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23 儀式を終わらせるために
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「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
遠くから喧噪が聞こえる中、部長とメリーは部室へと移動して『悪役令嬢様』をやっていた。
期限は日付が変わるまでだが、こんな騒ぎがあった以上早々にパーティーはお開きになるだろう。時間がない。
それなのに、悪役令嬢様は一向に来てくれない。無反応。理事長室での状態とまったく同じだった。
ボトルに残っていたワインは2口分にも足りないくらい。流石に量が足りないのか。
「何故だ!? コレじゃないのか? それとも量が……」
悪役令嬢様の反応がないことに焦る部長。しかし、ずっと理事長との儀式でその状態だったメリーは、部長との儀式でも反応がないことで何となく思っていた可能性が確信に変わるのを感じていた。
『悪役令嬢様』を成功させる条件。
五十音の書かれた儀式の紙を用意して。悪役令嬢様のお口に合うワインを用意する。
そして、そもそもの前提条件。
「あの……部長、私、悪役令嬢様の指示を達成したじゃないですか」
「ああ! だからこそ、今度こそ終わらせられるはずなのに……!」
「それで、婚約を白紙にしたじゃないですか」
「ああ、どう責任をとればいいのか……」
「婚約者いなくなりました」
「……あ…………」
「あああああああああ! しまったぁあああああ!!」
部室に部長の絶叫が響く。
ようやく部長は気が付いた。そうだ、オカルト研究会部長である自分が興味を持ちながらもずっと出来なかった『悪役令嬢様』。
その原因が「自分には婚約者がいないから」――であるのを部長はすっかり失念してしまっていた。
だからこそ、婚約者持ちで悩みを抱えるメリーを儀式に巻き込んだというのに。いや、正確には自分のことは理解していたのだ。ただ、この2人で何度も呼び出しに成功していたからこそ、メリーも婚約者を失った今、彼女も儀式の前提条件をクリアしていないのだということに気がつけなかった。
部長は頭を抱えた。
一方のメリーは……なんか、もういいかな、と思い始めていた。
儀式をやる前はなんとなく怖かった悪役令嬢様も、帰ってくれなくて、無理な指示を出されて、振り回されて大変な思いをしたけれど、お茶会で話したり乗っ取られたりしているうちにどんどん親近感がわいてきた。
部活の仲間と一緒に対策に走り回るのは申し訳ないと思いつつも楽しかった。
もし、帰ってもらえなくてもオカルト研究会の仲間が一人増えるだけ――の様な気がする。しかも女性部員。そんな風に考えたら少し楽しくなってきた。
……婚約者の件以外ではメリーは意外と前向きだった。
「……よし、決めた」
「部長?」
「メリー、俺と婚約しよう。それで条件は満たされる」
「ちょ……っ!? 部長!!??」
「大丈夫。俺に婚約者はいない。メリーにもいない」
「で、でもそんなことで」
「儀式を終わらせたいという目的は一緒だろう。いいか、メリー。これはお見合いと一緒だ。条件が釣り合う相手を選ぶんだ」
「お見合い……」
一瞬。メリーが反応を見せる。しかし、突然すぎて決断ができないようだ。部長はさらに説得を続ける。
「それに、いいのか? このまま悪役令嬢様と離れられなくなったら、二度と楽しいお茶会はできなくなるぞ」
「……!!!」
言われて……メリーは気付く。悪役令嬢様になっているときの記憶はメリーにはない。つまり、いくら同じ体にいたとしても、あの、楽しい女の子同士の会話はできなくなってしまうのだ。
距離が近くなるようで断絶される。そんなのは絶対嫌だった。
「決断しろ、メリー。大丈夫、俺達は転生者だ。いざとなったら前世感覚なのね、で気軽にリセットできる」
「はい、部長! します! 私、部長と婚約します!!」
「よし。見合いは成立だ。リキッド……はいないから、仲人は悪役令嬢様だ! いいな!」
金貨が――僅かに熱を持った。
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
コクリ。いつもより控えめにワインの量が減った。
そして。
『し・つ・も・ん・は・?』
悪役令嬢様が来てくれた。
メリーは胸がいっぱいになった。
悪役令嬢様と会話をするのはどれくらいぶりだろうか。メリーには言いたい事、伝えたい事がたくさんあるのだ。逸る気持ちを抑えてメリーは口を開く。
「悪役令嬢様、悪役令嬢様。さっきは……さっきはダンスを代わってくれてありがとうございました。他にも、いっぱいよくしてくれて……私、悪役令嬢様のことが大好きです。これからもずっと私とお友達でいてくれますか?」
…………………………………………。
「悪役令嬢様……?」
メリーの質問に悪役令嬢様は答えない。
ダメなのだろうか。やはり迷惑をかけすぎてしまったからだろうか。すがる思いでメリーは金貨を見つめていたが。
「メリー、ワインの残り」
「あ……」
部長に言われ、ワイングラスを見れば残りはやっと1問分。それも、テイスティングで遠慮してくれながらやっと、というところだ。
メリーはそれで分かった。悪役令嬢様はあえて答えなかったのだ。もし答えてしまったら、メリーを解放できなくなってしまうから。
メリーは考えて考えて。そうしてやっと、口を開く。
「悪役令嬢様、悪役令嬢様。大好きな、私のお友達の悪役令嬢様。儀式を終え、お帰りになる前に答えてください。また――お話ししていただけますか?」
『もちろんですわ』
今度は金貨が迷いなく動く。
