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1 禁じられた儀式
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「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。いらっしゃいましたら階段の所までお越しください――」」
放課後の部室。五十音が書かれた紙の上を、指を乗せただけの金貨が意思とは関係なく動くのを感じ、2人は息を飲んだ。
それは転生者が多く通うこの学園でいつの間にか広まった遊びだ。『こっくりさん』や『○○様』といったいわゆる降霊術を異世界仕様にしたものである。
使われる文字は前世の文字である五十音。
それに加え、
「もちろんですわ(はい)」
「ありえませんわ(いいえ)」
……という「YES」「NО」での対話ができる。
鉛筆を使う。金貨を使う。1人で。複数人で。色々なルールがささやかれているが、共通していることがある。
曰く、悪役令嬢様が現れて。
曰く、婚約者がいる者に対して恋のアドバイスをしてくれる。
――らしい。
伯爵令嬢であるメリーはとある事情から興味があったが1人でやるのは怖かった。
そしてオカルト研究会部長エーサンは興味はあったが婚約者がいないためできなかった。
そんな2人の利害が一致して、今の状況である。
閉め切られたオカルト研究会の部室の中には男2人と女1人。
向かい合って『悪役令嬢様』をやっている部長とメリー、そして少し離れたところで本を読むリキッド。……彼はいつも静かに本を読んでいる。
本来なら異性と密室にいるのは避けるべきだが、今回だけは見逃してもらいたいとメリーは思っている。
この『悪役令嬢様』は学園で禁止されているからだ。
気が狂う、とか。
帰ってくれなくて大変なことになる、とか。
そんなことがまことしやかに噂されているのである。
それでも。
メリーはやらないわけにはいかなかった。最近学園内で広まっている、自身の婚約者の噂を確かめるために。
(いけない。集中しなくっちゃ)
『悪役令嬢様』はルールが厳しい。手順があるし、降りてくる霊の身分が高いこともあり、言葉遣いやマナーにも気を配る必要がある。
「来たな」
「いらっしゃった、ですよ。部長」
緊張しながらもニヤリと口角を上げる部長に対し、冷静に言葉遣いを正すメリー。
手順通りに進めなくては。悪役令嬢様が来てくれた。次は。
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。ウェルカムドリンクをお飲みください」」
金貨に指を置き。向かい合って座る部長とメリー。その間には、供物となる赤ワインがワイングラスに入れられて載っている。
クルリ。まるで香りを確認するように。ワイングラスの中のワインが波立つ。そして、ス……っと嵩が減ったと思ったら。
ばしゃ――。
ワイングラスが倒され、メリーの制服がワインで汚れた。あまりのことに目を白黒させていると。
『お・の・み・な・さ・い』
金貨が怒ったように動き回り悪役令嬢様からの指示が出た。
悪役令嬢様からの指示は絶対だ。だが。
「ど、どうしましょう、部長。私お酒に弱くて」
転生者の特性だろうか。この世界の者は水の代わりくらいにワインを飲むが、メリーは匂いを嗅いだだけでもフラリとしてしまう。
前世もそうだったのかはメリーの特殊な事情から分からない。ただ、制服にかけられたワインの香りだけで、既にいっぱいいっぱいだった。
「大丈夫だ。誰が飲むかは指定されていない。……リキッド!」
メリーから縋るように見られ、部長は静かに本を読んでいるリキッドに声をかけた。
リキッドはパタンと本を閉じ、2人のそばに来ると新たにワイングラスを2つ用意して、少しずつ注いだ。そして、自ら口に含む。
「これは……」
眉を顰めるリキッド。その姿を見て、部長も恐る恐る注がれたワインに口をつける。そして。
「「まずい」」
2人の感想がハモった。
「メリー嬢、ダメだ。このワインは安すぎる」
「え、え。だって。私、お酒飲めないから分からなくて」
メリーは両親共に転生者だ。今世は貴族だとしても、前世での教育方針を貫く親からは、一般的な貴族とは桁が違うくらいの少ないお小遣いしかもらえない。
