【完結】降霊術『悪役令嬢様』で婚約者の浮気を相談したら大変なことになりました

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
3 / 34

3 オカルト研究会の日常

しおりを挟む
『悪役令嬢様』にはいくつものルールがある。その中でも一番重要なのが、

「帰ってくれるまで終われない」

 というもの。

 そして公式ではないが、広く知られているルールとして、

「1日に悪役令嬢様が答えてくれる質問はワイン1杯分」

 ……というのがある。メリーはそれをオシャレな比喩表現だと思っていた。

 しかし。

 昨日は帰ってもらう前にグラスのワインが空になってしまったので、まだボトルに残っているワインでおかわりを注ぎ続けようとした。だがその後は金貨は一切動かなかった。

 ワイン1杯分というのは比喩でもなんでもなく、用意したウェルカムドリンクを悪役令嬢様が飲んでいる間だけ質問に答えてくれる、というものらしい。

 しかも、質問数とは関係なく、ワインが減る量は回答数で決まるのが判明した。全ては悪役令嬢様次第なのだ。

 結局、昨日は『悪役令嬢様』を帰らせることができなかった。仕方なく、中断して帰宅せざるを得なかった。

 体への影響を心配した部長が「鑑定魔法」で確認したところ、なんとメリーは自身の持つ「水魔法」の他に、「火魔法」が高レベルで使えるようになっていた。魔力を確認すると、水色の魔力に加え、重なるように赤い魔力が漏れ出ているらしい。

 本来、属性が真逆になるものがそこまで強く現れることはない。どちらかが強ければ、どちらかが弱くなる。そもそも両方の属性を持つことが難しい。

 これは、主たる質問者であるメリーの体の中に、悪役令嬢様が居座っていることの証明だった。

 いわゆる「とり憑かれた」状態だ。



 そして翌日である今日。落ち着かぬままに授業を受けた後の放課後。メリー、部長、リキッドの3人はオカルト研究会の部室にいた。

「研究会」とは言っても正式に部として認められている。当初は同好会的な趣味の集まりだったが、部長の並々ならぬ情熱と謎の交友関係で部員を増やし、正式に部として認められたのだ。

 ただし、幽霊以上に姿を見せない幽霊部員ばかりなので、部室に集まるのはこの3人のみだった。メリーは残りの部員の名前すら知らない。

 と、いうわけで部室のドアは昨日とは違い開いている。

 本来、部活中は閉じていて問題ないのだが、男女でこの人数では妙な噂が立ちかねない。メリーに気をつかってのことだろう。


「その……体は大丈夫か?」


 部長が、心配そうにメリーを気遣いながら言ってくる。昨日、悪役令嬢様を帰せないまま中断したのを心配しているのだろう。


「大丈夫です。疲れたのか、すぐ眠っちゃいました。起きたら少し、筋肉痛がありましたけど」

「ああ、分かる。俺も興奮してたから、力加減が分からなくて指がつりそうだったからな。体が緊張していたんだろう」


 明るく言うが、部長の表情は冴えない。やはり、中途半端な状態になっているのが気になるのだろう。


「……悪い。俺が、メリー嬢を無理やり誘ったばかりにこんなことに」

「そんな! 部長は悪くありません。私が自分でやると決めたんです。その、婚約者に冷たくされて……やけになっていましたし」


 そう。部長は悪くない。悪役令嬢様に質問があったのはメリーだ。

 1人では怖くてできなかったかもしれないが、あのまま悩んでいたら、悪い方向に思い詰めていたかもしれない。むしろ、噂が真実だとはっきりしてよかった。

 だから。


「私は部長に誘ってもらえて嬉しかったです」

「しかし……もう少し結果を考えるべきだった。俺は、自分の興味のためだけに……君を巻き込んだ。欲望に負けたんだ。まさか、君1人の体じゃなくなるなんて。本当に……変わりはないか?」

