魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*八十八・魔白曜石の洞窟・カンナと黒曜

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 花梨は? となる。

「……んと? その試練って何? それに階段のぼってないし」

 今度は低い声の主が? となる。

「階段をのぼらず?」

 小春は当たり前のように答える。

「そんなの、わたし達の魔力でお空を飛んで来たからだよ。階段をのぼらなかったらそれしか方法ないじゃん」

 低い声の主は意味が呑み込めなかったが、それを無視した。頭の中では? だらけだったが答えが出なかったからだ。

「……とりあえずは、実力をはからせてもらうぞ。その実力が俺にあたいするかどうかを」

 花梨は入口の試験でわずかにテンションがあがっていた為に、前へ出ようとするが、

「待ってください。わたしが戦います」

 手を伸ばしたカンナにさえぎられた。
 
「これには、SSSランクの中でさらにランクを上げる試験のようなものです。その最高峰が早苗さんみたいな特SSSランク。つまりはZランクなんです。一部、ズルみたいなことをしましたが……ここは、SSSランク成り立てのわたしが戦います」

「俺の対戦相手が決まったか。悪いがいきなり本気を出させてもらうぞ」

 奥から、低い声の主はゆっくりと姿を現した。
 その姿は体長10メートルを越え、その巨体を包み込むような翼を持ち、それを四本の足で支えている黒い竜だった。
 そして近くになり、より強く感じられるのは闇属性。

 カンナは確信する。

「その属性。その姿。アナタ魔族ね」

「そのとおりだが、魔族に知り合いでも?」

「ええ、ちょっと訳ありでね」

「そうか。俺は、黒曜こくよう。本気でいくぞ」

「なら、わたしも」

 カンナはそう言うと宙に魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、我の魔力。魔力よ、我の封印を解け」
 詠唱する。
 カンナの耳は尖り、目測1メートル猫のような白い尻尾が生えてきた。眼は赤く変色する。

「なるほど。数少ないあの種族の血をひいているのか、それなら俺の知らない何かしらの力をもっていそうだな」

「魔力と感覚は激しく上昇するけれども、それ以外は特別なことはないわ」

 カンナのその言葉に、黒曜は目の上の皮膚をピクリを震わす。

「なら訊くが、魔力使用不可能エリアの階段をのぼらずどうやってここまで来た? 後ろのいかにも能天気そうな、魔力ゼロの二人組のおかげではあるまい。可能性があるとすればあの種族の血をひいているのお前か、もしくは、お前と同じ種族の血の匂いがする赤い髪のそこの男と幼女ぐらいだからな」

 花梨と小春と早苗に衝撃が走り抜けた。

 まさか、いきなり幼女扱いされるとは夢にも思ってなかった早苗は反論する。
「わたしは幼女じゃありません!」 

 花梨と小春に関しては、初めて会って会話すらしたことのない相手に能天気と言われたショックが大きかった。

 小春も反発せずにはいられない。
「ちょっと待った、わたしは能天気じゃありません。それにちゃんと聞いてた? あの階段はわたしと花梨で突破したの!」
 花梨もすぐに続いた。
「そうだよ! それに、わたしも能天気じゃないよ。いきなり失礼すぎるんじゃない?」

 二人して胸をはってそう言うが、どちらにも説得力はなく冷たい視線が突き刺さる。
 仲間内だけにとどまらず、初めて会った相手にすらも説得力を与えなかったのだ。
 二人そろって、能天気なオーラは恐るべきものがあるだろう。

 小春と花梨は騒ぎまくるが、黒曜は無視する。というか、アレらと関わったら駄目な予感がした。

「とりあえずは、実力をはからせてもらうぞ」

 黒曜は巨大な牙がはみ出す口から、大きく息を吸い込み。

 同時。

 カンナは魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは土の魔力。土の魔力よ、我の盾となれ」
 詠唱し、直径5メートルはありそうな岩の円の盾を形成。
 吐き出された当たり一面を火の海にしそうな真っ赤な炎を、すべて弾き黒曜へと返す。
 ほぼ全身を炎に包まれるがわずかに覗く顔とその口もとからは、笑みが見えた。

「俺の炎をそのまま返すか……」

 黒曜は、たとえるなら真っ白に輝く光の柱を口から吐いた。
 けれどもその巨大な雷の柱も、カンナは形成していた岩の盾でそのまま返して。
 巨大な身体へ纏っていた炎へ、雷が加算される。
 黒曜の笑みはそのまま変わらない。

