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45 夜桜と召喚主2(王子視点)
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限界を極めた超高画質で記憶魔法を発動させた後。一時的に魔力が減ったせいで自動翻訳魔法が切れた。それに慌てた召喚主が、ぐいぐいとすごい力で僕を公園の外へと引っ張っていく。
最近は、こうして召喚主と手を繋いでいることが多かった。召喚主は僕が外に出るのを怖がっていると思い込んでいて、励ますために手を握ってくれるのだ。
確かに強制召喚終了を食らってからというもの、最初こそ外に出るのが怖かったが、実は今ではそうでもない。ただ、何となく与えられるその温もりが嬉しくて、本当のことは彼女に言っていなかった。
すっかり手に馴染んだ感触。いつもは自然と軽く握られているそれが、今は痛いほどに握り締められている。
自動翻訳魔法が切れたことで、慌てて僕を連れて自宅へと帰ろうとしているようだ。
決して離すまいと繋がれた手を嬉しいと感じるが、このままではせっかくの散歩が変なふうに終わってしまう。あんな神秘的な光景を見た後で、それでは少々つまらない。
「大丈夫! 大丈夫だから!! その、止まってくれ」
「でっ、でも、言葉がっ!! このままじゃ、また、王子が目の前で消えちゃう……って、あれ? 普通に会話が出来てる??」
足を止め、引かれている手に力を込めて引き止めれば、召喚主が僕を振り返った。余裕のない表情を見て。呑気に手の感触を楽しんでいたことに対して、申し訳なさを感じてしまう。
桜があまりにキレイだったから――。
うっかり記憶魔法を発動してしまったこと。
そのせいで一時的に翻訳魔法が途絶えたこと。
魔力にはまだ余裕があること。
それらを伝えたら彼女は泣き出してしまった。どうやら、思っていた以上に心配をかけてしまっていたようだ。泣きながら、僕に文句を言ってくる。
魔法陣の魔力不足で僕がこちらへ来られない間も、彼女は何度も呼び出そうとしてくれていたらしい。それを聞いて、僕は何故だか嬉しくなった。泣かせてしまっているのに、それが僕を思って流されている涙だと思うと自然と頬が緩んでしまうのだ。
ハンカチでも差し出せばいいのだろうけど、残念ながらそれは部屋に置きっぱなしの正装のポケットの中だった。仕方がないので、僕は彼女を抱き寄せた。
そして、その頼りなさにびっくりした。前から小さいな、とは思っていたけれど、腕の中に抱き込んだ彼女は華奢で、抱き寄せたはいいけれど力を入れたら壊れてしまいそうで僕は動けなくなってしまった。
いつもおやつを出してくれるその手が、家事や大学やバイトに忙しく動き回る体が、すっぽりと僕の腕の中に納まってしまって酷く落ち着かない。
ふわりと艶やかな黒髪から香る良いニオイはシャンプーとかいうやつだろうか。僕がゲームをしているときに勝手にクッション代わりにしている彼女のクマのぬいぐるみと同じ匂いがする。そうか。抱っこしていると落ち着くお気に入りのあれは彼女の香りだったのか。
腕の中に閉じ込めた柔らかく、温かい彼女の体温を感じていたら、心臓が落ち着かなくなってきた。王子教育で表面上の冷静さを保つのは訳ないが、心拍数までは抑えられない。
背の低い彼女の頭は丁度僕の胸のあたり。慌ただしく動く鼓動を聞かれたらどうしようと心配になるが、気を取り直したのか彼女はすぐに離れて行ってしまった。
それはそれで少し寂しく、勿体ないなと感じてしまう。とはいえ、内心の動揺を隠し通すためには丁度よかったのかもしれない。
「もーいいわよ。それくらい覚えておきたかったってことでしょ。桜キレイだしね! でもねえ……ふふふ。王子は、まだ、お花見の本当の楽しみ方を知りません!」
そう言った彼女の顔からは悲壮感は消えていて、すっかりいつもの通りだった。相変わらずどこか楽しそうで気分の切り替えが早い。
