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3 オカルト研究会の日常
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『悪役令嬢様』にはいくつものルールがある。その中でも一番重要なのが、
「帰ってくれるまで終われない」
というもの。
そして公式ではないが、広く知られているルールとして、
「1日に悪役令嬢様が答えてくれる質問はワイン1杯分」
……というのがある。メリーはそれをオシャレな比喩表現だと思っていた。
しかし。
昨日は帰ってもらう前にグラスのワインが空になってしまったので、まだボトルに残っているワインでおかわりを注ぎ続けようとした。だがその後は金貨は一切動かなかった。
ワイン1杯分というのは比喩でもなんでもなく、用意したウェルカムドリンクを悪役令嬢様が飲んでいる間だけ質問に答えてくれる、というものらしい。
しかも、質問数とは関係なく、ワインが減る量は回答数で決まるのが判明した。全ては悪役令嬢様次第なのだ。
結局、昨日は『悪役令嬢様』を帰らせることができなかった。仕方なく、中断して帰宅せざるを得なかった。
体への影響を心配した部長が「鑑定魔法」で確認したところ、なんとメリーは自身の持つ「水魔法」の他に、「火魔法」が高レベルで使えるようになっていた。魔力を確認すると、水色の魔力に加え、重なるように赤い魔力が漏れ出ているらしい。
本来、属性が真逆になるものがそこまで強く現れることはない。どちらかが強ければ、どちらかが弱くなる。そもそも両方の属性を持つことが難しい。
これは、主たる質問者であるメリーの体の中に、悪役令嬢様が居座っていることの証明だった。
いわゆる「とり憑かれた」状態だ。
そして翌日である今日。落ち着かぬままに授業を受けた後の放課後。メリー、部長、リキッドの3人はオカルト研究会の部室にいた。
「研究会」とは言っても正式に部として認められている。当初は同好会的な趣味の集まりだったが、部長の並々ならぬ情熱と謎の交友関係で部員を増やし、正式に部として認められたのだ。
ただし、幽霊以上に姿を見せない幽霊部員ばかりなので、部室に集まるのはこの3人のみだった。メリーは残りの部員の名前すら知らない。
と、いうわけで部室のドアは昨日とは違い開いている。
本来、部活中は閉じていて問題ないのだが、男女でこの人数では妙な噂が立ちかねない。メリーに気をつかってのことだろう。
「その……体は大丈夫か?」
部長が、心配そうにメリーを気遣いながら言ってくる。昨日、悪役令嬢様を帰せないまま中断したのを心配しているのだろう。
「大丈夫です。疲れたのか、すぐ眠っちゃいました。起きたら少し、筋肉痛がありましたけど」
「ああ、分かる。俺も興奮してたから、力加減が分からなくて指がつりそうだったからな。体が緊張していたんだろう」
明るく言うが、部長の表情は冴えない。やはり、中途半端な状態になっているのが気になるのだろう。
「……悪い。俺が、メリー嬢を無理やり誘ったばかりにこんなことに」
「そんな! 部長は悪くありません。私が自分でやると決めたんです。その、婚約者に冷たくされて……やけになっていましたし」
そう。部長は悪くない。悪役令嬢様に質問があったのはメリーだ。
1人では怖くてできなかったかもしれないが、あのまま悩んでいたら、悪い方向に思い詰めていたかもしれない。むしろ、噂が真実だとはっきりしてよかった。
だから。
「私は部長に誘ってもらえて嬉しかったです」
「しかし……もう少し結果を考えるべきだった。俺は、自分の興味のためだけに……君を巻き込んだ。欲望に負けたんだ。まさか、君1人の体じゃなくなるなんて。本当に……変わりはないか?」
「大丈夫です。なんか……やたら食欲が増えちゃって。ふふっ。2人分食べているくらいなんですよ」
これは事実だ。久しぶりの食事を楽しむように。あれもこれも食べたくなる。