「大丈夫です。なんか……やたら食欲が増えちゃって。ふふっ。2人分食べているくらいなんですよ」


 これは事実だ。久しぶりの食事を楽しむように。あれもこれも食べたくなる。

 メリーにとり憑いているという悪役令嬢様の影響なのだろうか。太ったらどうしよう、メリーの心配はそれだけだった。

 ほとんど自覚が無いため、意外にもあまり怖くなかった。


「優しいなメリー嬢は。だが、ぜひ体調には気を付けてくれ。今は君1人の体ではないんだから。俺も反省しているんだ。やるなら注意をすべきだったのに、はじめての『成功』にはしゃいで途中でやめられなかったんだ」


 パタン。

 会話する2人から離れ、静かに本を読んでいたリキッドが扉を閉めた。

 顔が赤い。


「何をする? 妙な噂が立たないように、わざわざドアを開けておいたのに。ましてやメリー嬢は婚約者のいる身だぞ」


 やはり。部長はメリーを気遣ってくれていた。細やかな配慮をメリーはありがたいと思った。


「あー、ええ。そうなんでしょうけどね。私は事情を知っていますがね。耳で聞いたことだけで広がるアレコレもありますからね? 声だけだとどう聞こえるか、考えた方がいいですよ。というか、今日も『アレ』やるんでしょう? だったら閉めておかないと」


 何故か呆れたように言うリキッド。

 ああ、そうだ。悪役令嬢様を呼べるのは1日1回。今日こそは帰ってもらわなくては。

 そして、学園で禁止されているからにはドアは閉めておかないとまずい。部長とメリーの2人は気持ちを切り替えた。


「そうだな、やるか」

「はい! やりましょう」


 机に向かう部長とメリー。リキッドはやれやれと、少し離れた定位置の椅子に戻った。

 メリーはいざ紙を前にすると緊張した。


(もし、今日も帰ってくれなかったらどうしよう?)


 そんな不安を吹き飛ばすように。


「大丈夫だ! メリー嬢。何回だってやればいいんだ。君1人に押し付けたりはしない。俺がちゃんと責任取って、最後まで面倒を見る」

「部長……! そうですよね。私、覚悟を決めました。部長を信じます。満足してもらえるまで、何回でも部長とやりますっ」


 そうだ。何が問題なのかはわからないけれど、悪役令嬢様だって、満足すれば帰ってくれるはず。

 大声で励ます部長。それに元気よく答えるメリー。

 リキッドは静かに窓も閉めた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。

かのん
恋愛
 真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。  けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。 「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。  ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん .+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【完結】平凡な令嬢、マリールイスの婚約の行方【短編】

青波鳩子
恋愛
平凡を自認する伯爵令嬢マリールイスは、格上の公爵家嫡男レイフ・オークランスから『一目惚れをした』と婚約を申し込まれる。 困惑するマリールイスと伯爵家の家族たちは、家族会議を経て『公爵家からの婚約の申し込みは断れない』と受けることを決めた。 そんな中、レイフの友人の婚約パーティに招かれたマリールイスは、レイフから贈られたドレスを身に着けレイフと共に参加する。 挨拶後、マリールイスをしばらく放置していたレイフに「マリールイスはご一緒ではありませんか?」と声を掛けたのは、マリールイスの兄だった。 *荒唐無稽の世界観で書いた話ですので、そのようにお読みいただければと思います。 *他のサイトでも公開しています。

【完結済】恋の魔法が解けた時 ~ 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました ~

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 侯爵令嬢のクラリッサは、幼少の頃からの婚約者であるダリウスのことが大好きだった。優秀で勤勉なクラリッサはダリウスの苦手な分野をさり気なくフォローし、助けてきた。  しかし当のダリウスはクラリッサの細やかな心遣いや愛を顧みることもなく、フィールズ公爵家の長女アレイナに心を移してしまい、無情にもクラリッサを捨てる。  傷心のクラリッサは長い時間をかけてゆっくりと元の自分を取り戻し、ようやくダリウスへの恋の魔法が解けた。その時彼女のそばにいたのは、クラリッサと同じく婚約者を失ったエリオット王太子だった。  一方様々な困難を乗り越え、多くの人を傷付けてまでも真実の愛を手に入れたと思っていたアレイナ。やがてその浮かれきった恋の魔法から目覚めた時、そばにいたのは公爵令息の肩書きだけを持った無能な男ただ一人だった───── ※※作者独自の架空の世界のお話ですので、その点ご理解の上お読みいただけると嬉しいです。 ※※こちらの作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...