そして、金貨は階段へと戻り、グラスからワインが消えた。
こうして――悪役令嬢様は帰られた。
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
遠くから喧噪が聞こえる中、部長とメリーは部室へと移動して『悪役令嬢様』をやっていた。
期限は日付が変わるまでだが、こんな騒ぎがあった以上早々にパーティーはお開きになるだろう。時間がない。
それなのに、悪役令嬢様は一向に来てくれない。無反応。理事長室での状態とまったく同じだった。
ボトルに残っていたワインは2口分にも足りないくらい。流石に量が足りないのか。
「何故だ!? コレじゃないのか? それとも量が……」
悪役令嬢様の反応がないことに焦る部長。しかし、ずっと理事長との儀式でその状態だったメリーは、部長との儀式でも反応がないことで何となく思っていた可能性が確信に変わるのを感じていた。
『悪役令嬢様』を成功させる条件。
五十音の書かれた儀式の紙を用意して。悪役令嬢様のお口に合うワインを用意する。
そして、そもそもの前提条件。
「あの……部長、私、悪役令嬢様の指示を達成したじゃないですか」
「ああ! だからこそ、今度こそ終わらせられるはずなのに……!」
「それで、婚約を白紙にしたじゃないですか」
「ああ、どう責任をとればいいのか……」
「婚約者いなくなりました」
「……あ…………」
「あああああああああ! しまったぁあああああ!!」
部室に部長の絶叫が響く。
ようやく部長は気が付いた。そうだ、オカルト研究会部長である自分が興味を持ちながらもずっと出来なかった『悪役令嬢様』。
その原因が「自分には婚約者がいないから」――であるのを部長はすっかり失念してしまっていた。
だからこそ、婚約者持ちで悩みを抱えるメリーを儀式に巻き込んだというのに。いや、正確には自分のことは理解していたのだ。ただ、この2人で何度も呼び出しに成功していたからこそ、メリーも婚約者を失った今、彼女も儀式の前提条件をクリアしていないのだということに気がつけなかった。
部長は頭を抱えた。
一方のメリーは……なんか、もういいかな、と思い始めていた。
儀式をやる前はなんとなく怖かった悪役令嬢様も、帰ってくれなくて、無理な指示を出されて、振り回されて大変な思いをしたけれど、お茶会で話したり乗っ取られたりしているうちにどんどん親近感がわいてきた。
部活の仲間と一緒に対策に走り回るのは申し訳ないと思いつつも楽しかった。
もし、帰ってもらえなくてもオカルト研究会の仲間が一人増えるだけ――の様な気がする。しかも女性部員。そんな風に考えたら少し楽しくなってきた。
……婚約者の件以外ではメリーは意外と前向きだった。
「……よし、決めた」
「部長?」
「メリー、俺と婚約しよう。それで条件は満たされる」
「ちょ……っ!? 部長!!??」
「大丈夫。俺に婚約者はいない。メリーにもいない」
「で、でもそんなことで」
「儀式を終わらせたいという目的は一緒だろう。いいか、メリー。これはお見合いと一緒だ。条件が釣り合う相手を選ぶんだ」
「お見合い……」
一瞬。メリーが反応を見せる。しかし、突然すぎて決断ができないようだ。部長はさらに説得を続ける。
「それに、いいのか? このまま悪役令嬢様と離れられなくなったら、二度と楽しいお茶会はできなくなるぞ」
「……!!!」
言われて……メリーは気付く。悪役令嬢様になっているときの記憶はメリーにはない。つまり、いくら同じ体にいたとしても、あの、楽しい女の子同士の会話はできなくなってしまうのだ。
距離が近くなるようで断絶される。そんなのは絶対嫌だった。
「決断しろ、メリー。大丈夫、俺達は転生者だ。いざとなったら前世感覚なのね、で気軽にリセットできる」
「はい、部長! します! 私、部長と婚約します!!」
「よし。見合いは成立だ。リキッド……はいないから、仲人は悪役令嬢様だ! いいな!」
金貨が――僅かに熱を持った。
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
コクリ。いつもより控えめにワインの量が減った。
そして。
『し・つ・も・ん・は・?』
悪役令嬢様が来てくれた。
メリーは胸がいっぱいになった。
悪役令嬢様と会話をするのはどれくらいぶりだろうか。メリーには言いたい事、伝えたい事がたくさんあるのだ。逸る気持ちを抑えてメリーは口を開く。
「悪役令嬢様、悪役令嬢様。さっきは……さっきはダンスを代わってくれてありがとうございました。他にも、いっぱいよくしてくれて……私、悪役令嬢様のことが大好きです。これからもずっと私とお友達でいてくれますか?」
…………………………………………。
「悪役令嬢様……?」
メリーの質問に悪役令嬢様は答えない。
ダメなのだろうか。やはり迷惑をかけすぎてしまったからだろうか。すがる思いでメリーは金貨を見つめていたが。
「メリー、ワインの残り」
「あ……」
部長に言われ、ワイングラスを見れば残りはやっと1問分。それも、テイスティングで遠慮してくれながらやっと、というところだ。
メリーはそれで分かった。悪役令嬢様はあえて答えなかったのだ。もし答えてしまったら、メリーを解放できなくなってしまうから。
メリーは考えて考えて。そうしてやっと、口を開く。
「悪役令嬢様、悪役令嬢様。大好きな、私のお友達の悪役令嬢様。儀式を終え、お帰りになる前に答えてください。また――お話ししていただけますか?」
『もちろんですわ』
今度は金貨が迷いなく動く。
そして、金貨は階段へと戻り、グラスからワインが消えた。
こうして――悪役令嬢様は帰られた。
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