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70 先輩と鈴木さんとモーニングコール

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「いやー、助かるよ。しっかりノートをとっていたはずなんだけど」

 昼食を終え。午後の講義に備え早めに講義室へと戻った私は先輩に自分のノートを写させていた。お昼前には完全に寝落ちをしていた先輩。念のため先輩のノートをチェックしてみると、前半部分は頑張っていたようだが、後半に行くにしたがってノートの内容が怪しくなっていく。

 先輩は完全な夜型人間なので、頑張って早起きをして一限から来ても、しばらくすると居眠りをしてしまうのだ。普段からソレで悩んでいるらしい。昨日までの講義でもそうだった。

 とりあえず、昨日までも同じように私のノートを写させてあげたんだけど、日頃はどうしているのだろう? 友達に写させてもらっているのかな?

 まあ、今日は最初のうちは目が覚めていたようなので、ノートを写すのもそんなに時間はかからなそうだ。とはいえ、このノートも提出するかもしれないし、写すなら早い方がいい。

 いい加減なノートの内容も気にはなるが、一昨日、昨日、今日と講義が進むにつれ先輩が大学に来る時間が後ろ倒しになっているのも気になるところだ。今日なんか講義が始まるギリギリだった。
 とはいえ、先輩が午前中に大学に来ていること自体が奇跡に等しいのであまり強くは言いづらい。

 ノートの写しが概ね終わったところで聞いてみると。


「この講義一限からあるだろ? 実は、早起きできる自信がなかったから、少しずつ夜型方向へずらして一周させたんだ。ただなー。上手いこと『朝』で止まってくれなくてなー。目覚ましかけても止めちゃうんだよ。今日は何とか起きられたけど、明日は……どうかな」


 今は、二周目へと入る瀬戸際らしい。なんてことだ。あと一日でこの講義も終わるっていうのに。

 担当教授は遅刻、欠席に厳しいし、ここで挫折したらせっかくあの夜型の先輩が早起きしてここまで頑張ったのに無駄になってしまう。後輩として何とかしてあげたい。何とかならないものか……。あっ、そうだ。


「それなら、私がモーニングコールでもしましょうか? 朝、先輩が起きるまで電話をかけ続けてあげますよ」

「モ、モモモ、モーニングコールって、そんな、家族とかこ、恋人とか特別な存在にやるものだろ? ただでさえ忙しい朝にわざわざ……その、俺の為に?」

「バイトはお休みだから大丈夫ですよ。早朝バイトを続けるためにも、バイトがない日も早起きはしているので、電話をかける時間くらいいくらでもあります。ってか、自然に起きちゃうんですけどね。私、朝が強いからたまにお兄ちゃん達にもモーニングコールを頼まれるんですよ。どうしても、早起きしなくてはいけないときなんかに頼まれてよくかけてます。だから、先輩もモーニングコールくらい遠慮しなくていいですよ。なんなら鈴木さんにもしてあげたことあるくらいだし」

「は? 鈴木さん?」

「バイト先のコンビニのお客さん――あ、教授来た」

「おい、ちょっと待て、ルカ。ソレ、どういう……ああ、もうっ」



 教授が来たことで会話は終わってしまったが、モーニングコールはなかなかいいアイディアかもしれない。目覚ましと違って確実に起こせるし。

 先輩は不満なのか何やら言いたそうだけど、後でしっかり説得しなきゃ。あと少しなのに遅刻や出席不足で単位落としたら勿体ないもの。モーニングコール一本で回避できるなら安いものだ。これも、履修相談なんかに乗ってもらっている恩返し。
 よし。反対されてもごり押ししよう。

 チラチラと不安そうな顔でこちらを見てくる先輩に対しそう決意しつつ、午後の講義に集中することにした。




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