メリーにとり憑いているという悪役令嬢様の影響なのだろうか。太ったらどうしよう、メリーの心配はそれだけだった。
ほとんど自覚が無いため、意外にもあまり怖くなかった。
「優しいなメリー嬢は。だが、ぜひ体調には気を付けてくれ。今は君1人の体ではないんだから。俺も反省しているんだ。やるなら注意をすべきだったのに、はじめての『成功』にはしゃいで途中でやめられなかったんだ」
パタン。
会話する2人から離れ、静かに本を読んでいたリキッドが扉を閉めた。
顔が赤い。
「何をする? 妙な噂が立たないように、わざわざドアを開けておいたのに。ましてやメリー嬢は婚約者のいる身だぞ」
やはり。部長はメリーを気遣ってくれていた。細やかな配慮をメリーはありがたいと思った。
「あー、ええ。そうなんでしょうけどね。私は事情を知っていますがね。耳で聞いたことだけで広がるアレコレもありますからね? 声だけだとどう聞こえるか、考えた方がいいですよ。というか、今日も『アレ』やるんでしょう? だったら閉めておかないと」
何故か呆れたように言うリキッド。
ああ、そうだ。悪役令嬢様を呼べるのは1日1回。今日こそは帰ってもらわなくては。
そして、学園で禁止されているからにはドアは閉めておかないとまずい。部長とメリーの2人は気持ちを切り替えた。
「そうだな、やるか」
「はい! やりましょう」
机に向かう部長とメリー。リキッドはやれやれと、少し離れた定位置の椅子に戻った。
メリーはいざ紙を前にすると緊張した。
(もし、今日も帰ってくれなかったらどうしよう?)
そんな不安を吹き飛ばすように。
「大丈夫だ! メリー嬢。何回だってやればいいんだ。君1人に押し付けたりはしない。俺がちゃんと責任取って、最後まで面倒を見る」
「部長……! そうですよね。私、覚悟を決めました。部長を信じます。満足してもらえるまで、何回でも部長とやりますっ」
そうだ。何が問題なのかはわからないけれど、悪役令嬢様だって、満足すれば帰ってくれるはず。
大声で励ます部長。それに元気よく答えるメリー。
リキッドは静かに窓も閉めた。
「帰ってくれるまで終われない」
というもの。
そして公式ではないが、広く知られているルールとして、
「1日に悪役令嬢様が答えてくれる質問はワイン1杯分」
……というのがある。メリーはそれをオシャレな比喩表現だと思っていた。
しかし。
昨日は帰ってもらう前にグラスのワインが空になってしまったので、まだボトルに残っているワインでおかわりを注ぎ続けようとした。だがその後は金貨は一切動かなかった。
ワイン1杯分というのは比喩でもなんでもなく、用意したウェルカムドリンクを悪役令嬢様が飲んでいる間だけ質問に答えてくれる、というものらしい。
しかも、質問数とは関係なく、ワインが減る量は回答数で決まるのが判明した。全ては悪役令嬢様次第なのだ。
結局、昨日は『悪役令嬢様』を帰らせることができなかった。仕方なく、中断して帰宅せざるを得なかった。
体への影響を心配した部長が「鑑定魔法」で確認したところ、なんとメリーは自身の持つ「水魔法」の他に、「火魔法」が高レベルで使えるようになっていた。魔力を確認すると、水色の魔力に加え、重なるように赤い魔力が漏れ出ているらしい。
本来、属性が真逆になるものがそこまで強く現れることはない。どちらかが強ければ、どちらかが弱くなる。そもそも両方の属性を持つことが難しい。
これは、主たる質問者であるメリーの体の中に、悪役令嬢様が居座っていることの証明だった。
いわゆる「とり憑かれた」状態だ。
そして翌日である今日。落ち着かぬままに授業を受けた後の放課後。メリー、部長、リキッドの3人はオカルト研究会の部室にいた。
「研究会」とは言っても正式に部として認められている。当初は同好会的な趣味の集まりだったが、部長の並々ならぬ情熱と謎の交友関係で部員を増やし、正式に部として認められたのだ。
