魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*九十五・ギルド巡礼の地下の奥底に封印されしはずの魔族・咲希とルンルンーー次へ

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 対してルンルンは素早く魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは水の魔力。氷よ刃となれ」
 約5メートル。ほぼ同じ規模の氷の刃を放ち相殺するが、その瞳には驚きの色が浮かんでいた。

 反発する属性同士を合成した場合、その時点で性質が変わり、それに使われたはずの火や水属性を扱うことはできない。火や水属性に付加したとしてもバランスが取れなくなり合成そのものが崩れる。普通なら、合成したその魔力しか使えない。
 つまり咲希は、通常なら不可能なことをやってのけたのだ。
 規模から、誤魔化しが利くような生半可な魔力のこめ方ではないはず。けれども、その放たれた冷気を形成したはずの水属性はまったく感じられない。

 お気に入りのリボンと、ルンルンという自身の名前を馬鹿にされたことに腹はたつが、それはそれとして、未知の技に興奮も覚えはじめる。

「ランが異星人と言ったときには内心笑っていが、あながち間違いじゃないのかもしれないな」

「それってわたしも宇宙人という意味ですか?」

「事実、そうとしか考えられないだろう」

 咲希としては異世界の異質な魔力を隠す気はなく、同時にこと細かく説明する気もなかった為、
「違います」
 そう簡潔に答えた。

 ルンルンとしては、異星人の能力としか説明のしようのない常識はずれの技に興味はあったが、それを追及する気はない。勝負を楽しめれば良いのだから。

「そうか」

 ルンルンは地を蹴って、お空へ。
 咲希も地を蹴って、お空へと。
 ルンルンは宙を駆け右の拳を突きだして。
 咲希はそれをかわして一回転。そのまま右回し蹴りを放つ。
 ルンルンは右腕でガードしてから、確かな手応えにわずかに右の口角をつり上げ笑う。

「さすがは、ウルトラ能天気な異星人だな。強いな」

「色いろ、余計なものが多すぎます」

 口では不満をもらしつつも、咲希も純粋に勝負を楽しんでいる。
 けれどもまともに闘えるのは、指輪の力を借りているからに他ならない。咲希にはそういう不安要素がぬぐいきれないままだ。
 だから早めに決着はつけたいが、自身の魔力と指輪の魔力だけでは決定打に欠けるはずーー

 異世界も咲希や花梨が住む世界も、基本、自然界の生命力に働きかけるもの。

 異世界の魔力より、こちら側の世界の魔力を扱ってきた時間の長い咲希は、異世界の魔力を扱う練度は花梨や小春よりはるかに劣る。
 だからこそ、こちら側の魔道具の力を借りた。
 しかし、もうそれは過去のものだ。
 異世界の魔力もきちんと扱わないと勝てないだろう、この勝負。 

 咲希は笑みを浮かべた。

「風が強くなってきましたね」

 咲希の腰まで伸びている黒髪をほとんど肩と同じ高さまで持ち上げるほどに、風は強くなってきている。

 咲希は蒼い陣を描いて、

「高めるは風の渦。集え、我の魔力のもとへ」

 言霊をのせて。合成した魔力も付加させて。いくつもの蒼い風の渦を発生させそれを一つに束ねた。それは元の竜の姿でも完全に呑み込むほど巨大な竜巻となって。咲希は右手をまっすぐ上に伸ばして、そこへ竜巻を移動させる。

「言霊をのせることもまったく阻止せず、余裕ですか」

「詠唱のことか?」

「違いますけど、それです」

「単純に見てみたいと思ったからだよ。わたしですらまったく知らない、ウルトラ能天気な異星人の術を、な」

「後悔しますよ」

 咲希の頭上にかがげられた竜巻はルンルンへせまり。

 ルンルンは右手で赤い魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは水の魔力。氷よ嵐となれ」
 詠唱する。
 一つ一つはその手におさめることができるほどに小さい氷。それが無数に宙に形成され竜巻と同じ規模の嵐となり、こまくを突き破るような轟音を響かせて竜巻を相殺する。

 そして、咲希の背中の蒼白い翼は消滅した。指輪の魔力を使いきり、自身の魔力はわずかしか残っていない。

「残念ながらこの勝負、わたしの負けです」

「ということは、わたしの勝ちだな」

「仕方ありません。わたしは半分、指輪や魔武器の力で闘っていましたので、それを使い果たした今となっては勝ち目などありませんので」

 正直な話。ルンルンも魔力のほとんどを使いきっていた。今、現在。空中に浮いている魔力を維持するのも苦労するぐらいに。
 だから咲希の実力を認め、負けも認めるはずだった。

 ルンルンは内心ほっとする。

 咲希は、花梨の方へ降りて行き右手を差し出す。

「花梨さん、バトンタッチです。あなたのその実力みせてあげてください」

 花梨はその手をかるく叩いて、
「分かってるって」
 青い竜の前に出て続ける。

「わたしは、いきなり全力だすからね」

 青い竜は眼を輝かせて、声変わりしていない男の子のような声で言う。

「うん。ボクも最初から全力だすから」

「似合わない声と人称だね」

「よくそう言われるよ。けど、こっち側の世界とは違う異質な魔力や魔法にはびっくりしちゃった」

「もしかして、宇宙人扱いしない?」

「皆の会話を聞いていたからね。宇宙人の能力というか。つまりは、宇宙人の魔力と魔法なんだよね。そういうことだよね」

「いやそれは違うよ。で、名前はなんていうの?」

「リン」

「わたしは、花梨だよ……行くよ!」

 花梨は蒼い陣を描いて、

「高めるは風の刃。集え、我の魔力のもとへ」

 言霊をのせて、巨大な5メートルを越えるだろう蒼い風の刃を放った。

 ユリはその巨大からは想像が出来ないスピードで難なくかわす。

 ーー蓮は大興奮だ。魔力ゼロでも強くなれる事実と未知の技や術に。花梨や咲希、小春への憧れはさらにふくれ上がってーーーー

 ユリもさらに興奮が高まる。

「ボクもちょっと本気になろうかな」

 10メートルはある巨体が縮んで、小さなーーの姿になった。
 背の低さは早苗といい勝負だろう。
 だが、巨大すぎる方だろう。

 姿がハムスターなのだから。
 普通なら手のひらの上に乗せられそうな、あのハムスターなのだから。 
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