魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*七十九・ギルド・狐の眼、見学会・カンナとミール

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 朝からロベルト教師は異常な程にニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

「今日は、一日授業はなしだ。そのかわりギルド・狐の眼の見学会をおこなう」

 小春は気になって声をかける。

「何かやけに嬉しそうですね」

「ん? そうか?」

「んと、ちょっと気持ち悪いぐらい」

 小春に遠慮という文字はない。
 ロベルト教師は、子供のような笑みで言い訳をする。

「だって、しょうがないだろう。SSSランク同士の模擬戦を見られるんだぞ。これが興奮せずにいられるか」

 その言葉にピクンときたのは花梨だ。もしかしたら、西尾お兄ちゃんも来るかもしれないからだ。

 その期待を胸に秘めたまま、ギルド・狐の眼へ。
 今はその地下訓練所だ。

 花梨の感想としては、ギルド・巡礼の方が広さはやや上でその訓練風景は、

「ここも結構本格的かも」

 と、いうものだ。
 花梨の実力を知らないロベルト教師は注意を促す。

「一応、言葉は選べよ。BからAランクなんだ。お前の実力は足元に及ばないことは頭に入れておけよ」

「分かった。気を付けるね」

 花梨は素直にそう答えた。
 けれども、小春は正直に言う。

「だけど、やっぱりSSSランク同士の模擬戦に比べたらちょっと見劣りするかも」

「あのなあ。そもそも、SSSランク同士と比べるのは間違いなんだよ。普通あんな模擬戦は、中なかお目にかけられるもんじゃないからな」

 小春は、
「でも、今日も見れるんでしょう」
 そう反論して、

「それは単純に運がいいだけなんだよ。それぐらい分かれよ」

「なるほど」

 そう納得した。
 ギルド巡礼同様その規模からか、複数ある受付席や休憩所を説明を受けながら廻って、本日のメイン、SSSランク同士の模擬戦まで後一時間となった。

 苗は、ギルド・狐の眼で食事をしていた女の人に声をかけられて、

「ちょっと、いいからしら?」

 人気のない場所へ。
 それに気付いたのは、ロイ・花梨・小春のみだ。

急遽きゅうきょ今回の模擬戦をおこなうことにしたのは、苗さんアナタにわたし達の実力を知って欲しいからなの」

 ギルド狐の眼のSSSランクだと、苗は確信するが分からないことだらけだ。

「なんで、わたしなの?」

「細かい説明は抜きにして要点だけを伝えるから、ギルド巡礼の奥底に三匹の魔物が封印されていることはご存知かしら? ギルド・巡礼の氷と風の狩人さん」

「ええ。そういう話は、ちらっとだけど聞いたことはあるわ。その言い伝えがすべて本当か嘘か別としてね。仮に本当だとして、わたしですら知らないことをどうしてアナタが?」

「たまたま、というか成り行きでね。早苗さんが知らなかったのは、外部への漏れを防ぐ為。知らなかったから漏れようがないから」

「確かにそうかもねーーけれども」

「実は一度、暴動が起きているの……かなり悲惨ひさんなね。今は、ほとんどの人は知らないけどーーもうすぐその封印が弱まる時期が来ようとしているの。だから今は警戒を強める時期なの。そして、実力を上げるには早苗さんの元が一番だと判断したの」

「なるほどね」

「意外とあっさり信じるのね。どうして、そんなにあっさり」

 早苗は笑って答える。

「勘というヤツかしら。それに退屈しないですみそうじゃない。そうでしょう花梨、小春、ロイ」

 赤い月明かりを受ける大木の陰から花梨、小春、ロイが姿を現す。

 女の人は、その三人を見据えた。

「今日のことはあなた達だけの胸の中にしまってくれたら、嬉しいんだけど。わたしは、カンナというから覚えといて」

 小春は即答する。

「了解。だけど。わたしや花梨が言ったところで、信じない人がほとんどというのがオチだと思うけど。だからわたし達が後をつけてきても、気にしなかったんでしょう」

 花梨が続く。

「わたしもそう思うし、誰にも言わないよ。小春ちゃんの言うとおり、馬鹿にされるのがオチだと思うしね」

 ロイも続く。

「俺も秘密にする」

 ーーSSSランク同士の模擬戦の時間となった。
 
 ギルド・狐の眼のSSSランクがさっきまで花梨達と話をしていたり、カンナがちょっとだけストレスを発散させたりした場所の近く。
 周りの密集する大木が赤い月明かりを受け、地面は直径10メートルの魔法陣が描かれて、赤く透明な結界がはられている。

 魔法陣の中心辺りにいるSSSランクの片方は見るからに小柄な女性だ。後ろで束ねている髪は腰まであり、真っ黒なローブを纏っている。カンナだ。

 もう片方はほりの深い顔立ちで、痩せた長身の男性だ。こちらの髪も腰まで伸びており、真っ白なローブを纏っている。
 けれども、長い髪は中途半端にパーマがかかっており。顔は中途半端に黒い。
 誰の目からも戦う前から、炎でダメージを受けているようにしか見えない。

 あんなのがSSSランクなのか? というか大丈夫なのか。
 鈴魔法学園の見学者のみならず、ギルド・狐の眼の関係者達も多くはそういう不安が頭の中をよぎったが。

 試合が始まるとその不安は、わずか数秒で歓声へと変わった。
 カンナはSSSランク成り立て。いや、まだ仮のSSSランクで知名度は低い。二つ名もない。
 何故なら氷と風の狩人に決めてもらいたい。実はカンナは、早苗のファンなのだ。
 だからこそのいきなりの全力だ。


 当然、相手も全力で対処しなければならない。
 それで盛り上がらない訳がない。

 初っぱなから、カンナが全力で放った結界内を覆いつくすような無数の岩の槍を、相手はほぼ同数の風の槍で相殺する。

「いっさい手加減なしだな」

「認めてもらいたいから。それにこれぐらいじゃやられないでしょう。ミールさん」
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