魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*九十九・魔力ゼロの魔法使い   

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「痛い。痛いよ。いきなり何をするの早苗さん?」

「今、なんで蓮君に近付いたのかしら?」

「それは、ちょっと心配になっちゃって」

 とっても素敵な笑みを。花梨にとっては恐怖の笑みを。早苗はそんな笑みを浮かべた。

「それだけ?」

「うん。それだけだよ」

「それなら安心したわ。てっきりわたしは、花梨ちゃんが西尾君が真似をして、花梨ちゃん自身の寿命を削ろうとか考えているかと勘違いしちゃった。最近、本当に西尾君に似てきているから」

「ははっ、いやだなぁ~。早苗さんそんな訳ないよ」

「ねえ……わたしの眼を見て、さっきと同じじことが言える?」

 ーー花梨は一部の例外を知っているが、早苗が、君やちゃん付けから呼び捨てにするという変化は認められた証でもあった。
 それを崩して、早苗の視線は真っ直ぐに向けられていた。
 花梨は正直、怖くって堪らない。 

 今なら何故、西尾お兄ちゃんが自身の寿命を削ってまで、わたしに魔力を分け与えたのか分かる気がした。
 蓮に、花梨お姉ちゃんと呼ばれたのも嬉しかった。
 もしわたしが西尾お兄ちゃんと同じ存在になったのなら、寿命は腐る程に長いはずだよね?

「だって、可哀想だよ。この世界、魔力があって当たり前なんだよ……それにわたしの寿命は長いんだよ。普通の人の何十倍もあるはずなんだから……」

 咲希があきれる。

「アナタは、馬鹿です。命をなんだと思っているんですか。わたしの時みたいに、また命を削るつもりですか?」

 小春が続く。

「花梨ちゃん、咲希さんの言うとおりだよ。命をかるく見たら駄目だよ。確かに、わたしや寿命はゆうに千は越えるよ。そこから一~二時間ぐらい縮んでも、あまり気にしないのかもしれないけど」

 それは花梨にとっても初耳だった。花梨自身や、咲樹や早苗を含めて頭の中は、えっ? そんなに長かったんだ。そこから一~二時間。それならーーそういう考えが一瞬だけ浮かんだがそんな意見を通す程、花梨に対して甘くなかった。
 ロイもなんとなく意味を理解して、花梨に対して甘くない。

「小春ちゃんや咲希の言うとおり、命は、命だと思うぞ」

「そ、そんな。ロイまで」

 花梨は落ちこまずにはいられない。
 けれども諦めずに反論する。

「もしかしたら、あんなことがなかったら、普通に魔力に目覚めていたかもしれないんだよ。魔力を失うということは、手足を失なうことと同等。もしくは、それ以上に苦しいことだから。つまり、未来の手足を失なったことと同じ意味だよね?」

「ーー俺もそう思うぞ、花梨」

「って西尾お兄ちゃん! いつの間に? というかなんで、そんなに顔がはれているの?」 

 花梨は驚いてから、冷や汗を浮かべた。それは無理もない。西尾お兄ちゃんの顔は、つぶれた完熟トマトのようだったのだから。

「早苗いわく、遅刻らしいからだ……まあそれはそれとして、俺も血を分け与えるから、花梨も寿命を削る必要はないぞ」

 小春が説明する。

「魔力の核を分け与えるのは、実質、血だったらどこでも問題ないんだよね。その血の量さえ考慮しなかったら。だから、わたしの血も分け与えるよ」

 咲希もその流れに加わろうとする。
「それならわたしのーー」
 花梨が否定する。
「咲希ちゃん、咲希ちゃんの魔力の核はまだそこまで成長してないから、その血に意味はないよ。というかわたしや小春ちゃんみたいに、心臓まで変化するパターンってまれなんだよ。血は、そうなってこそ意味があるんだよ」

 咲希は歯を噛みしながらも、おとなしく引き下がるしかなかった。

 ーーこうして、魔力ゼロの魔法使い・蓮が誕生した。
 この事実を知っているのは、花梨・咲希・小春・早苗・ロイ・透のお母さん・蓮本人・ロベルト教師・ギルド巡礼奥底に封印されていたはずの三人の魔族だけだ。

 この後。

 三人の魔族は表向き再封印されたというかたちになったが、今では何故か鈴魔法学園の生徒となって。
 蓮も、鈴魔法学園の生徒となった

「くれぐれも言っとくけど、お空を飛んで行っちゃ駄目だからね」

「分かってるって、お母さん」

「今日は、花梨さんや咲希さん達が一回ギルド巡礼に戻ってから遊びにくるってマホデンがあったから寄り道せずに戻ってくるのよ」

「やったぁ~! んじゃ、行ってきます!」

 蓮の夢は、花梨と結婚することだ。異世界の言霊や陣を教えてくれた花梨お姉ちゃんは、カッコ良くって強くってあこがれの存在で。
 蓮が鈴魔法学園の生徒となったのはそれらが大きい。
 その事実を花梨が知るはずはないが。

