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30 本物の誤算(ヴィオーラ)
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「ヴィオーラ。君こそ求めていた本物の転生者だ。僕が真実の愛を捧げる相手は君だったんだ」
そう言われ、シャインがヴィオーラに婚約を申し込んでくれたときは飛び上がって喜んだ。学期末のダンスパーティーの日も、その後も、両親と共にあちこち根回しした甲斐があったというものだ。
シャインが真実の愛の子との婚約を白紙にした後も、中々その話は広まらないし、復縁するつもりじゃないかと怪しんでいたヴィオーラはとにかく頑張った。話が広まらないなら自分で広めればいい。そのお陰で正式な婚約までこぎつけたのだ。
転生者学園卒業後は伯爵家に嫁ぐのだ。子爵家も、自分もこれで安泰。両親も玉の輿を喜んでいる。
もう何の苦労もしなくていい――と思ってたのに。
「僕のためにうどんを作って欲しい」
正式に婚約を結んでからしばらくたったある日、シャインがそんなことを言ってきた。正直訳が分からない。ヴィオーラは伯爵家に嫁ぐのに、今更自分で料理を作るだなんて。
そもそもヴィオーラは自分で料理を作ったことなどほとんどない。前世でも今世でも、だ。
ヴィオーラは転生前はごく普通の女子高生だった。不幸にして早死にしてしまったが、そんな彼女にとっては料理もお弁当も母親が用意してくれるものなのだ。
そんな自分に何故、と思ったがハタと気が付いた。以前に差し入れたお弁当。あれを、シャインはヴィオーラの手作りだと誤解したに違いない。
ダンスをしてくれたお礼にと弁当を作っていったが、実際に調理したのは小さい頃からヴィオーラの世話をしてくれている使用人の女性だ。
彼女も転生者で、昼食はいつも彼女にお弁当を作ってもらっていた。家族はあちらの料理は口に合わないらしく、昼くらいしか自由に食べる機会がないからだ。
シャインがあちらの弁当に興味があると聞いたので彼女に頼んでシャインの分も作ってもらったのだが――それで誤解が生じたらしい。
できないものはできない。嫁ぐのだからハッキリしておいた方がいいだろうとヴィオーラが真相を口にすればシャインは少し驚いていたが、「ああ、転生者が作ったのなら弁当は本物なんだね」と言って何故だかホッとしていた。
普通の女子高生にとって料理をする機会がないことは理解してもらえたようだ。「本物はそうなんだね」、と嬉しそうにしていたから。
ヴィオーラにとっては母親が使用人に変わっただけで、料理は他人がするものという意識がある。今世、貴族に産まれた以上それで問題ないはずだった。
しかし、シャインは手作りのうどんにだけはやけにこだわった。
詳しくは話してくれなかったが、前の婚約者に作ってもらった物に不信感があるらしい。本物の転生者の君ならば本物を作れるはず――と言われた。
そんな風に言われたら、ヴィオーラも作らない訳にはいかない。何となくメリーに負けるのは嫌だった。
転生者の使用人に頼めば作り方くらい教えてもらえるだろう。ヴィオーラはそう楽観的に考え引き受けたが、間が悪いことに娘が出産するから孫の世話がしたい、と言って長年勤めてくれた転生者は子爵家を辞めて出て行ってしまった。
仕方がない、とヴィオーラは腹をくくった。
幸いうどんならば学校の調理実習で作ったことがある。前世の記憶なのでうろ覚えだが、小麦粉と塩と水さえあればどうにかなるだろう。
そうして適当にこねて作ったうどんは粉っぽくてぼそぼそで、茹でるそばから煮崩れてバラバラの細切れ状態になってしまった。箸で掴むことは不可能だろう。スープのような見た目だった。
しかも、作り始めてから気が付いたがダシがない。
料理をしたことがないヴィオーラからすれば、ダシとはダシの素だ。けれどこちらで売っているのを見たことがないし、代用するにも原材料が分からない。
