【完結】降霊術『悪役令嬢様』で婚約者の浮気を相談したら大変なことになりました

堀 和三盆

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5 真実の愛の子

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 メリーは両親ともに転生者だった。それは別に珍しくない。転生者の多くは集められて教育を受けるから、そこで出会いを果たして結ばれるカップルも多い。

 ただし、メリーの両親は前世でも夫婦だった。そして、メリーもまた、前世で2人の子供。3人揃って前世でも家族だったのだ。

 こちらの世界にとっても、それは初めてのことだった。


 前世、メリーの母親はメリーを妊娠中に自宅で陣痛が始まり、夫婦揃ってかかりつけの病院へと向かう途中で事故に遭った。両親と、お腹の中のメリー。家族全員がその事故で命を落とした。

 そのときに、父と母は強く願ったらしい。

 もしも生まれ変わりがあるのなら、絶対に子供も含めた家族全員で。今度こそ、2人でお腹の子供をちゃんと育てたい――。

 結果、願いは聞き届けられメリーの両親は別の世界ではあるが、同じ時代に、同じ国に産まれることができた。

 ただし、事は簡単には進まなかった。メリーの父親は公爵家、母親は貧乏な男爵家。お互い前世の記憶を持っていて、一目で気が付いたにもかかわらず身分差が2人の邪魔をした。

 それでも2人は諦めなかった。メリーの父には産まれた時から婚約者がいたが、父は言葉を話せるようになると同時に周囲への説得を始めた。幼児が理路整然と婚約の白紙を訴えるさまは少しばかり異様に見えたらしい。

 時間はかかったが、説得の甲斐もあって条件付きで婚約の白紙は無事認められた。

 父は前世の知識を活かして領地の農業改革に取り組み、当時高級品とされていた緑茶の安定供給に成功した。そしてその功績と引き換えに、弟に爵位を譲ることを周囲に認めさせ、自身は公爵家が持つ伯爵位を手に入れた。

 メリーの母は母で、前世の知識を活用した魔道具作りで功績を挙げ、独自に子爵位を手に入れた。

 そうして身分差をギリギリまで縮め、2人は結ばれることができた。

 父が婚約を白紙に戻す条件として元婚約者の家に父と母のなれそめ話に対する出版、及び舞台化などの権利を譲り渡していたため、2人の話は元婚約者の家によって感動話として様々な媒体で広められ、かなりの収益を上げたらしい。

 おかげで婚約を白紙にしたにもかかわらず元婚約者の家とはしこりを残さず今でもいい関係を築いているそうだ。

 自国のみならず、この感動話は他国にまで広がって、メリーの両親は真実の愛で結ばれた夫婦と呼ばれるようになった。

 そして――予定通りに2人の間に産まれたメリーは『真実の愛の子』と呼ばれるようになった。

 だから。

 メリーと両親は間違いなくこの世界で一番有名な転生者家族だ。誰もがメリーを知っているし、転生者だと思っている。

 ……メリー自身は前世について、何の記憶も持っていないのに。




「その……大丈夫か、メリー嬢?」


 部長の声に、はっと顔を上げるメリー。

 ふと気が付けば、『悪役令嬢様』に使われた道具は全て片付けられている。机の上には何もない。部長とリキッドで片してくれたのだろう。


「すいません、部長。その、悪役令嬢様にまで知られているのかとびっくりしてしまって」

「まあ、悪役令嬢様は情報通だからな。じゃないとメリー嬢の婚約者の浮気相手の名前など出てこないだろう」

「確かに」


 メリー達に限らず、悪役令嬢様を呼び出して様々な質問をぶつける生徒たち。

 その質問全てに答えられる悪役令嬢様は、間違いなく学園一の情報屋だろう。そして、報酬が赤ワイン。

 そこまで思ってメリーはハッとした。

 確か、さっきの質問でワインは使い切ったはずだ。部屋をぐるりと見回すと、リキッドがワインの瓶をカバンに入れていた。

 流石に、アルコールの瓶を学園内に捨てるわけにはいかないからだろう。


「どうした? リキッドが何か……。ああ、ワインか。大丈夫、少し時間はかかるが、すぐにかわりのワインが手に入る」


 メリーの目線を追った部長が即座に答える。


「え? でも、希少な物だって……」

「まったく流通がないわけじゃない。現に、俺の父親だって投機目的で所有していたわけだしな。家の伝手で調べたところ、来週開催される隣国のオークションに何本か出品されるらしい。どうにかして一本くらいは手に入れてくるさ」

「すいません、部長……。高いのに」


 おそらくは、メリーの小遣い一年分を貯めても足りないに違いない。


「気にするな。俺にとっても投資みたいなものだ。霊の存在に一歩も二歩も近づけるんだからな!」


 そう言う部長は心からそう思っているのが分かるような満面の笑みで、メリーはホッとする。


「ただ、少々遠いから来週は学園を休むことになると思う。こんな状態のメリー嬢を一人残していくのは気がかりなのだが――。もし、不安ならリキッドを残すか、一緒に来るか……」

「いえ! さすがにそこまでご迷惑はかけられません。私なら大丈夫です」

「まあ、流石に婚約者のいる令嬢を泊りがけで連れ出すのもまずいか。分かった。でも、連絡は取れるようにしておくから、何かあったら遠慮せずに言ってきてくれ」



 そして翌日。

 泊まる予定のホテルの連絡先を手紙で送ってくれた後、部長とリキッドは言葉通りに隣国へと旅立ったのだった。





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