魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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43 宴会と、来年の約束

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 スーパーに着いた時には値引きシールのオンパレードだった。王子が大好きな菓子パンを買い、いつもは買わないお惣菜をあれこれと選ぶ。

 カレーを食べさせたことはあるけれど、基本的に王子に提供している飲食物は『おやつ』が中心。なので、おかず的な物は初めてではないだろうか。

 王子の意見も聞きつつ選び、お菓子も買ったので結構な量にはなったが、半額シールがついている物が多いので量のわりにお値段は安く抑えられた。

 私は基本的に自炊なのでこういった物を買う機会は少ないが、宴会では自分だって楽をして楽しみたい。なので、たまにはいいだろう。


 家へと帰り、用意した折り畳みのテーブルの上にご馳走を並べていく。初めは不思議そうな顔で流されるままだった王子もいつのまにか積極的になり、ウキウキと手伝っている。

 そして。


「「カンパーイ!」」


 王子の大好きなコーラで乾杯をする。机の上には揚げ物やスナック菓子が並び、飲み物との相性も良さそうだ。王子は最初こそ慣れない食べ物におっかなびっくりだったが、かなり気に入ったようで次々に口へと運んでいく。

 夕飯はしっかり食べたと言っていたのにどこに入るのかと不思議になるくらいだ。
 王子曰く。


「こっちでは、いつもこんなに温かい食事が出るのだな……。美味しくて、つい食べ過ぎてしまう」


 ――らしい。

 スーパーで買ってきたお惣菜(しかも半額)をレンジで温めただけなんだけど。少し申し訳なく思ってしまうが、本人が喜んでいるんだからまあいいか。
 そんなことを思っていると。


「宴会って楽しいな。でも、コレのどこが『お花見』なんだ?」


 と、もっともなことを聞いてきた。まあねえ。本当は桜を見ながらの方がいいんだろうけど。正直、そこまでするのはちょっと面倒臭い。


「本当は、これを桜の下でやるんだよ。でも、どうせ食べ始めたら桜なんて見ないし、家の方が落ち着いて食べられるじゃない? 手も洗えるし、トイレも並ばなくていいし。何より飽きたらすぐゲームできるし」

「なるほど! それは素晴らしいな!!」


 納得がいったのか王子はご機嫌だった。

 どうやら花よりゲームらしい。あらかた食べ終わると、すぐにゲーム機の電源を入れる王子様。

 ゲームをしながらも、話題は桜のことだった。


 昼間の桜もキレイだけど、少し神秘的な夜の桜も美しい、とか。散り際の桜は胸が締め付けられるようだった――とか。


 それに関しては私も同意。満開の桜も奇麗だけど、散り始めの桜はこの上なく美しい。花散らしの強い風は残念だったけど、今日の夜桜はその分心に残ったことだろう。

 写真のような物に撮ったと言っていた王子が羨ましいと思った。撮った物を私も見たいと言ったけど、どうやらそれは脳に刻みつけるような魔法で、人に見せられるモノではないらしい。何故か、真っ赤な顔をして王子が言っていた。

 時折それを覗いているようで、とても穏やかに笑んでいた。

 あーあ。私も写真に撮ればよかったな。でも、言葉が通じなくなってそれどころじゃなかったし。まあ、焦らなくても来年があるか。


 残念ながら私は二十歳前なので、お酒はまだ飲めないし買えない。なので、王子に提供しているのもソフトドリンクのみ。でも、来年ならば年齢的にそれらを一緒に楽しむこともできるだろう。王子は既に成人していて、お酒も飲めるらしいから。


 そう思ってそれを王子に伝えたら。


「楽しみにしてる!」


 と満面の笑みだった。

 ちなみに。その後、夢中でゲーム内の自宅の模様替えを進めていた王子は部屋を電子レンジで埋め尽くしていた。

 持って帰りたい物リストに電子レンジが加わったようだ。





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