仕方ないのでシンプルに塩味にしたが、正直見た目も味も酷かった。
だから。
「あ、あの。初めてだから上手くできなくて、細切れになっちゃって、その……。スプーンじゃないと厳しいかも」
そんな風にあらかじめ言い訳をしたのだが。
シャインはその酷い物体を一目見て口に運ぶなり。
「うん。やっと本物を食べられた」
そう言って満足そうにヴィオーラにとろけるような笑顔を向けてきた。
こんな、うどんとも呼べない酷い料理で何で……?と違和感を覚えたものの、それを口にはしなかった。ヴィオーラに対する愛ゆえだろう、そう自分に都合よく判断した。
ヴィオーラはメリーに勝ったのだ。
うどん作りをしてからヴィオーラは料理をするようになった。前世の料理を作ってくれていた使用人が辞めてしまったため、自分でやらざるを得なくなってしまったのだ。
長年勤めてくれた彼女は大人になってから記憶を取り戻した中途覚醒者だったため破格の値段で雇えたが、本来転生者は知識もあるし、真面目だとされているので給料も高い。
ヴィオーラのためだけに新しく雇うのは難しかった。
前世の味を諦めればいいのだろうが、食べられないとなると渇望感がすごい。仕方なく自分で作ることにしたのだ。
両親は貴族が料理なんて……といい顔はしなかったが、婚約者であるシャインがあちらの料理を食べたがっているからと説明すれば好きにさせてくれた。
シャインは「あちらの本物の女子高生は料理なんかしないんだろう?」と不思議そうだったが、日ごろやらない子でも好きな人のためにお弁当を作ったりすることはよくあるのだと言ったら、何故か戸惑っていた。
そうして、ある程度料理にも慣れた頃。シャインのリクエストでヴィオーラは「たこ焼き」を作った。前世、部活の帰りによく食べていたのを話したらシャインが食べたがったのだ。
うどんとは違い、こちらは大成功だった。前世ではよく夕飯代わりに家でたこ焼きを作っていたし、他の料理はともかく丸く仕上げるのが楽しくてこれだけは小さい頃から遊び感覚で手伝っていたから材料も何となくわかる。
こちらの世界でもお菓子の焼き型で似たようなものがあったため、道具も揃っていたから再現するのは簡単だった。
相変わらずダシはなかったが、タコからイイ感じにうまみが出ているせいかまったく気にならない。ソースは作らなくても似たようなものがある。
シャインも喜んで食べてくれたのだが。
「大成功だわ! あーでも残念、あとは鰹節さえあれば完璧だったのに」
「え、これで出来上がりじゃないの?」
「あ、はい。向こうでは鰹節っていうのがこの上にかかっているんですけど、こっちの世界にはないから」
「鰹節……? どこかで聞いたな。あ、木くずみたいなやつか」
「あ! それです、それ! よくご存じですね」
聞けば。前の婚約者が手作りをしていたらしい。あんなもの手作りできるのか、とヴィオーラは心底驚いた。
「作ってよ」
「え」
「メ……前の婚約者は手作りしていたけど、向こうの物とは違う簡易的な物だと言っていた。本物の君ならば、より本格的なものが作れるはずだ」
「で、でも。私、作り方知らな……」
「大丈夫。君は本物の転生者なのだから。期待しているよ。今度は本物が食べたいな」
そう言うと、まるで興味を失ったように。シャインはもうたこ焼きに見向きもしなかった。
婚約してからこういったことが増えていた。
シャインは日本の文化が大好きだ。話を聞いて喜ぶし、何でも知りたがる。そして、その興味には際限がない。すぐに「作って」と言ってくる。
再現可能かどうかは考えない。あちらの人間だったら知っているだろう、作れるだろうと期待をされる。食べ物ならばどうにかできることもあるが、電車通学で毎日大変だったと言えば、毎日乗っていたのなら電車も作れるだろうと言われた時はヴィオーラも流石にドン引いた。
あちらを知らないのだから仕方ないこともあるのだろうが、まるで子供だ。
