしてからは……ああ、そうそう。偽王子(猫耳)のやたらとでかい声の原因は耳の汚れだったようだ。

 初めて召喚されて数日。耳の汚れが気になって、ぬるま湯とガーゼで優しく掃除をしてみた。そうしたら、聴力が戻ったとかで、声の大きさも普通になった。

 どうやら、耳の汚れが気になっていじっている間に炎症でも起こしていたようだ。最初は触れさせてくれなかった猫耳も、こうやって昼寝をしている間に少し撫でるくらいなら嫌がらなくなった。

 もしかしたら炎症のせいで痛みでも出ていたのかもしれない。それが引いて、触らせてくれるようになったのかな? 何はともあれやりすぎは厳禁。ちょこっとだけ撫でて、後は我慢。猫ちゃんは繊細だからね。

 いつ、王子が幽閉中の塔へと帰ってくるのかは分からないけれど、それまではこんな感じで猫耳に癒されながら穏やかな時間を過ごすんだろうな。



 …………と、警戒心を緩めた自分に注意をしたい。


 影だから。すっかり懐いていたって、この子、特殊機関っぽい何かの一員だから。王子の身代わりをやっているものとばかり思っていたけれど、そういえば生活環境チェックがどうとか言っていたような気もするし、そこに異常があればこの子の上司だって気が付くわけで。

 そして、この召喚生活とやらは明らかに異質と判断されたのだろう。


 この翌日。いつも通りにおやつと軽食を用意して王子を召喚したのだが、そこに現れたのは――。




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