魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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1 魅了堕ち幽閉王子が現れた

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 コーラとポテチを用意して、お盆へと載せる。そして、それをゲーム用に購入した一畳ほどのラグへと運ぶ。

 おやつを食べながらのゲームは至福の時間だ。それは分かる。実際、私も大学が休みに入ったらそうやって大好きなゲームをやりまくると決めていたのだから。

 でも――。

 お盆を置いた途端。ラグに描かれた魔法陣の模様がぶわりと光り、光の粒子と共に人間離れした美貌の王子が現れた。

「ああ。今日のおやつはコーラとポテトチップスか。いいね! 僕の好物だ」

 満面の笑みでそう言うと美貌の王子は慣れた様子でゲーム機の電源を入れ前日の続きをやり出した。


 いったいどうしてこうなったのか。



※※※

 ソレを手に入れたのは偶然だった。バイト帰り、少し大きめの公園を通りかかったらフリーマーケットをやっていて、何となくお店を眺めていたらあからさまに熱中症をおこしている人がいた。

 炎天下。「みず……水……」そんな風につぶやいていたのでつい放っておけずにおやつ用にバイト先で購入してきたスポーツドリンクを差し入れた。

「助かったよ……」そう言った男は割と若かった。

 どうやら不用品を処分するためにフリマに参加したものの、店番の代わりがいないため、前日から水分を控えていたらしい。いや、馬鹿だろう。この炎天下で。

 乗り掛かった舟なのでトイレ休憩の間店番を代わってあげることにした。そうしないと、まだまだ顔色と体調が悪そうなのに水分摂取を避けようとするからだ。

 その間、暇なので並べてある商品を眺めていたのだが。

 その中で、小さめのラグが気になった。

 薄めの灰色に、濃い青色の魔法陣模様。ファンタジックなそのデザインに中二心が刺激された。この上でゲームをやったら、気分が最高に盛り上がるに違いない。

 あまりこういった物の中古品を買う習慣はなかったが、まだキレイだし値段も500円と安かった。なので、男が戻ってきたところで購入の意思を告げたのだけれど。


「あー、いや。これは止めた方が……」


 ――と、なんとも歯切れが悪い。不思議に思って理由を聞いてみたら、なんと曰く付きの品らしい。

 なんでもおやつを供えると、悪魔的な何かが召喚されてくるらしい。それがとても面倒臭く厄介で、それを手放すために今日のフリマに参加したそうだ。


 ――え。何それ面白い。


 命の恩人にそんなものを押し付けられないと正直に話してくれたのだが、むしろ更に中二心を刺激されてしまった私は止められるのも聞かずに購入してしまった。


「何かあったら引き取るから」と連絡先を教えてくれた鈴木さんはいい人だと思う。500円の値段も、ジュース代を差し引いて300円にまけてくれたし。

 いい買い物をした。そう思ってた。


 実際に『ソレ』が召喚されてくるまでは






「あれ? 鈴木さんは??」(キョロキョロ)


 言われた通りおやつを供えてこのキラキラ王子が現れた時は驚いた。正直、曰く付きの品に興奮はしていたけれど、決して信じてはいなかったからだ。おやつだって、本来は自分で食べようと用意したものだった。

 しかし、目の前で起こってしまったことは信じざるを得ない。しかも、事前に説明されていたのだからいくら前の持ち主が引き取ってくれると言っても甘えるのも悪い。

「あー、えっとぉ。私、この度、鈴木さんからこのラグを購入しました波野ルカと申します」

 仕方がないので自己紹介と共に持ち主が変わったことを説明すれば、目の前のキラキラ王子は「そっか。これからよろしく」と握手を求めてきた。どうやら召喚先が変わるのに慣れているらしい。

 そして、王子の説明を聞くところによると、やはり彼は見た目通りに王子だった。どうやら彼は乙女ゲームのような世界観の場所にいるらしい。そこで、側近共々『魅了』のスキルを持った平民出身の女に嵌められて、王太子であった彼は塔へと幽閉されてしまったそうだ。

 そして、彼は思ったらしい。

 小さい頃から真面目で、勉強ばかり。趣味ひとつ持たず遊びもしないで王太子としての責務を果たしてきた。楽しいことなど何もなかった。
 だからこそ魅了の力で彼女に夢中になってしまった。

 だから。

 今度は娯楽を極めよう。とにかく毎日遊んで遊んで楽しいと思える経験を積んで、二度と魅了の力に惑わされることのないように。

 その思いから幽閉された塔の中で研究を重ね、ようやく娯楽の多いこの世界へ来る方法を確立したらしい。塔に幽閉されながら、あらゆる娯楽を楽しむために。

 そう、真剣に説明されて私は思った。


 彼は努力の方向が間違っている――と。




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