「自転車って何? 作って」
「映画? いいね、作って」
「ゲーム? へー作ってよ」
専門的なことを学んでもいなければ、こちらとあちらで同じ技術が使えるのかどうかも分からない。ヴィオーラはただの普通の女子高生だったのだ。
何でもかんでも聞かれたって回答できない。AIじゃないんだから。
それを言えばきっと「AIって何? 作って」と言われるのだろう。
「きっと、本物のたこ焼きって美味しいんだろうなあ」
シャインはスカイブルーの目を、同じ色の空に向けて物思いにふけっている。
ヴィオーラは冷めつつあるたこ焼きを一人で頬張った。前世の食べ物が恋しくてたまらない自分にとってはこれでも十分本物なのに。
鰹節は欲しい。本物でなくたって、簡易的な物だって構わない。でも、ヴィオーラは作り方を知らないし、こんな形で婚約者をとった以上、メリーに聞くこともできないだろう。
それに。
シャインは本物しか認めない。あちらの本物だけを求めている。そんなのいくら転生者でも、例え知識があっても無理だ。
卒業して、結婚して、これは本物じゃないとガッカリした顔を見ながら一生を過ごすのだろうか。
「……もう、いっそあんたがあっちに転生すればいいのよ」
きっとそうでもしなければあんたは満足なんてしないでしょ。
「ヴィオーラ? どうしたんだ、ぼーっとして。」
話しかけられてハッとする。良かった。本当の気持ちは口に出してはいなかったようだ。
ふと気が付けば、シャインの目が再び自分を向いていた。その目を見ても、もう胸が高鳴ることはない。
両親はこの婚約を喜んでいるから、今更婚約をなかったことにはできない。
幸せな恋愛結婚だったはずなのに。偽物の笑顔を張り付けて、ヴィオーラは婚約者に笑いかける。
「なんでもないわ、シャイン様。ただ、ずっとこんな日が続くのだな、と思って」
「そうだね。君こそ求めていた本物の転生者だ。僕が真実の愛を捧げる相手は君だったんだ」
再び目を空に向けて答える婚約者。
どこまでも続く遮るもののない青い空が無限に続くように感じられて、ヴィオーラは空から目を離した。
そう言われ、シャインがヴィオーラに婚約を申し込んでくれたときは飛び上がって喜んだ。学期末のダンスパーティーの日も、その後も、両親と共にあちこち根回しした甲斐があったというものだ。
シャインが真実の愛の子との婚約を白紙にした後も、中々その話は広まらないし、復縁するつもりじゃないかと怪しんでいたヴィオーラはとにかく頑張った。話が広まらないなら自分で広めればいい。そのお陰で正式な婚約までこぎつけたのだ。
転生者学園卒業後は伯爵家に嫁ぐのだ。子爵家も、自分もこれで安泰。両親も玉の輿を喜んでいる。
もう何の苦労もしなくていい――と思ってたのに。
「僕のためにうどんを作って欲しい」
正式に婚約を結んでからしばらくたったある日、シャインがそんなことを言ってきた。正直訳が分からない。ヴィオーラは伯爵家に嫁ぐのに、今更自分で料理を作るだなんて。
そもそもヴィオーラは自分で料理を作ったことなどほとんどない。前世でも今世でも、だ。
ヴィオーラは転生前はごく普通の女子高生だった。不幸にして早死にしてしまったが、そんな彼女にとっては料理もお弁当も母親が用意してくれるものなのだ。
そんな自分に何故、と思ったがハタと気が付いた。以前に差し入れたお弁当。あれを、シャインはヴィオーラの手作りだと誤解したに違いない。
ダンスをしてくれたお礼にと弁当を作っていったが、実際に調理したのは小さい頃からヴィオーラの世話をしてくれている使用人の女性だ。
彼女も転生者で、昼食はいつも彼女にお弁当を作ってもらっていた。家族はあちらの料理は口に合わないらしく、昼くらいしか自由に食べる機会がないからだ。
シャインがあちらの弁当に興味があると聞いたので彼女に頼んでシャインの分も作ってもらったのだが――それで誤解が生じたらしい。
