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6 魅了堕ち幽閉王子の召喚生活(王子視点)
しおりを挟むふと気づいたら召喚してくれる相手が変わっていた。
以前は会社員の鈴木さんという男性だった。それなりに上手くやっていたと思っていたが、どうやら見捨てられてしまったらしい。
おやつが同じものばかりだと文句を言ったからだろうか。それとも、ジュースの炭酸が抜けているのは嫌だと言ったからだろうか。もしくは許可をとらずに勝手にゲームのセーブデータを上書きしたからか……?
何が原因かは分からないが、どうやら怒りを買ってしまったらしい。あの魔法陣は一度入手すると他人に押し付けない限り永久に戻ってくる魔法がかけてあるから、所有権ごと誰かに売り渡されたようだ。
これまでも頻繁に持ち主は変わっていたが、鈴木さんとは結構長く続いていたから挨拶もなしに見捨てられたのはかなりショックだ。でも、悲しんでばかりもいられない。
新しい召喚主と良い関係を築かねば。
「あー、えっとぉ。私、この度、鈴木さんからこのラグを購入しました波野ルカと申します」
新しく持ち主になった者は驚いたことに、ある程度事態を納得済みのようだった。どうやら鈴木さんが事前に説明をしてくれていたらしい。
悲鳴をあげられたり、魔法陣をゴミに出されたり刻まれたりしないだけありがたい。あれ、魔力を大幅に消費するからな。
「そっか。これからよろしく」
なるべく友好的にと握手を求めれば、相手も淡々と返してくれた。
正直、新しい召喚主が女性だったことに少し警戒をした。
なにせ、塔に幽閉されることになったそもそもの原因が『魅了』のスキルを持った女に嵌められてしまったせいなのだ。女性に対して警戒心を持つのは仕方ないだろう。
しかし、目の前の女性は最初こそ僕に見惚れていたが、すぐに見慣れたらしく、興味深げに僕の話を聞いてくれた。ごく自然に対応してくれるので、つい余計なことまで話してしまったが、どうやら受け入れてもらえたようだ。
僕も彼女の生活の邪魔をしたいわけではないので、召喚の時間などを事務的に決めていく。
鈴木さんのときですら、呼ぶ、呼ばない、のある程度の押し問答があったのに、この状況把握、及び受け入れ能力はなんだかすごい。つい、尊敬の眼差しで見てしまう。
彼女は約束通り2、3日に一回召喚してくれた。しかも、こちらから言わなくてもおやつも毎回変えてくれている。なんて素晴らしい気遣いだろうか。
塔に幽閉されている僕にとって、こちらに来ているときだけが、唯一心から解放される貴重な時間なのだ。邪険にされることもないし、彼女とはいい関係が築けるかもしれない。
そう思っていたのに。
突然、召喚が途絶えた。正直どうしたらいいのか分からない。
今までもこういうことはあった。魔法陣ラグをお店に売られたり。バザーに寄付されたり。持ち主の所有権があやふやな時は呼び出しが途絶えてしまうのだ。
そうなると、塔から出る手段はない。ただ、無為に時間を過ごすだけ。
二度と魅了にかからないように娯楽の多い世界へと行けるようにしたけれど、まさか行けなくなったときにこんなにショックを受けるとは思わなかった。
いい召喚主に当たった。そう思っていた時期だけに絶望も深い。諦めかけていた時、再び彼女の部屋へと召喚された。
どうやらバイトのシフト変更やら何やらで約束していた時間に召喚が出来なかったらしい。そういうこともあるとは聞いていたが、実際にソレが起こると見捨てられたとしか思えなかった。
その後再び召喚されるようにはなったが、しばらくは疑心暗鬼でいっぱいだった。
でも、相変わらずおやつは毎回違ったものを出してくれるし、呼ぶ回数も増やしてくれた。彼女は鈴木さんとは違いまだ学生らしく、大学やバイトがないときはほとんど家にいる。なので、一緒になってテレビを見たり、漫画を読んだり。
気が付けば毎日のように呼んでもらえるようになって、いつの間にか彼女の部屋で全力でくつろいでいる自分がいた。
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