残酷なこの世界に花束を!

えごのかたまり。

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一般病棟

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「少しずつ良くなってきましたね。
ずっとこの部屋じゃつまらないでしょう。一般病棟に移動しましょう。」


入院して2週間位してから、担当医に言われた。


ご飯はみかんのダンボールをひっくり返した様な超・超・超簡素な机に乗っけて食べてたし、小説も漫画も持ち込めない。週に2回のお風呂。外の見えない窓。


私はすっかり隔離病棟に飽きていたから、その言葉が飛び上がるほど嬉しかった。


『一般病棟!行きたいです!!!』




その日の昼、初めて一般病棟に繋がるドアを通った。


数十人の患者さん、十数人の看護師さんがホールのような所でご飯を食べていた。


同年代かな?というグループの子達が居たので、とりあえずそこに入れさせて貰ってお昼を食べた。


小学校4年生のあいちゃん。
中学校2年生のりんちゃん。


2人は気さくに話してくれた。
年下とは思えないような大人っぽさだった。


「ねぇ、なんでここに入院したの?」


第一声がそれだった。


『いや、首吊っちゃって…』


「あ、あいもだよー!!」


あいちゃんの首には痛々しい縄の跡がついていた。


ぞっとした。


高校生のガキである私が言うのもなんだけど、あいちゃんもりんちゃんも、子供の目をしていなかった。


曇っているような、死んでいるような。
世界の汚いところを見てしまった目だった。


そして、2人の腕を見てさらにぞっとした。


リストカット…


凄まじかった。
ツ〇ッターとかで見るメンヘラさんのやつ所じゃない。
グロすぎて。
逆にリスカしてない皮膚はどこなの?ってぐらいビッシリ、深い傷が刻まれていた。









初っ端から怖い思いをしたけれど、隔離病棟よりはよっぽど快適だ。


2人部屋だが、念願のベットと小さいロッカーが与えられた。


あ、マットレスだ。
やわらかい…
あ、外が見える窓がある。
すごい、外の世界ってこんなんだったっけ。


さすがに2週間も隔離病棟に篭っていたから、もう何もかもが新鮮だった。




でも。
そんなに幸せは続かない。


ホールでテレビを見て、部屋に戻ってみたら、知らない男の人が私のベットで横になっていた。


え?


『あの、そこ、私のベットなんですけど…』


話しかけると、その男の人は怒り狂った。


「なんだとぉ?!うっせーんだよ!!!どこで寝ようが勝手だろ?!!おらぁ!
殺されてぇのか!!!」


えええ。
そんな理不尽な。



看護師さんが来てくれて一旦平和が戻ったが、その男の人は手足を縛られて隔離病棟の方へ連れてかれていた。


ほかにも、壁を殴りまくって破壊する患者さんもいた。


夜中に部屋に入ってきて意味不明な事を話してくる患者さんもいた。


奇声を上げて走り回る患者さんもいた。


正直怖かった。










また、頻繁に事件が起こる。


あいちゃんが自分のベットの柵にタオルを括りつけて、首を吊った。


もちろん、看護師さんに見つかってそのまま隔離病棟送りになったけど、あの時のあいちゃんは異常だった。


まだ小学生だぞ。


自分の首を自分の手で絞めて(物理的に)、笑いながら
「あー、あたまくらくらするなぁ」
って言って登場してきたこともあった。


隔離病棟から出てきて、落ち着いたのかな?と思いきや、貸し出し専用の病棟の爪切りで自分の手の甲を切り出した。


異様な光景だった。


小学生が。
自分の手を。
爪切りで。
ぱちんって。
切ってる…





あいちゃんだけじゃなかった。


りんちゃんもどこからか入手したカミソリ(病院内は刃物は持ち込めない。)で手首を切っては看護師さんに怒られていた。

手首だけじゃない。
腕も。脚も。首まで切っていた。


痛々しかった。


でも、周りの患者さんも看護師さんもいつも通りの光景としか思っていなかったのか、全然動揺している感じはなかった。


慣れないのは私だけ?



自分より小さな子が自分を傷つけたり殺そうとしている姿を見ているのもしんどかったし、同じく首を吊って自殺未遂した私が優等生扱いされる謎な環境だった。


いや、隔離病棟も嫌だったけど、一般病棟もなかなかしんどいな。


自殺未遂なんてするんじゃなかった。


結局苦しいだけじゃん。













また、もう1つ辛いことがあった。






家族だ。









私の家族は超が着くほどの仲良しで、暇さえあれば旅行に行ったりしていた。


誰がどう見ても幸せな家庭だった。


実際、私もその家族の一員でとても幸せだった。


自殺未遂も家族には何の関係もなかった。



でも。




私の母は毎日お見舞いに来てくれた。


父は仕事の合間を塗って1人でもお見舞いに来てくれた。


どうしよう。


2人の表情が曇ってる。




我が子にこんな思いをさせたんだ…
と、罪の意識を持ってしまったことがバレバレだった。


あんなに仲良かったのに。


なんだか距離感がわからない。


会話がぎこちない。


なんか2人の笑顔が変わった?


笑ってるのに、その裏で泣いているみたいな。


辛かった。


この事が想像できなかった訳ではなかった。


でも。
もう取り返しはつかないし、前のようには戻れないだろう。


自殺未遂したことを強く後悔した。


戻りたい、戻れない。


ごめんなさい。


お父さん、お母さん、ごめんなさい。


ごめんなさい。


こんな娘でごめんなさい。


毎日後悔に苛まれた。




わたしが、かぞくを、こわしたんだ。
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