 花梨や咲希・小春やロイもまだ鈴魔法学園の生徒で、クラスは違うが蓮もギルド巡礼に封印されていた魔族らも加わって、今日も楽しい一日が始まろとしていた。
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みんなの感想(6件)

逆境燃
2023.01.30 逆境燃

 第一話の序盤に引っかかり所さんが多いですねぇ!
 少し見てみましょう!

’’
――そこにブレはいっさいない。
「残念だがここまでだ。この先は、お前にはキツイ。それに夜も近いしな」
「それじゃ仕方ないですね。俺抜けます。どう考えても、昼より夜が危険だったりしますもんね」
 杖を背負う女性は無表情。いや、微かに意外そうな表情が浮かんでいる。
「いやにあっさり逆に拍子抜け。――――」
‘‘

 これを読んで少しも引っかからないのは、書いてる本人か、勘のいい人か、何度も読み返した読者か、地の文を全く読まないタイプの人ですね。

 まず、普通の読者は『その場に何人いるか』分からず混乱してしまうでしょう。
 文章の流れを追っていきましょうか。

 『残念だが――』の一文で、最低でも『話してる人』とその『会話の相手』、≪2人の人間≫がいることが推定されます。
 『それじゃ仕方ない――』で、その推定されるもう一人が出てきますね。
 しかし、この時点では『2人しか登場人物がいない』と誤解される可能性が高いです。
 そのため『杖を背負う女性』が出てきますが、描写が足りないので彼女が『無表情』に『それじゃ仕方ない――』と上の文章を喋った可能性が否定できません。
 一人称が『俺』だから男とは限らない時代ですしね。

 つまり、『軽装の男性』と『杖を背負う女性』しかいなくて、西尾くんがいると読者に認識されないんですね。

 そして『いやにあっさり――』と『闘気術だけ――』と言う文章を見て、ようやく読者は『もしかしてこの場には3人の人間が存在するのか?』と気付くわけです。

 作者視点では初めっから3人いると分かって書いていますが、読者はこの推理を経てようやく状況が飲み込めるわけですね。

 初めから3人の登場人物がいると描写しておくか。
 もしくは『杖を背負う女性は無表情』の部分を『その会話を聞いていた杖を背負う女性は無表情に――いや、』みたいな感じに
 『前の会話とは全く無関係の人物がこれから喋りますよ』と分かるようにした方がいいですね。

 登場人物が2人だったり、誰がいるか明らかな場面ではこういう細かい所は気にしなくていいです。
 また、多少読み進めれば淑女さんの文体に慣れてくるので、描写がなくても分かるようになってきますが、完全初見で読み始めると面食らう人が多いと思います。

淑女
2023.01.30 淑女

なるほど。ありがとうございましたm(_ _)m

解除
にゃんP
2022.03.30 にゃんP

RT企画で流れてきたので読みました
最初から最後まで何が起きているかわかりませんでした
粗筋の違和感に気づいた時点で読むのをやめればよかったと思うほどです
キャラも物語も何も入ってこないです
こういう設定があるんだなというのはなんとなく分かりました
登場人物に全く共感できない中で、
スマホのゲームで友達を招待して一緒に初心者ボーナスを得たいという下心
ここだけが妙にリアルで不気味です
数話読んだ感じだと西尾が主人公かと思ったのですが違うんですね
ここまで壊滅的だとこれから面白くなることにも期待できなさそうです
これを書くのをやめろとは言いませんがRTで読む企画に出す前に修正すべきではと思いました
RTで人に読んでもらう前にもっと作品を良くすることを頑張るべきです

淑女
2022.03.31 淑女

すみません。自分の実力不足ですね_(._.)_

解除
ふれっく
2022.03.24 ふれっく

読ませていただきました。
私の理解力が乏しいもので、場面や展開を理解するのに時間が掛かりましたが……内容自体は面白く、興味のそそるものなので良かったです!

面倒かもしれませんが、セリフを喋ったキャラや、その動作の描写を細かくすると、より面白くなるかもしれません!

素敵な作品をありがとうございました!

淑女
2022.03.24 淑女

感想ありがとうございます🙇
ちょっと文章を削りすぎたかもです。それと一部、表記ミスがありました🙇

解除

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