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31 魅了堕ち幽閉王子は努力の方向を間違えた(王子視点)

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 僕は塔に戻るとすぐにパジャマに着替え、彼女から貰ったジャージと靴を見つからない場所に隠した。魔力が戻り次第、認識阻害魔法をかけておいた方がいいだろう。

 正装が無くなったのは誤魔化せた。お茶を溢して、乾かそうと焦って魔力の暴走で燃やしたせいにした。

 幽閉中で自分のことは自分でやっていたのが良かった。

 いつもは面倒だからと入浴しても濡れた髪をそのままにしていたのも良かった。長い幽閉生活で、そういった姿も何度か目撃されていたらしい。

 慣れないことをするからだと適当に理解してくれたようだ。

 そのことで少しだけいいこともあった。魔力制御のための魔石をいくつか支給されるようになったのだ。

 魔石は魔道具の開発に使える。これで僕の努力の結晶ともいえる異世界召喚魔法陣ラグの改良を行える。

 しかし、それも魔法陣の魔力を回復させてからだ。長い幽閉期間で根気よく魔力を注ぎ、ようやく起動できるようになった魔法陣。

 僕が魔力を使っても自然と回復するように、魔法陣にも開発の過程で自動回復機能を付けてある。ただ、それだけだといつになるか分からないので余った魔力はなるべく補充に回した方がいいだろう。


 魔力暴走のせいにしたせいで見回りが増えた。おかげでしばらくは余剰魔力を補充することが出来なかった。

 目を盗んで補充するにしても、僕の魔力が無くなっているのが見つかったら、また魔力暴走かと思われる。これ以上見回りが増えるのは困るから、しばらくは我慢した方がよさそうだ。

 我慢しつつも、頭の中は魔法陣の改良のことでいっぱいだった。もう少し早く魔法陣を使えるようにしたい。効率を上げたい。そのためにも監視が外れたらすぐにでも改良に取り掛かりたい。

 でも、今は魔法陣の魔力がほぼ空で起動することもできない。

 少しすると安心したのか見回りの回数が元に戻った。今、出来ることは魔法陣に魔力を注ぎ続けることだけだ。

 節約して少しでも多く注ぎたい。でも――と思う。

 僕は召喚主と約束をした。入浴の後、きちんと髪は乾かすと。そうしないと二度と召喚しないと言われた。

 召喚すらできない今はそれがバレることもないのだけど、僕はそれだけはきっちりと守った。

 約束を破りまくったせいで召喚拒否され、魔法陣ごと他人に押し付けられた記憶は新しい。まあ、そのお陰で今の召喚主に出会えたわけだけど。



 前の召喚主の鈴木さんもいい人だった。

 魔法陣が不安定だったからかもしれないが、それまでの召喚ではすぐに拒否されたり悲鳴を上げられたり、なぜかお祓いをされたり。

 短期間はともかく、数日でうまくいかなくなることの方が多かった。にも拘らず、鈴木さんはたまに不安定な状態になる僕をそれなりにもてなしてくれた。

 お陰で行き来しながら魔法陣が改良できるようになり、安定した状態を保てるようになったのだ。

 お勧めのゲームをやらせてくれたり漫画を読ませてもらったり。楽しい娯楽を僕に教えてくれた彼には非常に感謝をしている。

 でも――何故か、新しい召喚主である彼女の口から鈴木さんの名前が出ると妙な気分になってしまう。彼は恩人であるし、僕にとっては好ましい人物であるはずなのに――。

 あちらの美醜は分からないが、彼は整っている方だと思う。穏やかだし、部屋も奇麗だった。宝物、とかコレクション、はいっぱいあったけど、きちんと管理されていた。

 思わず感心して説明を求めたほどだ。思えばそのあたりから彼とはより親しくなった気がする。

 彼ほどではないが、新しい召喚主も似たような収集癖があるようだ。彼は――鈴木さんは価値観が同じ人がいいとかなんとかよく言っていたから、新しい召喚主である彼女とは性格や趣味が合いそうだ。

 ……とは思うものの、何故か会わせたくないな、と思ってしまう。確実に、絶対、合うだろうと思うのに。

 それが何故なのか今は分からない。今は考えたくない。

 とにかく二人がいる世界に――召喚主(現在)の所に戻らなくては。そう思い、余剰魔力を注ぐ毎日。しばらくすると気持ちに余裕が出てきてゲームをやりたくなった。

 やっぱり面白い! 最高だ!!

 最後の最後で、持ち帰った携帯ゲーム機。召喚が再開されるまで充電ができないからと大事に使っていたが、あっという間に充電が切れてしまった。

 なんてことだ! このままでは続きが出来ない。


 何とかして充電しなくては!!




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