魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*八十・ギルド・狐の眼、見学会・ギルド員Aランク

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 普通なら戦いの最中の小さな声の会話など聞き取れるはずのない、ミールという呼び名を、鋭敏な聴覚を持つ小春は聞き取って一瞬だけ顔色を変えた。

 カンナはそれを見逃さず勘違いをする。
 魔族であるミールと、どういう関係なのかを。

 小春は知り合いと同じ名前だから単純に反応してしまっただけなのだが、魔力がゼロの上、魔黒曜石の洞窟で氷と風の狩人と顔見知りということを確認している。
 魔力がゼロということは、それなりの理由があることが多い。さらにはSSSランクの中でもトップクラスの実力者と知り合いだ。

 只の偶然にしては出来すぎているかもしれないが。本当に只の偶然だ。
 カンナの勘違いは仕方のないことなのかもしれない。
 それが一瞬のすきを生む。

 ミールはそれを見逃さない。
 風属性の魔力をそのまま放つ。威力は低いがそのまま放った為に速い。

 カンナの体勢を崩すには充分だった。

 それを確認することなくミールはすばやく宙に魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは風の魔力。風よ舞い、巨大な渦となれ」
 詠唱すると、いくつもの小さな風の渦が発生。
 それは前のめりになり倒れそうなカンナの体勢をさらに崩して。
 その風の渦は、踊るようにカンナを攻撃しながら集まり、やがて巨大な竜巻となる。

 なんとか体勢を立て直したカンナだが、そのまま巨大な竜巻にみ込まれてまれてしまった。
 竜巻が消え去ると、カンナは血を流してないものの見るからにダメージはでかい。今の防御で、魔力もかなり量が失われていた。

 真剣勝負ならミールは追い討ちをかけていたが、これは模擬戦だ。
 ミールは気は抜かないものの動かない。

 カンナは魔力を絞り出し地を蹴りミールへ向かうがその途中へ、小春が入り込んだ。

「はっきり言って、勝負ありだよ。カンナさん。これ以上やるなら、わたしが相手だよ。今のカンナさんなら、わたしでも確実に勝てるから。魔力ゼロの人に負けて恥をかくよりいいでしょう」

 カンナは笑って答える。

「それもそうね。この勝負、わたしの負けね」

 SSSランク同士の戦いで、結界にひびが入りもろくなった箇所を、氷柱の指輪の魔力で陣を描いて詠唱。そして結界へ風穴をあけたのだから、センスは悪くない。
 小春は今のカンナだと勝てると判断したのかもしれないが、SSSランクはそんなに甘くない。
 カンナはそう思ったからこそ苦笑したのだが。

 だが、小春の言った言葉は事実だ。
 カンナの反応も予想の範囲内だ。

 誘いにのってものらなくっても、どう転んだとしても、小春はそれだけの実力があるから問題ないが、カンナとしてはプライドがちょっとだけ傷つけられた気分だった。

 *

 ーーギルド狐の眼のギルド員の一人が、鈴魔法学園の生徒達の前に出る。
 上はショートスリーブの紺色。下は黒く長いジーンズ。そんな衣服を身に付けて、長身でやせているけど筋肉質。髪は黒く短い。

「SSSランクには及ばないとは言え、Aランクの実力も教えてやりたいと思っている。誰か俺と、模擬戦をしたいヤツはいるか? 誰でも良いぞ。もちろん俺は相手の力量に合わせてやる、Aランクだからな」

 すぐさま反応したのは小春だ。
 勢い良く右手を上げて、「はいっ! はい!」一人で騒ぎまくっている。

 誰でも良いぞとは言ったが、基本、魔法道具に頼らないと戦えない女の子が希望するとは思わなかった。
 SSSランク同士の戦いに飛び込むのだからそれなりに度胸はあると、その時は思っていたが今の言動から察するに能天気なだけのようだ。
 そんな彼女に、ギルド狐の眼のギルド員Aランクは現実を教えてやろうと思った。

「ほかに参加者はいないか?」

 手を上げて跳び跳ねまくっていた小春は、ほほを膨らませた。

「いないじゃん」

 そんな返答に、ギルド員Aランクは思わず苦笑がもれる。

「いいぞ、相手になってやる。結界の修復もすんだことだし、全力を出していいからな」

「えっ? いいの? 結界がまた壊れても知らないよ」

 その能天気さぶりは、対戦する相手のみならず、鈴魔法学園の生徒達やギルド・狐の眼のギルド員達をも巻き込んで爆笑の渦を起こした。

「いいぞいいぞ。そんなに柔な結界じゃないからな。と言っても、勝負はすぐにつくと思うがな」

 Aランクのこの言葉も事実だ。たとえ、どんな隠し球があったとしてもだ。

 小春とAランクは、修復された結界内へと足を進めて。
 小春は試合開始と同時に氷柱の指輪を振るう。
 もちろん、避けられること前提だ。
 けれどもAランクは、

「うあ~~。やられちまった」

 避けることなく、拳だい氷の固まりを顔面にくらって、めちゃくちゃ棒読みな台詞を発して顔面から倒れた。
 かなり痛かったがAランクは我慢して、ピクリとも動かない。
 小春は足元にたまたま落ちていた小枝を拾って、しゃがみ込んでから突っ付くが動かない。

 そんな光景が繰り広げられている結界内に、カンナが足を踏み入れる。

「もう勝負ありでしょう。この勝負は、小春ちゃんの勝ち。それにこれ以上いじめてもーー」

 カンナは一旦言葉をきって、黒い笑みを浮かべた。

「これ以上いじめても、面白いかも」

 馬鹿じゃないのお前。間違っても変なことは考えるなよ。お前は、頭の良い子だ。Aランクは心の中で、念話を届けることすら忘れて叫びまくる。
 やっぱり芝居だとバラすか、バラさないか。バレバレな気がしないでもないがそれを考えたら負けだ。
 Aランクは意味の分からないことを考えつつ、迷い。

 カンナは良いアイデアが浮かばなかったのでとりあえず、小春と同じ動作でツンツンと突っ付く。
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