魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

文字の大きさ
上 下
98 / 99
第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*九十八・暴走・決着と、これからーー

しおりを挟む
  
 戦斧は、自身が花梨より弱いことはとうの昔に理解が出来ていた。
 ある意味、逃げることも正解だ。
 いや昔なら、そんなことは考えずに逃げなかっただろう。

 だが今の選択は、昔と大きく意味が違う。
 だが力が足りない。
 なら、どうするべきか?
 戦斧は腹の底から叫んだ。

「本当は隠れているんだろう! この大会に参加したんだ! それなりに腕に覚えはあるんだろうっ! 女子供が頑張っているんだ、簡単に逃げられる訳はないよなぁーー!」

 隠れていた人達がぞろぞろと姿を現す。

 戦斧は再び叫ぶ。

「お前らのありったけの魔力をコイツらに集めろ! 根性を見せてみろっ!」 

 戦斧の考えを察して、早苗が続く。

「皆! わたしには水属性を、ロイ君には火属性を集めて!」

 花梨が叫び、
「待って!」
 早苗とロイに魔力を集めようする皆の動きを止めて、反論する。
「無理だよ。いくらなんでも魔力量が多すぎるよっ」

 小春と咲希は黒龍の猛攻をくい止め、動きを止めた周りの皆も加勢をする。
 周りの人達は、闇の竜を見たとたん逃げ隠れしたのを、情けないと思った。
 だが。
 俺達だってやれる! あの竜を放置したままにするべきではない。女子供が頑張っているんだ。ほとんどの人達が戦斧の気合いに触発されていた。 

 そんな中、早苗は静かに笑う。

「確かにそうかもね。でもそこに、ちょっとした潤滑油を混ぜたは場合はどうなるかしら? そういうことでしょう戦斧さん」

 戦斧はガハハッと笑う。

「察しがいいじゃねぇか、そういうことだよ」

 けれども花梨は素直に呑めない。

「待って、戦斧さん大丈夫なの? わたしや小春ちゃんですら普通なら無理な量なんだよ?」

「やるしかねぇんだよ。俺達がこう話している間も、あの竜の猛攻をくい止めている皆がいる。迷っている暇はねぇんだよ」

 花梨は辺りを見回すと、ほんの数秒しかたってないのに皆がボロボロの状態だった。
 もし闇の竜意識がしっかりしていたのなら、その気だったのなら、殺気を向けられた蓮も皆も一瞬で終わっていたはずだ。

 それともう一つ。

 小春が闇の竜の黒炎をふせいだり、牙や爪を受け止めたりしているからだ。
 戦斧は分かっていた。もしそれが自身なら一瞬で沈んでいたことも。独りならどうしようもなかったことも。

 戦斧は怖かった。
 昔より、臆病者になったのかもしれない。
 だが昔の馬鹿な自分より、今の方がはるかにマシだ。
 怖いが、前へ進むしかない。

「花梨から月属性をもらったんだ。花梨の月属性は特別製だろ! だから、俺なら絶対に大丈夫だ! 心配なんかするんじゃーね!」 
 
 小春はその案を呑み、
「分かったよ、戦斧さん。わたしが最大出力で竜の動きを止めるから、」
 叫び、
「皆は、早苗さんに水属性を、ロイさんに火属性をお願い!」
 最大出力で、花梨や皆を包み込むように結界を展開する。

 皆は自身の水属性を早苗へ。火属性をロイへ。

 早苗とロイは両手を上げ、それぞれその頭上に太陽のような玉を作り上げた。 
 花梨も両手を上げ、自身の異質な魔力で太陽の玉を作り上げて。
 戦斧も月属性の太陽を作り上げた。

 それらの太陽を消そうと闇の竜は7メートルを越える黒炎を吐くが、小春がさらに結界を強めた。

「土壇場で成長したわたしの全力全開の魔力だから、そう簡単には破れないよ。んで、そのまま結界を縮小してアイツの動きを封じるから一発で決めて」

 そう宣言したが、黒炎の衝撃と熱さは、小春を一瞬でギリギリまで追いつめた。
 しびれと熱さが全身を襲う。ちょっとでも気と魔力を抜いたら、全身を焼きつくしそうな程の威力。もし闇の竜が余力を残していたのなら、全力を受けきるのは不可能だろう。

 小春は、闇の竜を囲むように結界を縮小。身体の奥底から限界以上の魔力を絞り出して、結界へ注ぎ込んでいく。

 闇の竜は黒炎を吐いて足掻く。

 一瞬で結界は黒く染まり、ひびが走り、今にも焼け崩れ落ちそうな威力がのしかかる。
 それでも小春は耐える。縮小すると同時に、結界の密度も上げていく。 

 早苗とロイと花梨と戦斧は、四つの太陽を一つに合わせると、それは蒼白い輝きを放って一直線に突き進み。
 小春は結界を解除。
 蒼白い光は、黒龍へ巨大な風穴をあけた。
 元もとが魔力のかたまりだった闇の竜は、その身が黒い靄へと変わり消滅する。 

 ーー心身ボロボロな周りの皆がその場から去った頃。

 花梨は気を失っている蓮へゆっくりと歩み寄って。
 早苗は自身の身の丈程ある氷の巨大ハリセンを一瞬にて形成。地を一蹴りして可能な限りのスピードで、花梨との距離をつめその脳天へ一気に氷の巨大ハリセンを振り落とした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました

平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。 ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...