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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*九十六・ギルド巡礼の地下の奥底に封印されしはずの魔族・花梨とユリ
しおりを挟む花梨は思う。
可愛いかな? と。
だが、姿は可愛くっても相手は魔族だ。
「可愛いから一瞬とまどったけど、やっぱり本気を出さないと、ね」
花梨はそうつぶやいてから蒼い陣を描き、
「高めるは、我の魔力そのもの。さらに高まれ我の魔力。我の封印を解け」
そう言霊をのせた。
耳は尖り、目測1メートル猫のような白い尻尾が生えてきた。
花梨の眼は蒼く変色する。
ユリは赤い魔法陣を描いて、
「我の魔法陣にとおすは、火と水の属性。相反する属性よ、我の魔力のもとで一つなれ」
詠唱。
左手のひらへ火属性。右手の平へ水属性。自身の胸の前で赤と水色の光を一つに合わせると、それはまっ白な輝きを放った。
花梨は気を引き締めて、
「結構、強そうだね」
そんな感想をもらして。
ユリは地を蹴ってせまり、合成された魔力を刃渡り1メートルぐらいの剣に形成して振るう。
普通に振るうと並の相手なら、胴と下半身が真っ二つになるスピードと威力。だからこそユリは手加減をしたが。
一瞬の間。
ユリは明らかに顔色を変えた。
「まさか右の片腕のみで簡単に凪ぎ払われるとは思ってなかったよ」
ーー時には宙を、地を縦横無尽に駆けユリと花梨がぶつかり合い。
激しさは加速して。
二人は宙に踏みとどまる。
ユリの額から一筋の汗が流れる。
「まさか、魔力ゼロの相手がこんなに強いとは。想像以上だね。ボクでも、ちょっとキツイぐらいだよ」
「わたしもだよ」
花梨としては、これ以上は後はない。
それはユリも同じだった。
そこで優位にたつ為には、何が必要か?
花梨とユリは攻防を続けながらも考える。
時には花梨は突風や吹雪を放って、ユリはそのほとんどを合成された魔力で相殺する。
地面に足を付け、花梨は考えていた答えを出す。
「実は、ね。わたし、後もう一段階の封印解除を残しているんだよ」
「奇遇だね。実はボクも、ある切り札的な技をもう一つ残しているんだよ」
はったり、だ。
そのはったりに一瞬だけ? となる者がいた。
小春だ。
「ん? 封印のことは西尾先輩から聞いていたけど、それは初耳だよ」
ルンルンも? となって続く。
「わたしも、ユリにそんな技があるとは初耳だぞ。はったりじゃないのか」
? を感じさせないルンルンの台詞は沈黙を作りだす。
それは、はったりだと肯定しないばかりに。
パァーシー―ン、と。
どこかしらか取り出した巨大なハリセンを右手に、小春へ突っ込みをいれたのは早苗だ。
「だからアナタは、能天気娘って言われるのよ。試合を有利に進める為のウソだと分からなかったの?」
小春は当然のように答える。
「そんなの、気付いていたに決まっているじゃん。一瞬だけ? となったけど。かっこいい花梨ちゃんって、なんか花梨ちゃんじゃないじゃん」
「それもそうね」
花梨は、
「えっ? 早苗さんそれでいいの?」
反論するが、そんなものに意味などなかった。
相手は、早苗なのだから。
早苗は意地悪く、真剣に笑う。
「仕方ないでしょう。最近の花梨は、西尾君に似てきているんだから」
「そういうことだよ」
「そういうことです」
台詞が小春と咲希、どちらか判別が出来ないぐらいのダメージに花梨は笑うしかなかった。
その頃。
魔族側でも似たようなやり取りあったのだろう。ユリも笑っていた。
花梨は今の状況を塗りつぶし、やっぱりかっこいいと言わせる為に、切り札的な技を使うことを決意する。
ユリも、ほぼ同じことを考えていた。
花梨は服の下に隠していた自身の魔力を超圧縮した珠を取り出して、それを強く握りしめた。
「そろそろ決着をつけようよ」
「そうだね」
ユリは纏っていた合成された魔力を消し去り、その右手に、超圧縮した闇属性の魔力の固まりを握りしめた。
花梨はとユリ。思いは一つ。
かっこ良く決めて勝ちたい。
今は、只それだけ。
向かい合ったまま、数秒。
花梨は圧縮した魔力の固まりをそのまま握りつぶし、爆発燃焼させて、蒼いフレアを撒き散らしユリヘ急接近。
ユリも圧縮した闇属性の固まりを握りつぶし、爆発燃焼させて、闇色のフレアを撒き散らし花梨へ急接近。
ユリの右手には、刃渡り30センチぐらいの闇属性のナイフ。
花梨の右手には、刃渡り30センチぐらいの異質な魔力のナイフ。
二つの刃が交差して、重なりあい。
花梨とユリはそれぞれ後方へ弾け飛んだ。
花梨としては、後はない最大の攻撃だった。
それはユリも同じだった訳で。
「残念だけど、わたしの負けだね」
「残念ながら、ボクの負けだな」
「「ん?」」
? と、顔を見合わせる二人。
「「と、いうことは、二人して負けたということだな」」
花梨とユリの勝敗は、互いに負けという結果に終わった。
引き分けでも、いいんじゃないか? そんな疑問はあったが、本人達はそれで納得しているので。互いに負けを認め合っているので。それに口を挟む人はいなかった。
互いに負けはしたがその戦いの様子は、蓮の興奮させ、身体の奥底へ封印された天界人の血をほんのちょっとだけなら呼び覚ますには充分で。
魔族の封印をくらった咲希の闇属性は、そのかすかな血の匂いを嗅ぎ付け。
ーー蓮の心臓が、ドクンッと鳴った。
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