目覚めたら天使でした。

momo

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 その日、アークロード公爵家は歓喜に包まれていた。数十年前にあった悲劇の影響で女性の出生率が著しく低下している世界。
この世界で待望の女児が誕生したのだからその喜びは推して知るべしである。
妻サラは声もなく涙を流しているし、夫ルークはひたすらサラを慰めているが目にはやはり涙が滲んでいる。

「ご苦労さまだったね。よく頑張ってくれた」
「ルーク・・・」

サラの手を握りしめ感慨深げにお礼を告げるとルークはさぁ名前は何が良いかな、と微笑んだ。
妊娠中に魔術師により性別は分かっていたものの女児は基本的に死産が多い。下手をすると母体にまで危険が及ぶ為、子供も欲しいが愛する妻の命を優先させた結果子供は半ばあきらめていた。
ほとんどの家庭で女児妊娠が判明した時点で母体の無事を優先させる。一説には、女児は胎内で母の魔力を多く吸収して成長する為一般的な母親では魔力が枯渇してしまうからとされている。
この件に関しては諸説あり詳細には解明されていない。一部ではこの世界に呪いがかかっているのではなどという噂もあるが何が正しいのかは神のみぞ知ることである。

そんな中、サラが女児を身籠ったと分かった時にルークは正直絶望した。その子が無事に産まれないかも知れないどころか愛する妻が死ぬかも知れないからだ。
あからさまに顔を青くした夫に向かってサラはコロコロと無邪気に笑った。

「何も起こっていないうちから悲しむなんて、もったいないこと」

サラは言う。叶わなかった時の事を考えて沈んでいても産まれた時の事を考えて楽しんでも経過する時間は同じ。
ならば後者の方がよっぽど幸せではないのか。産まれるその瞬間まで、今しかできない楽しみ方で過ごしましょう。

妻の言葉にルークは覚悟を決める。危険性が高いのであれば、それを低くする為に自分が出来る事を考えて母子どちらも自分が守れば良い。
幸運にも自分の役職は王宮魔術師団団長である。魔力支援は専売特許だ。仕事場である魔術棟に籠もる日々が続いた。
そして運命の日。遠隔で母体に魔力を供給する魔道具を死ぬ気で発明したルークは窶れながらも医務室に向かって一心不乱に魔力を送り続けた。

結果、サラは危なげなく無事に愛らしい女児を産み落としたのである。
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