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静かに医務室に入ってきた少年は、幼いながらも威厳に満ちあふれていて、一見してただの貴族令息でない事がマリアにも分かった。
「探したよ、ジェラルド」
「あ、兄上」
その会話と、畏まった治癒師の態度でマリアは今目の前に居る二人がこの国の王子である事に気づけた。
仔狼を腕に抱いたまま両膝をついて跪くと少年、アルフレッドはやんわりと礼を解くように伝え立ち上がらせた。
アルフレッドはマリアを愛おしそうに見つめるとゆっくりと近づきマリアの耳元に唇を寄せ囁く。
「久しぶりだね。あの時は可愛らしい花冠をありがとう」
「・・・あ、」
自我に目覚める前だったので朧げだったが、その出来事は思い出す事が出来た。暖かな日差し、芳醇な花々の香り、優しい少年の笑顔。
「兄様たちの、おともだち?」
マリアがおずおずとそう訪ねて少し上にあるアルフレッドの顔を見上げると、それは嬉しそうに破顔してマリアは抱き締められた。
「そう、覚えててくれたんだね。嬉しいよマリア」
「あ、あの殿下」
「アル」
「え」
「アル、だよ」
呆気に取られた治癒師とジェラルドを置いてきぼりにして二人は至近距離で見つめ合う。その距離に先に耐えられなくなったのはマリアの方だった。
じわりと頬を赤く染めて離れようと身を捩る。恥ずかしそうにアワアワと慌てるマリアのその様子を可愛くて愛しくて仕方がないとでも言うかのように見つめるだけで腕の力を弱める気配は全く無い。
「あの、あの、は、離してください」
「なぜ?」
「な、なぜ?」
「久しぶりだねっていう抱擁だよ?駄目なの?」
「えっと、えっと」
「元気そうで良かったよ。ますます可愛くなったね」
「あ、ありがとうございます」
すぐに誤魔化されてしまうその愛らしさにアルフレッドは胸を締め付けられるようだった。
痺れを切らしたのはジェラルドで、少々大きめの声で「あにうえ!」とアルフレッドに声を掛けた。マリアを抱き締めたまま目だけをジェラルドに向けてアルフレッドはその声に応える。
「そ、そろそろ戻らねば皆が心配します」
「そもそもお前を探しに僕は来たんだけどね?」
「う、申し訳ありません・・・」
はぁ、とため息を吐いてアルフレッドはマリアをやっと離した。さすがにもう時間の限界だろう。惜しいが仕方ない。
「じゃあ、その銀狼の子供は治癒師に預けて会場に戻ろうか。終わったらまたここに来れば良い」
マリアとジェラルドが治癒師を見ると、微笑んで頷く。それで良いという事のようだ。マリアはそっと仔狼を治癒師にわたす。状況を分かっているのか、仔狼は始終おとなしい。
「また後でね」
小さな頭を撫でてその額にチュッとキスを落としてから離れた。そのまま入り口で待っていた王子二人に促されるままマリアも歩き出す。
会場までの道中で双子の姿を見つけ、あ、と声をかける前にマリアの方を見た双子が物凄い速度で駆け寄ったかと思うと、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。
いい加減遅いマリアを探して歩きまわっていたのか二人共うっすら汗をかいていた。それに気付くとマリアは申し訳無さと心配して貰える嬉しさで双子をキュウっと抱き締め返す。
その様子を見つめる王子二人の顔は複雑な思いを乗せた一言では言い表せない表情をしているのだった。
「探したよ、ジェラルド」
「あ、兄上」
その会話と、畏まった治癒師の態度でマリアは今目の前に居る二人がこの国の王子である事に気づけた。
仔狼を腕に抱いたまま両膝をついて跪くと少年、アルフレッドはやんわりと礼を解くように伝え立ち上がらせた。
アルフレッドはマリアを愛おしそうに見つめるとゆっくりと近づきマリアの耳元に唇を寄せ囁く。
「久しぶりだね。あの時は可愛らしい花冠をありがとう」
「・・・あ、」
自我に目覚める前だったので朧げだったが、その出来事は思い出す事が出来た。暖かな日差し、芳醇な花々の香り、優しい少年の笑顔。
「兄様たちの、おともだち?」
マリアがおずおずとそう訪ねて少し上にあるアルフレッドの顔を見上げると、それは嬉しそうに破顔してマリアは抱き締められた。
「そう、覚えててくれたんだね。嬉しいよマリア」
「あ、あの殿下」
「アル」
「え」
「アル、だよ」
呆気に取られた治癒師とジェラルドを置いてきぼりにして二人は至近距離で見つめ合う。その距離に先に耐えられなくなったのはマリアの方だった。
じわりと頬を赤く染めて離れようと身を捩る。恥ずかしそうにアワアワと慌てるマリアのその様子を可愛くて愛しくて仕方がないとでも言うかのように見つめるだけで腕の力を弱める気配は全く無い。
「あの、あの、は、離してください」
「なぜ?」
「な、なぜ?」
「久しぶりだねっていう抱擁だよ?駄目なの?」
「えっと、えっと」
「元気そうで良かったよ。ますます可愛くなったね」
「あ、ありがとうございます」
すぐに誤魔化されてしまうその愛らしさにアルフレッドは胸を締め付けられるようだった。
痺れを切らしたのはジェラルドで、少々大きめの声で「あにうえ!」とアルフレッドに声を掛けた。マリアを抱き締めたまま目だけをジェラルドに向けてアルフレッドはその声に応える。
「そ、そろそろ戻らねば皆が心配します」
「そもそもお前を探しに僕は来たんだけどね?」
「う、申し訳ありません・・・」
はぁ、とため息を吐いてアルフレッドはマリアをやっと離した。さすがにもう時間の限界だろう。惜しいが仕方ない。
「じゃあ、その銀狼の子供は治癒師に預けて会場に戻ろうか。終わったらまたここに来れば良い」
マリアとジェラルドが治癒師を見ると、微笑んで頷く。それで良いという事のようだ。マリアはそっと仔狼を治癒師にわたす。状況を分かっているのか、仔狼は始終おとなしい。
「また後でね」
小さな頭を撫でてその額にチュッとキスを落としてから離れた。そのまま入り口で待っていた王子二人に促されるままマリアも歩き出す。
会場までの道中で双子の姿を見つけ、あ、と声をかける前にマリアの方を見た双子が物凄い速度で駆け寄ったかと思うと、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。
いい加減遅いマリアを探して歩きまわっていたのか二人共うっすら汗をかいていた。それに気付くとマリアは申し訳無さと心配して貰える嬉しさで双子をキュウっと抱き締め返す。
その様子を見つめる王子二人の顔は複雑な思いを乗せた一言では言い表せない表情をしているのだった。
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