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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*七十四・鈴魔法学園・魔力ゼロの新入生達
しおりを挟む「おお、めちゃでかいね」
花梨が思わず見上げた、鈴魔法学園は大きい。
門からして3メートル以上、中の建物はその数倍はある高さだ。
門の格子状の隙間から中の様子を物珍しげに見る花梨へ、咲希はそっけなく言う。
「無駄に大きいだけですよ」
建物は近くからだと視界に収まりきらない広さと高さがあり、それらが三つ建ち並び、校庭も異様な程に広い。瞳のど真ん中に映る、池と噴水は優雅で。
それは小春を刺激するには充分だった。
小春は、ぱっちりお目目をキラキラさせた。
「だったらなんで、そんなに大きいの?」
「趣味。趣味ですよ」
またそっけなく答えた咲希に、花梨は疑問をいだく。
「咲希ちゃん、この学園に何かありそうな台詞だね?」
「何にもありませんよ」
そんな台詞を、小春と花梨は本当だとは思えなかった。
事実、咲希はこの学園の創立者と知り合いだが。
「とりあえず中に入って、」
咲希は門を開け「さっさと試験を受けましょう」と促す。まるで、嫌なことを振り払うかのように。
間違いなく何かあったんだと感じながらも、花梨と小春は中へと進んで行く。
咲希は辺りを見回して、
「確か、魔道具・魔武器科の試験会場は、こちらのはずです」
慎重に進んで。
たどり着いた先には、何故かクオンもいた。
知り合いがいたことに嬉しくなって、小春は声をかける。
「やっほ。クーちゃんも受けるんだ試験」
「まあ、お前らと一緒だと面白そうだからな」
ーーそれから試験は、体力測定が主で。魔力ゼロの花梨・小春・クオンは魔力がない分、体力測定の基準が上乗せされたが三人とも無事に合格した。
学食で食事をすませて。午後一番の授業が始まろうとする時刻。
西尾・小春・小百合・クオンは、魔道具・魔武器科の教室の前で。小春はドアを勢い良く開けた。
時期外れの新入生だからか教室がざわめく中。
花梨と咲希が、赤い短髪が目立つ見知った人を見かけた。
花梨はつい声をかけて。
「もしかして、ロイさん?」
ロイもつい反応する。
「もしかして、花梨?」
黒いスーツ姿の教師もつい声をかけた。
「なんだ? お前ら知り合いか?」
ロイは肯定する。
「まあ、知り合いだな」
続いて花梨も。
「わたしも」
教師は「とりあえずそういう話は後にして、新入生はこっちこい」と口にする。
西尾・小春・小百合・クオンが教卓の近くにある黒板の前に移動すると、
「まずは自己紹介だろう? 俺も属性とか色いろ気になるところがあるからな。まずは俺からな。俺は、ロベルト。属性は月と火だ。よろしくな」
教師は自己紹介をはじめて。
皆にもそれを促す。
「あいさつは基本だ。ローカ側の席の前の方から、新入生へ一人ずつ自己紹介をしろ」
ーー自己紹介が一通り終わると、ロベルト教師を含む期待の眼差しが、花梨・小春・咲希・クオンへと向けられた。
「わたしは花梨ね。魔力ゼロだけど、よろしくお願いします」
「小春です。わたしも魔力ゼロだけど、よろしくお願いたしますね」
「クオンだ。俺も魔力ゼロだけど、よろしくお願いします」
「わたしは、咲希といいます。わたしも魔力はゼロです」
四人ともそう頭を下げると、ロベルト教師はロイへ一瞬だけ視線を向けた。
「新入生の四人のうち、四人全員魔力がゼロだと、逆に怪しい気がするんだが。実は、魔力量はとんでもないけど、その魔力は隠しているというオチじゃないだろうな? どっかの誰かさんみたいに」
ロベルト教師のとっても素敵な笑みに、ロイは冷や汗を流す。
続いて花梨も一瞬だけ、とっても素敵な笑みをロイへ向ける。
「とりあえず、わたしは魔力なんて隠してないよ。どっかの誰かさんみたいに」
小春は、ぱっちりキラキラお目目をロイへと向けた。
「わたしも魔力を隠してないけど、それなりに強いからね。どっかの誰かさんみたいに」
小春の場合は完全に勘だが、それでもロイを焦らすのには充分だった。
ロベルト教師はニヤニヤしたまま本題へと入る。
「とりあえず、この魔道具・魔武器科の目的を教えるぞ。基礎的な魔道具・魔武器の知識や使用方法、簡単な応用を覚えてもらう。そして卒業までに、最低一つは、自分専用の魔法道具も作ってもらうぞ。何をどれだけ作ったり、それをどれをどのように強化したりするのも自由だ」
ロベルト教師は一息置いて続ける。
「……だが、結局は学生だからな。本職には勝てないということは頭に入れておけよ。という訳で新入生は、まずは素材集めからだな。と言っても、さすがに四人のうち四人全員が魔力ゼロだとキツイだろうからな。ロイはまだどの班にも所属してないだろう。素材集めが遅かったからな。ロイは新入生の班に入れ。ロイもそれで問題ないだろう?」
「ああ。問題ない」
「なら、決まりだな」
ロベルト教師がそうまとめようとしたが、一人の生徒が手を挙げた。
「はっきり言って不安すぎるんですが、ロイですよ? ロイ? 不安にならない方がおかしいでしょう」
花梨は、ちょっと気になってロイへ念話を届ける。
ロイさん。えらい言われようだけど、ここでも落ちこぼれのふりしているの?
ロイは一瞬だけ眉をピクリと動かすが、すぐにいつもどおりの表情へと戻って念話を届けた。
ん? これは念話か?
まあ、ね。
相変わらず魔力の欠片すら感じないが、不思議なものだな。
わたしのは、魔力の質そのものが普通じゃないからね。
いや。俺は、闇と聖属性の魔力も知っているんだが。
だから、一般的な五つの属性でも、闇でも聖でもないんだよ。わたしの魔力は、ちょっと特殊だから。
“異界”には、俺の知らない属性があるのか?
それも違うよ。
いきなり何も話さなくなった花梨へ、咲希は声をかける。
「どうしたんです?」
「あっ……ごめん。咲希ちゃん、ちょっと考えごとをね」
「そうですか。今日は授業はなしで、わたし達の歓迎会をして、それで一つの模擬戦を見るんですって。なんかゲストとして、SSSランクが二人来ているらしいので」
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