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4 私だってゲームがしたい

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 王子の乙女ゲー生実況を見ていて思ったけれど、この王子は中々に完璧主義だ。

 好きなキャラしかやらない私と違い、正直ちょっと……なキャラも、隠しイベントも解放されていないスチルをチェックしながらやりこんでいく。既読はしっかりと飛ばしているので早い。

 そのゲームスタイルはスローライフ系のゲームでも変わらず、彼は野菜の品質改良に取り組んでいく。倉庫の中はレベルMAXのお野菜や果実でいっぱいだ。

 バイトと学生生活に追われる中、ストレス解消のためにこれ系のゲームだけは日々やっていたけれど、既に王子のレベルは私のキャラを超えている。

 最初こそゲームシステムをあーだこーだ説明したり、王子が分からないゲーム中に出てくる日常の知識を教えてあげたりと今まで通りアドバイスをしながら後ろで眺めていたのだが、呑み込みの早い王子は黙々とゲームを進めている。私の出る幕は既にない。

 乙女ゲーならば私のゲームスタイルもあり、やっていないキャラのイベントを楽しんだり、王子が王子を攻略しているという混沌とした状況を楽しんだりもできたのだが、スローライフ系のゲームは長時間の視聴には向かないようだ。


 うっはー。イケメン王子が大根収穫してるー!
 あはは、イケメン王子が体力使い果たして倒れてるー!


 なんて新鮮に楽しめたのは初めの一週間だけ。日々玄人化していく王子のプレイはもはやただのルーティンワーク。そうなったら自分でも飽きるのに他人のプレイとか見ていても面白くない。

 とはいえ、王子はそのスローライフが相当気に入ったらしく、嬉々として農作業に従事しているので私は視聴に飽きたら横で本を読む――という生活を送っていたのだが。

 限界が来た。私だってゲームがしたい。

 夏休みになったらやろうと思っていた乙女ゲーを、全然自分でやれていないのだ。私にとってのメインキャラの攻略、王子のプレイで見ちゃったから満足して放置してたけど、やはりちゃんと自分で最後までやりたい。

 本当なら王子のいない時間帯にやればいいんだけど、ここ数日バイトのシフトの関係で、この時間しか空きがない。

 折しも今はお盆休み。

 私は学業優先の都合上、及びちょっとだけ高い時給のために早朝のシフトが中心なのだが、家族旅行や帰省で主婦の方々が抜けるこの時期は昼間や夕方からもシフトに入っている。

 なので、どうしてもゲームをする時間を取れないのだ。

 今日は朝からバイトだったし、王子を送り返したらまたバイト。帰ったら疲れて眠ってしまうので今日も私はゲームをやれない。そう思ったら限界が来た。


「うえええん。わーだーしーもー、げーむ、しだいー」


 泣いたら王子がビックリしてゲーム機を譲ってくれた。いい人だ。でも。


「でも、でも、私やりたいの乙女ゲームだから! また、王子のトラウマ刺激しちゃうから!! ひっく……」

「だっ! 大丈夫だ!! 一度やったゲームには耐性が出来ている。今更傷つかない!!! それに、攻略覚えたから攻略本を読まなくても僕が助言してやれる」


 そんな声に後押しされて始めてみれば……はぁ~攻略対象の顔を見るだけで癒される。私の一押しは宰相の息子と、訳アリ魔道士。この二人だけ攻略できれば後はどうでもいいので出現場所にストーカー。

 そんな私のプレイスタイルを見て。


「お前の好みはこの二人なのか? タイプが全然違うだろう」

「あ。うん。眼鏡だし」


 そうです。私は何を隠そう眼鏡好き。インテリだろうが大人し系であろうが、まずはそれ。このゲームに関してはメイン攻略対象の中に二人もいたから超超楽しみにしていたのだ。


「ふ~ん……?」


 何やら少し不機嫌な声を出す王子。「確か塔の中に……いくつか……」ブツブツ言いながら何か考え込んでいるようだ。

 ゲーム機を奪ったからかも、と思い聞いてみたがそういう訳でもないらしい。ふと気が付けば後ろで、以前の私のように私のゲームする姿を眺めている。これはこれで楽しいらしい。

 なので、眼鏡あげる仕草がサイコーとか、光る眼鏡素敵ーとか、久々のゲームに夢中になっていたら思い出した。


「あ。そう言えば鈴木さんも眼鏡だったっけ」


 顔色悪いからそっちばっかり気になっていたけれど、彼も立派な眼鏡だった。そういや結構若かったし、イケメンだった気がする。

 体調は良くなっただろうか。

 そんなことを考えていたら、王子の顔色が優れないのに気が付いた。それを指摘すると、明日も必ず呼んでくれとしつこく念押ししたうえでいそいそとあちらへと帰って行った。

 どうしたのだろう。私が泣いたりしたから気を遣わせてしまったのだろうか。

 とか思っていたら翌日。
 魅了堕ち幽閉王子が何故か眼鏡をかけて現れた。


「えっ、お、王子……!? 何で眼鏡……!??」

「塔で見つけた。気分転換だ」


 言いながら、くいっと眼鏡をあげる仕草をすると王子の眼鏡が光った。

 それを見て、今更気付く。


 ちょっと、ちょっと、噓でしょ!? 王子ってばこんなイケメンだったっけ!??


 やたらと落ち着かなくなった私はとりあえずゲームの世界に逃げ込むことにした。




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