ただし、幽霊以上に姿を見せない幽霊部員ばかりなので、部室に集まるのはこの3人のみだった。メリーは残りの部員の名前すら知らない。
と、いうわけで部室のドアは昨日とは違い開いている。
本来、部活中は閉じていて問題ないのだが、男女でこの人数では妙な噂が立ちかねない。メリーに気をつかってのことだろう。
「その……体は大丈夫か?」
部長が、心配そうにメリーを気遣いながら言ってくる。昨日、悪役令嬢様を帰せないまま中断したのを心配しているのだろう。
「大丈夫です。疲れたのか、すぐ眠っちゃいました。起きたら少し、筋肉痛がありましたけど」
「ああ、分かる。俺も興奮してたから、力加減が分からなくて指がつりそうだったからな。体が緊張していたんだろう」
明るく言うが、部長の表情は冴えない。やはり、中途半端な状態になっているのが気になるのだろう。
「……悪い。俺が、メリー嬢を無理やり誘ったばかりにこんなことに」
「そんな! 部長は悪くありません。私が自分でやると決めたんです。その、婚約者に冷たくされて……やけになっていましたし」
そう。部長は悪くない。悪役令嬢様に質問があったのはメリーだ。
1人では怖くてできなかったかもしれないが、あのまま悩んでいたら、悪い方向に思い詰めていたかもしれない。むしろ、噂が真実だとはっきりしてよかった。
だから。
「私は部長に誘ってもらえて嬉しかったです」
「しかし……もう少し結果を考えるべきだった。俺は、自分の興味のためだけに……君を巻き込んだ。欲望に負けたんだ。まさか、君1人の体じゃなくなるなんて。本当に……変わりはないか?」
「大丈夫です。なんか……やたら食欲が増えちゃって。ふふっ。2人分食べているくらいなんですよ」
これは事実だ。久しぶりの食事を楽しむように。あれもこれも食べたくなる。
メリーにとり憑いているという悪役令嬢様の影響なのだろうか。太ったらどうしよう、メリーの心配はそれだけだった。
ほとんど自覚が無いため、意外にもあまり怖くなかった。
「優しいなメリー嬢は。だが、ぜひ体調には気を付けてくれ。今は君1人の体ではないんだから。俺も反省しているんだ。やるなら注意をすべきだったのに、はじめての『成功』にはしゃいで途中でやめられなかったんだ」
パタン。
会話する2人から離れ、静かに本を読んでいたリキッドが扉を閉めた。
顔が赤い。
「何をする? 妙な噂が立たないように、わざわざドアを開けておいたのに。ましてやメリー嬢は婚約者のいる身だぞ」
やはり。部長はメリーを気遣ってくれていた。細やかな配慮をメリーはありがたいと思った。
「あー、ええ。そうなんでしょうけどね。私は事情を知っていますがね。耳で聞いたことだけで広がるアレコレもありますからね? 声だけだとどう聞こえるか、考えた方がいいですよ。というか、今日も『アレ』やるんでしょう? だったら閉めておかないと」
何故か呆れたように言うリキッド。
ああ、そうだ。悪役令嬢様を呼べるのは1日1回。今日こそは帰ってもらわなくては。
そして、学園で禁止されているからにはドアは閉めておかないとまずい。部長とメリーの2人は気持ちを切り替えた。
「そうだな、やるか」
「はい! やりましょう」
机に向かう部長とメリー。リキッドはやれやれと、少し離れた定位置の椅子に戻った。
メリーはいざ紙を前にすると緊張した。
(もし、今日も帰ってくれなかったらどうしよう?)
そんな不安を吹き飛ばすように。
「大丈夫だ! メリー嬢。何回だってやればいいんだ。君1人に押し付けたりはしない。俺がちゃんと責任取って、最後まで面倒を見る」
「部長……! そうですよね。私、覚悟を決めました。部長を信じます。満足してもらえるまで、何回でも部長とやりますっ」
そうだ。何が問題なのかはわからないけれど、悪役令嬢様だって、満足すれば帰ってくれるはず。
大声で励ます部長。それに元気よく答えるメリー。
リキッドは静かに窓も閉めた。
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