できないものはできない。嫁ぐのだからハッキリしておいた方がいいだろうとヴィオーラが真相を口にすればシャインは少し驚いていたが、「ああ、転生者が作ったのなら弁当は本物なんだね」と言って何故だかホッとしていた。
普通の女子高生にとって料理をする機会がないことは理解してもらえたようだ。「本物はそうなんだね」、と嬉しそうにしていたから。
ヴィオーラにとっては母親が使用人に変わっただけで、料理は他人がするものという意識がある。今世、貴族に産まれた以上それで問題ないはずだった。
しかし、シャインは手作りのうどんにだけはやけにこだわった。
詳しくは話してくれなかったが、前の婚約者に作ってもらった物に不信感があるらしい。本物の転生者の君ならば本物を作れるはず――と言われた。
そんな風に言われたら、ヴィオーラも作らない訳にはいかない。何となくメリーに負けるのは嫌だった。
転生者の使用人に頼めば作り方くらい教えてもらえるだろう。ヴィオーラはそう楽観的に考え引き受けたが、間が悪いことに娘が出産するから孫の世話がしたい、と言って長年勤めてくれた転生者は子爵家を辞めて出て行ってしまった。
仕方がない、とヴィオーラは腹をくくった。
幸いうどんならば学校の調理実習で作ったことがある。前世の記憶なのでうろ覚えだが、小麦粉と塩と水さえあればどうにかなるだろう。
そうして適当にこねて作ったうどんは粉っぽくてぼそぼそで、茹でるそばから煮崩れてバラバラの細切れ状態になってしまった。箸で掴むことは不可能だろう。スープのような見た目だった。
しかも、作り始めてから気が付いたがダシがない。
料理をしたことがないヴィオーラからすれば、ダシとはダシの素だ。けれどこちらで売っているのを見たことがないし、代用するにも原材料が分からない。
仕方ないのでシンプルに塩味にしたが、正直見た目も味も酷かった。
だから。
「あ、あの。初めてだから上手くできなくて、細切れになっちゃって、その……。スプーンじゃないと厳しいかも」
そんな風にあらかじめ言い訳をしたのだが。
シャインはその酷い物体を一目見て口に運ぶなり。
「うん。やっと本物を食べられた」
そう言って満足そうにヴィオーラにとろけるような笑顔を向けてきた。
こんな、うどんとも呼べない酷い料理で何で……?と違和感を覚えたものの、それを口にはしなかった。ヴィオーラに対する愛ゆえだろう、そう自分に都合よく判断した。
ヴィオーラはメリーに勝ったのだ。
うどん作りをしてからヴィオーラは料理をするようになった。前世の料理を作ってくれていた使用人が辞めてしまったため、自分でやらざるを得なくなってしまったのだ。
長年勤めてくれた彼女は大人になってから記憶を取り戻した中途覚醒者だったため破格の値段で雇えたが、本来転生者は知識もあるし、真面目だとされているので給料も高い。
ヴィオーラのためだけに新しく雇うのは難しかった。
前世の味を諦めればいいのだろうが、食べられないとなると渇望感がすごい。仕方なく自分で作ることにしたのだ。
両親は貴族が料理なんて……といい顔はしなかったが、婚約者であるシャインがあちらの料理を食べたがっているからと説明すれば好きにさせてくれた。
シャインは「あちらの本物の女子高生は料理なんかしないんだろう?」と不思議そうだったが、日ごろやらない子でも好きな人のためにお弁当を作ったりすることはよくあるのだと言ったら、何故か戸惑っていた。
そうして、ある程度料理にも慣れた頃。シャインのリクエストでヴィオーラは「たこ焼き」を作った。前世、部活の帰りによく食べていたのを話したらシャインが食べたがったのだ。
うどんとは違い、こちらは大成功だった。前世ではよく夕飯代わりに家でたこ焼きを作っていたし、他の料理はともかく丸く仕上げるのが楽しくてこれだけは小さい頃から遊び感覚で手伝っていたから材料も何となくわかる。
こちらの世界でもお菓子の焼き型で似たようなものがあったため、道具も揃っていたから再現するのは簡単だった。
