上 下
76 / 316

76 偽王子現る

しおりを挟む
「えっ!? ちょ、な、なに!? 王子が離宮に送られている間、周囲にバレないように塔の中で身代わりをするだけの簡単なお仕事だった筈なのに。王家の裏の仕事を司る影として、オレは完璧に王子の姿を再現してたよな!? 大丈夫、オレは擬態魔法だけは得意なんだ。誰の目にもオレの姿は王子に見えている筈だ。声も、姿も、完全に擬態した。念の為今日から魔力も王子の物と同調させたけど、そうしたら急に魔力がごそっと減って、変な所に飛ばされたぞ!? いったい何が起こっている!? いい機会だからと追加任務として王子の魔力の痕跡を追って、塔の中の過ごし方や生活環境チェックのために、生活動線通りに動いていただけなのにいったいここはどこなんだ!?」


 怒涛の独り言で理解した。

 召喚されてきた魔法陣ラグの上で。わいわい、ぎゃあぎゃあ、騒ぎ立てている偽王子――これは王子本人ではない。
 ってか、本人(偽)が言うほど似ていない。悲しいくらい共通点がいっさい見つけられない。


 青味がかった薄い金髪に透明感のある濃い青い目の一見冷たく見える美貌の王子――


 に対し。


 ふわふわと柔らかそうな黒髪にオッドアイ。
 そして――何より頭に付いた猫耳が警戒心も露わに伏せられている。どう見ても漫画や小説やゲームで見る『獣人』のその姿。


 いや、身代わり用意するなら種族くらい揃えようよ!? 王家の影さんやる気あんの!?


 一目で別人だとしか思えないが何故か偽王子(猫耳)は変装に自信があるようで。


「まあ、魔力の往復した形跡もあるし、これも王子の日常生活の一部ってことか。これも含めて調査だな。大丈夫、オレは誰がどう見ても王子にしか見えていないはずだし。バレたらバレたでサクッと消せばいいんだ。問題ない。オレは、堂々と王子として、王子の日常生活を過ごせばいいんだ!! よし、落ち着いた!!! オレは落ち着いた!!!」


 元気な言葉と共に、可愛い耳がぴょこんと通常に戻った。

 王子とは体の大きさすら違う偽王子(猫耳)。3番目のお兄ちゃんより少し大きい印象の長身の王子と比べて、目の前の偽王子はどう見ても小学生~中学生くらい。

 イケメンというよりは可愛い系か。整った顔に大きな猫目と耳が似合っていて大変可愛らしい。

 顔も体もどう見ても人間だけど、耳だけは完全に猫のソレだ。ふわっふわの耳。動物好きとしては堪らない。そうか……。いるのか……。王子の世界……獣人……。

 気分の切り替えに成功した様子の偽王子(猫耳)は満面の笑顔だ。可愛い……可愛い……けど。


 ……やべえ……。
 別人だとバレているのがバレたらサクッと消される……らしい。

 こんなに再現率低いのに!!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...