そして。
「これからお花見のメインイベント……宴会をしようと思います!!」
――彼女がそう言って始めたソレは非常に楽しいものだった。
最近は、こうして召喚主と手を繋いでいることが多かった。召喚主は僕が外に出るのを怖がっていると思い込んでいて、励ますために手を握ってくれるのだ。
確かに強制召喚終了を食らってからというもの、最初こそ外に出るのが怖かったが、実は今ではそうでもない。ただ、何となく与えられるその温もりが嬉しくて、本当のことは彼女に言っていなかった。
すっかり手に馴染んだ感触。いつもは自然と軽く握られているそれが、今は痛いほどに握り締められている。
自動翻訳魔法が切れたことで、慌てて僕を連れて自宅へと帰ろうとしているようだ。
決して離すまいと繋がれた手を嬉しいと感じるが、このままではせっかくの散歩が変なふうに終わってしまう。あんな神秘的な光景を見た後で、それでは少々つまらない。
「大丈夫! 大丈夫だから!! その、止まってくれ」
「でっ、でも、言葉がっ!! このままじゃ、また、王子が目の前で消えちゃう……って、あれ? 普通に会話が出来てる??」
足を止め、引かれている手に力を込めて引き止めれば、召喚主が僕を振り返った。余裕のない表情を見て。呑気に手の感触を楽しんでいたことに対して、申し訳なさを感じてしまう。
桜があまりにキレイだったから――。
うっかり記憶魔法を発動してしまったこと。
そのせいで一時的に翻訳魔法が途絶えたこと。
魔力にはまだ余裕があること。
それらを伝えたら彼女は泣き出してしまった。どうやら、思っていた以上に心配をかけてしまっていたようだ。泣きながら、僕に文句を言ってくる。
魔法陣の魔力不足で僕がこちらへ来られない間も、彼女は何度も呼び出そうとしてくれていたらしい。それを聞いて、僕は何故だか嬉しくなった。泣かせてしまっているのに、それが僕を思って流されている涙だと思うと自然と頬が緩んでしまうのだ。
ハンカチでも差し出せばいいのだろうけど、残念ながらそれは部屋に置きっぱなしの正装のポケットの中だった。仕方がないので、僕は彼女を抱き寄せた。
そして、その頼りなさにびっくりした。前から小さいな、とは思っていたけれど、腕の中に抱き込んだ彼女は華奢で、抱き寄せたはいいけれど力を入れたら壊れてしまいそうで僕は動けなくなってしまった。
いつもおやつを出してくれるその手が、家事や大学やバイトに忙しく動き回る体が、すっぽりと僕の腕の中に納まってしまって酷く落ち着かない。
ふわりと艶やかな黒髪から香る良いニオイはシャンプーとかいうやつだろうか。僕がゲームをしているときに勝手にクッション代わりにしている彼女のクマのぬいぐるみと同じ匂いがする。そうか。抱っこしていると落ち着くお気に入りのあれは彼女の香りだったのか。
腕の中に閉じ込めた柔らかく、温かい彼女の体温を感じていたら、心臓が落ち着かなくなってきた。王子教育で表面上の冷静さを保つのは訳ないが、心拍数までは抑えられない。
背の低い彼女の頭は丁度僕の胸のあたり。慌ただしく動く鼓動を聞かれたらどうしようと心配になるが、気を取り直したのか彼女はすぐに離れて行ってしまった。
それはそれで少し寂しく、勿体ないなと感じてしまう。とはいえ、内心の動揺を隠し通すためには丁度よかったのかもしれない。
「もーいいわよ。それくらい覚えておきたかったってことでしょ。桜キレイだしね! でもねえ……ふふふ。王子は、まだ、お花見の本当の楽しみ方を知りません!」
そう言った彼女の顔からは悲壮感は消えていて、すっかりいつもの通りだった。相変わらずどこか楽しそうで気分の切り替えが早い。
そして。
「これからお花見のメインイベント……宴会をしようと思います!!」
――彼女がそう言って始めたソレは非常に楽しいものだった。
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