「ああも簡単に俺のブレスを返すとなると、この姿はちょっとやりづらいかもな」

 そう言うと黒曜は真っ黒な闇の魔力を辺りへ放ちながら、その身体を人に変えた。

 身長は、10メートルを越えていた巨体から想像できない低さ。恐らくは、花梨や早苗と互角だろう。肌は黒い竜の姿から想像できない白さで。
 真っ白な髪は、腰まで伸ばしてツインテールにまとめている。

 その幼い姿に、疑問の声を張りあげたのは小春だ。

「なんで女装? スカート? スカートって女の子が着るものだよ」

 すぐさま黒曜は、突っ込みの叫びを返せずにはいられない。

「この姿のどこに、男と間違う要素があるんだ!」

 フリルをたっぷり使って、膝下をちょっと隠すあわい水色スカートと、上と同色のパフスリーブの上着。顔も可愛い部類にはいるだろう。
 黒曜は正論を述べたが、小春は? となる。

「えっ? いや。だって、ちょっと声低いし。それにスカートの理由って?」

「声はちょっと低いだけだろう。スカートは可愛いからだよ。それと、男と間違われないようにだよ。悪いか?」

「悪くないけどちょっと……」

 黒曜は逃げるようにカンナへ続きを促す。

「……とにかく、さっさと続きを」

「そうですね」

 カンナは一瞬にして距離をつめ黒曜の左斜め前方にせまり、逆の右斜め前方から氷のつぶてを十発。視界から消えるように右後ろ回し蹴りを放つ。

 後ろへ一歩下がった黒曜へ、カンナも一歩踏み込んで身体を一回転させて左の裏拳を放つ。
 それを、黒曜は右ひじでガード。

 カンナは笑う。
「なかなかやりますね」
 ガードしたまま、黒曜もニヤリと笑う。
「まさか体術でくるとはな」

「今さらわたしの魔法は、インパクトに欠けるんです」

「仮にもSSSランクだろう。それでインパクトに欠ける? 面白い冗談だな」

「冗談何かじゃないわ。けれども、体術じゃ決め手に欠けるのも事実ね」

 そう言うとカンナは魔法陣を描いて、

「魔法陣にとおすは土の魔力。土よ刃となれ」

 詠唱して右手をかかげ、頭上に無数の槍先のような岩の欠片を浮かび上がらせた。
 一つ一つは、カンナのその手のひらより小さいが、鉄をも容易く切り裂ける威力だ。

 黒曜も右手をかかげ、頭上に無数の闇色の玉を浮かび上がらせた。
 一つ一つは、カンナの岩の欠片程に小さいが、鉄をも容易く溶かす威力だ。

 飛びかう無数の氷の欠片と闇の玉。それらは様ざまな動きを繰り返すがやがて、すべてが相殺され消滅した。

 黒曜はニヤリと笑みを浮かべたまま。
「さすがは、SSSランクといったところか」
 カンナもニヤリと笑みを浮かべたままだ。
「それはお互い様よ。ちょっとは、すきを作れると思ったんだけど。さすがは魔族ね。けどわたしは、まだ認められてないの?」

「とっくに認めているさ。だけどこのまま勝負がつかないのも面白くないだろう。そこで、お互い最大の攻撃をーー」

 黒曜の提案をカンナは否定する。

「却下。その最大の攻撃を放てるようにすきを作るのも実力のうちですよ。むしろ、そっちの実力の方が大事じゃない?」

「それもそうだな」

 ぶつかり合う拳と拳。交差する脚と脚。飛びかう岩の欠片と闇色の玉。

 そんな一進一退の攻防の中。ふっ~~と、先に大きな息を吐き出したのは黒曜だった。
 それなりに余裕のある一息で。まだ息もきらしてないが、けれどもその差は大きい。
 そう、黒曜は判断した。

「この勝負、俺の負けだ。恐らく、まだ何かしらの隠し球をもっているだろう。逆に、俺はない」

「そうね。なら、ありがたく勝ちを頂きます」

 こうして戦いは無事に終わったが、花梨は納得が出来なかった。初老の鈴木成と、全力を出して戦ったことが否定されたからだ。
 最大限の攻撃を叩き込むそのすきを、自らつくらないと意味がない。それは納得も出来るが、同時に納得しきれないのもあった。
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