相変わらずダシはなかったが、タコからイイ感じにうまみが出ているせいかまったく気にならない。ソースは作らなくても似たようなものがある。
シャインも喜んで食べてくれたのだが。
「大成功だわ! あーでも残念、あとは鰹節さえあれば完璧だったのに」
「え、これで出来上がりじゃないの?」
「あ、はい。向こうでは鰹節っていうのがこの上にかかっているんですけど、こっちの世界にはないから」
「鰹節……? どこかで聞いたな。あ、木くずみたいなやつか」
「あ! それです、それ! よくご存じですね」
聞けば。前の婚約者が手作りをしていたらしい。あんなもの手作りできるのか、とヴィオーラは心底驚いた。
「作ってよ」
「え」
「メ……前の婚約者は手作りしていたけど、向こうの物とは違う簡易的な物だと言っていた。本物の君ならば、より本格的なものが作れるはずだ」
「で、でも。私、作り方知らな……」
「大丈夫。君は本物の転生者なのだから。期待しているよ。今度は本物が食べたいな」
そう言うと、まるで興味を失ったように。シャインはもうたこ焼きに見向きもしなかった。
婚約してからこういったことが増えていた。
シャインは日本の文化が大好きだ。話を聞いて喜ぶし、何でも知りたがる。そして、その興味には際限がない。すぐに「作って」と言ってくる。
再現可能かどうかは考えない。あちらの人間だったら知っているだろう、作れるだろうと期待をされる。食べ物ならばどうにかできることもあるが、電車通学で毎日大変だったと言えば、毎日乗っていたのなら電車も作れるだろうと言われた時はヴィオーラも流石にドン引いた。
あちらを知らないのだから仕方ないこともあるのだろうが、まるで子供だ。
「自転車って何? 作って」
「映画? いいね、作って」
「ゲーム? へー作ってよ」
専門的なことを学んでもいなければ、こちらとあちらで同じ技術が使えるのかどうかも分からない。ヴィオーラはただの普通の女子高生だったのだ。
何でもかんでも聞かれたって回答できない。AIじゃないんだから。
それを言えばきっと「AIって何? 作って」と言われるのだろう。
「きっと、本物のたこ焼きって美味しいんだろうなあ」
シャインはスカイブルーの目を、同じ色の空に向けて物思いにふけっている。
ヴィオーラは冷めつつあるたこ焼きを一人で頬張った。前世の食べ物が恋しくてたまらない自分にとってはこれでも十分本物なのに。
鰹節は欲しい。本物でなくたって、簡易的な物だって構わない。でも、ヴィオーラは作り方を知らないし、こんな形で婚約者をとった以上、メリーに聞くこともできないだろう。
それに。
シャインは本物しか認めない。あちらの本物だけを求めている。そんなのいくら転生者でも、例え知識があっても無理だ。
卒業して、結婚して、これは本物じゃないとガッカリした顔を見ながら一生を過ごすのだろうか。
「……もう、いっそあんたがあっちに転生すればいいのよ」
きっとそうでもしなければあんたは満足なんてしないでしょ。
「ヴィオーラ? どうしたんだ、ぼーっとして。」
話しかけられてハッとする。良かった。本当の気持ちは口に出してはいなかったようだ。
ふと気が付けば、シャインの目が再び自分を向いていた。その目を見ても、もう胸が高鳴ることはない。
両親はこの婚約を喜んでいるから、今更婚約をなかったことにはできない。
幸せな恋愛結婚だったはずなのに。偽物の笑顔を張り付けて、ヴィオーラは婚約者に笑いかける。
「なんでもないわ、シャイン様。ただ、ずっとこんな日が続くのだな、と思って」
「そうだね。君こそ求めていた本物の転生者だ。僕が真実の愛を捧げる相手は君だったんだ」
再び目を空に向けて答える婚約者。
どこまでも続く遮るもののない青い空が無限に続くように感じられて、ヴィオーラは空から目を離した。
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