上 下
26 / 316

26 途絶えた召喚

しおりを挟む
 王子の召喚が途絶えている。


 靴を購入した後。王子は散歩をするのが楽しくなったらしく外に行きたがるようになった。行動可能範囲はドンドン広がって、今ではあの靴を買ったスーパーでも普通に言葉が通じるようになった。

 散歩ついでにお1人様1つまでのトイレットペーパーなどの特売品を2人分買えるようになりとても助かっている。
 なので、それはいいんだけど。

 最初は嫌がっていた癖に、何故か王子は自動翻訳魔法がオフになるギリギリを攻めだすようになった。言葉が通じなくなるたびに手を繋いでいたんだけど、ドンドン移動できる距離が伸びていた時期だったので、ついはしゃいでしまったのだと思う。


 ある時散歩中に王子が――目の前で消えた。


 1人暮らしから一年立っていないし、自宅と大学とバイト先、あとスーパーかゲーム屋さんくらいしか私も行っていなかったから、王子との散歩で初めて通った道も多い。

 だから思いのほか自宅から――魔法陣ラグから離れてしまっていたのだと思う。

 おそらく王子は魔法陣ラグへと回収されている。急いで家へと戻ったが、結構遠かったので時間がかかってしまった。

 予想通りソコにいたのだが、会話する前に消えてしまったのだ。王子が最後に見せた――迷子が親と再会した時に見せるような、ホッとしたような表情が忘れられない。

 これが王子の言っていた強制召喚終了、というヤツなのだろう。

 あれから毎日おやつを用意してラグの上へと載せているが、まったく反応がなくなってしまった。


 年末は帰省した。バイトがあったから年明けはアパートに戻った。年を越したからもしや――と思い、ラグにおやつを載せてみたが無反応だった。せっかくの冬休み。召喚を増やしてあげるつもりだったのに。


 あるとき偶然鈴木さんに再会した。バイト中のコンビニだ。私はちょうど昼間のシフトに入っていて、鈴木さんは仕事の途中に立ち寄ったのだという。

 王子を押し付けてしまったこともあり、私の心配をしてくれていたそうだ。私が元気ないようだったので、つい声をかけてしまった――と言っていた。そんなに表情に出ていたのだろうか……。

 とりあえず近況報告も兼ねて。次の休日、鈴木さんに話を聞いてもらうことになった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...