その中でお手頃な価格の物を選んだのがまずかったのだろうか。いや、「まずい」とはっきり言われてしまった。
『ご・き・げ・ん・よ・う』
『悪役令嬢様』はその日はそのまま帰られた。
放課後の部室。五十音が書かれた紙の上を、指を乗せただけの金貨が意思とは関係なく動くのを感じ、2人は息を飲んだ。
それは転生者が多く通うこの学園でいつの間にか広まった遊びだ。『こっくりさん』や『○○様』といったいわゆる降霊術を異世界仕様にしたものである。
使われる文字は前世の文字である五十音。
それに加え、
「もちろんですわ(はい)」
「ありえませんわ(いいえ)」
……という「YES」「NО」での対話ができる。
鉛筆を使う。金貨を使う。1人で。複数人で。色々なルールがささやかれているが、共通していることがある。
曰く、悪役令嬢様が現れて。
曰く、婚約者がいる者に対して恋のアドバイスをしてくれる。
――らしい。
伯爵令嬢であるメリーはとある事情から興味があったが1人でやるのは怖かった。
そしてオカルト研究会部長エーサンは興味はあったが婚約者がいないためできなかった。
そんな2人の利害が一致して、今の状況である。
閉め切られたオカルト研究会の部室の中には男2人と女1人。
向かい合って『悪役令嬢様』をやっている部長とメリー、そして少し離れたところで本を読むリキッド。……彼はいつも静かに本を読んでいる。
本来なら異性と密室にいるのは避けるべきだが、今回だけは見逃してもらいたいとメリーは思っている。
この『悪役令嬢様』は学園で禁止されているからだ。
気が狂う、とか。
帰ってくれなくて大変なことになる、とか。
そんなことがまことしやかに噂されているのである。
それでも。
メリーはやらないわけにはいかなかった。最近学園内で広まっている、自身の婚約者の噂を確かめるために。
(いけない。集中しなくっちゃ)
『悪役令嬢様』はルールが厳しい。手順があるし、降りてくる霊の身分が高いこともあり、言葉遣いやマナーにも気を配る必要がある。
「来たな」
「いらっしゃった、ですよ。部長」
緊張しながらもニヤリと口角を上げる部長に対し、冷静に言葉遣いを正すメリー。
手順通りに進めなくては。悪役令嬢様が来てくれた。次は。
「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。ウェルカムドリンクをお飲みください」」
金貨に指を置き。向かい合って座る部長とメリー。その間には、供物となる赤ワインがワイングラスに入れられて載っている。
クルリ。まるで香りを確認するように。ワイングラスの中のワインが波立つ。そして、ス……っと嵩が減ったと思ったら。
ばしゃ――。
ワイングラスが倒され、メリーの制服がワインで汚れた。あまりのことに目を白黒させていると。
『お・の・み・な・さ・い』
金貨が怒ったように動き回り悪役令嬢様からの指示が出た。
悪役令嬢様からの指示は絶対だ。だが。
「ど、どうしましょう、部長。私お酒に弱くて」
転生者の特性だろうか。この世界の者は水の代わりくらいにワインを飲むが、メリーは匂いを嗅いだだけでもフラリとしてしまう。
前世もそうだったのかはメリーの特殊な事情から分からない。ただ、制服にかけられたワインの香りだけで、既にいっぱいいっぱいだった。
「大丈夫だ。誰が飲むかは指定されていない。……リキッド!」
メリーから縋るように見られ、部長は静かに本を読んでいるリキッドに声をかけた。
リキッドはパタンと本を閉じ、2人のそばに来ると新たにワイングラスを2つ用意して、少しずつ注いだ。そして、自ら口に含む。
「これは……」
眉を顰めるリキッド。その姿を見て、部長も恐る恐る注がれたワインに口をつける。そして。
「「まずい」」
2人の感想がハモった。
「メリー嬢、ダメだ。このワインは安すぎる」
「え、え。だって。私、お酒飲めないから分からなくて」
メリーは両親共に転生者だ。今世は貴族だとしても、前世での教育方針を貫く親からは、一般的な貴族とは桁が違うくらいの少ないお小遣いしかもらえない。
その中でお手頃な価格の物を選んだのがまずかったのだろうか。いや、「まずい」とはっきり言われてしまった。
『ご・き・げ・ん・よ・う』
『悪役令嬢様』はその日はそのまま帰られた。
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