魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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19 王子召喚と食欲の秋

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 食欲の秋です!
 お芋やカボチャ風味の美味しそうな期間限定お菓子が店頭に並び、目も味覚もすっかり魅了されちゃうこの季節。

 後期の授業も始まって最初こそバタバタしたものの、バイトのシフトや授業も落ち着いて王子召喚もすっかり日常化してきた今日この頃。
 私は今までにない事態に直面していた。

 …………太った…………。

 何故! は考えなくとも分かっている。
 おやつだ。王子召喚の必需品。

 頻度は減ったものの、王子を召喚しては一緒に食べているあのカロリー。アレが、しっかりと私に蓄積されている。

 夏の間はまだよかった。暑いからそもそもカロリー消費量が高いし、バイトのシフトを多めに入れていたし、実家帰ったり何だかんだ出かけてもいた。
 しかも夏バテもあっておやつを食べている分、食事量が減っていた。

 だから油断した……!

 そもそも私はそんなにおやつを食べる方じゃなかった。バイトもあるし、ゲーム時間減らしたくないから、おやつを用意してまでだらだら楽しむのはバイトの入ってない日か長期の休みに入ったときくらいだった。

 それが、いつの間にか王子召喚と共におやつを食べるのまでが日課になって……!!

 そこで、疑問がわいた。そもそも私がおやつを食べるのは王子召喚のついでだ。せっかくだからと自分の分『も』用意していた。

 そうなると、より多く食べているうえ、塔に幽閉中で私以上に強制引きこもり状態の王子は大丈夫なのか……? と。

 最近の王子は召喚後すぐにジャージへと着替えている。最初こそ着替えを躊躇していたが、最近ではいそいそと着替え、「ふーっ♪ 楽になった」と途端にリラックスモードへと切り替わる。

 ウエストが、ゴムになっているあのジャージ。あれを着ている分には見た目にはそんなに変わったように見えない。なんなら来た時よりも王子の肌艶がいい。――が。

 気になって聞いてみれば。目を逸らして。

「正装ズボンのボタンの位置を直したから大丈夫だ。魔法で跡も消したから、世話係にもバレてない」

 どうやら、召喚太りを隠すために裁縫をマスターしたらしい。――だから、努力の方向が間違ってるって!!




 とりあえず王子のおやつは量を減らし、ジュースは週二回までにしてお茶に切り替えた。ゲームで運動させることも考えたが、アパート暮らしの私としてはそれは避けたい。

 一軒家だった実家ですら、お兄ちゃんと運動系ゲームをしていたら「何ドタバタしてるの!? 床抜けるわよ!」と母親に叱られたことがあるのだ。だから例え防音マットがあったとしても、室内運動は躊躇してしまう。
 一人暮らしの今、ときめかない方の壁ドンが怖い。


 って、いうか。室内に拘ることなくない……?


 どこかの式典参加者ですか? って言いたくなるあのジャラジャラ正装ならともかく、ジャージという宅配便襲来にもそのまま対応できるゲーム用戦闘服を装備している今、お出かけだって問題ないはずだ。

 実際、バイト中のコンビニにジャージの人はよく来るし、何なら早朝は上着羽織っただけのパジャマの人だって来る。

 ゲームの時間を削るのは可哀想だけど、このまま太り続けたら王子を塔に幽閉している人たちに、いずれ召喚のことだってバレてしまうだろう。そうしたらせっかく王子が開発した魔法陣ラグは取り上げられて、ゲームどころじゃなくなる。
 そう言ったら王子はあからさまに顔色を変えた。


「確かに……。でも、塔の中では階段の昇り降り程度の運動しか……! あれは膝に負担が……」


 と、苦悶する王子。

 どうやらカレーの為の運動の時に少し膝を痛めたらしい。努力は認めるが方向性を間違えてはいけない。せっかく異世界へとこられるのだ。わざわざ塔で運動することもないと思う。
 だから。


「召喚中に、こっちで運動すればいいんだよ。とりあえず散歩でもしてみない?」

「散歩……。まあ、それくらいなら大丈夫……か?」


 何故かあまり乗り気ではなさそうだが、召喚太りバレからのゲーム生活強制終了が怖いらしく、それ以上の反対はしなかった。

 電気ОK、窓の戸締りОK。玄関行ってさあ出かけよう、ってところで気が付いた。


 どうしよう! 王子の靴がない!




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