魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*七十三・咲希の封印・咲希と異世界の魔力

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 紗耶香は叫ぶ。

「早く! 逃げてください! 正直、守りながら戦うことは出来ません!」

 翼を一振りしただけでこの威力だ。
 Sクラスのブラックドラゴンを咲希と二人で倒したことのある紗耶香は、心のどこかで油断していたのかもしれない。
 断っても強い希望により、咲希はこの場にいるかもしれないが。
 それでも、はっきりと断るべきだった。

 自分一人でなく、咲希と二人だったことは強く実感していたが、それでも今回の魔物ぐらいなら大丈夫だろうと思っていた。
 実質、ブラックドラゴンの魔力量にはおよばない。

 けれども紗耶香は忘れていた。相手が自由に空を舞えることを。こちら側は空を自在に舞えるのが自分しかいないことを。
 本来ならそれが何を意味するかなんて、考えるまでもないことのはずだった。いや、そういう懸念は少なからずあったが、自身の予想をはるかに上回る強さだった。

 だからこそ咲希は叫んだ。

 だが、氷の翼をもつ魔物はそれを許そうとしない。
 森へ足を踏み入れた者の仲間だと判断して、魔物は天高く空を舞って咲希・小春・花梨へとせまり。再び翼を一振りして、無数の氷の刃を放つ。

 激しい衝突音が辺りに響いて、氷のによる霧が発生し辺りを一瞬だけ覆った。

「もうちょっと秘密にしたかったんだけど、仕方ないな」

 晴れるとその霧の発生源だった場所には、小春が笑みを浮かべて魔力とも闘気とも違う、直径2メートル程の円状の不可思議の盾を形成していた。

 状況を花梨と小春本人を除いて、魔物を含めて誰も理解が出来ていない。
 その一瞬の間。
 花梨は地を一蹴りし、紗耶香とクオンの前に出て、異質な魔力のドーム状の結界をはって。

 小春は右の手で不可思議な盾を形成したまま、咲希をより強く見つめる。

「咲希さん。戦う力を、魔力を失ったからって、いつまでも落ち込んでいる場合じゃないよ」

「わたしは落ち込んでいないですよ」

 咲希はそっけなく答えて、小春は自分勝手に続ける。

「実を言うとさ、わたしも花梨も西尾先輩から魔力を分けあたえられたことがあるんだよ。だから、わたしも魔法が使えるの」

「魔力の欠片すら感じませんが」

「そりゃ、感じる訳ないよね。わたしや花梨、西尾先輩の魔力の核は、本来ならこの世界に存在するはずがないから」

 小春は不可思議の盾を形成したまま逆の自身の左の手で、咲希の右手をそっと握り魔力を流す。
 それは花梨と小春が分け与えた魔力の核を刺激して、咲希の右手から小春や花梨と同種の魔力を強制的に放出させた。

 咲希はいまだに呑み込めず、今まで扱った魔力とはまったく別物の感触に戸惑い。

 小春は左の手を咲希から離して、
「咲希ちゃん、左右どっちの手で良いから、わたしの左の手の動きを真似て。台詞も真似て。きっと、出来るはずだから」
 右の手で不可思議な盾を形成したまま、左の手で宙に蒼い陣を描いて。
 咲希も意味の分からないまま真似て、右の手で宙に蒼い陣を描いて。

 小春は言霊をのせた。
「高めるは炎。集え、我の魔力のもとへ」
 咲希も真似て言霊をのせた。
「高めるは炎。集え、我の魔力のもとへ」

 小春と小百合の左の人差し指から約直径50センチぐらいの火球が放たれ。
 それは魔力を感じない魔法に驚いて動きが止まった魔物へ直撃し、氷の翼の一部を砕いた。

 ダメージとしては小さいが魔物の動揺を誘うには充分で。

 咲希も威力としては前の炎の方が手応え的には上だが、自身の知る魔力とはまったく別物の力で、火球を作り上げた事実に動揺を隠せず唖然とする。

 小春はちょっとだけ笑みをもらす。

「だから言ったでしょう。わたしと花梨が魔力の核を分け与えたって」

「まさか」

「そのまさかだよ。わたしと花梨が分け与えた魔力は、今まで咲希さんが使っていた魔力や、早苗先輩の魔力とはまったくの別物ってこと。花梨が今、魔物を閉じ込めている風の檻も魔法なんだよ」

「まあ、そう言うことだよ咲希ちゃん」

 花梨は、風の檻の異質なドーム状の結界を小さく縮めてはじけさせた。
 魔物は宙から自由落下を開始し、地面に激しく叩きつけられピクリとも動かなくなった。
 花梨に疲れた様子はない。

「んじゃ、とりあえずギルドに報告して帰ろうよ。んで、ほかの人達には、紗耶香さんとクオンさん、わたし達の異世界の魔力のことは秘密でお願いね」

 ーーそうして一行はギルド狐の眼に報告してから、ギルド巡礼へ。

“咲希は、早苗から、花梨と小春が寿命を削ったという事実を知る”。

 自室で独り、その事実が重くのし掛かっていた。自身が涙を流していることに気付かない程に。
 ベッドに腰かけたまま眠りに勝てず意識が落ちかけたとき、ドアがカチャリと開いて聞き慣れた声が耳に入ってきた。花梨だ。

「咲希ちゃん、明日から魔法学園に一緒にかよおう、ね。

「? いきなりすぎる話ですね」

「なんかね、リオンさんが魔力がなくなったのは俺にも責任がある。悪かったって、言ってね。何かしらの保護機関を使って、授業料が安くなるように手続きをしたんだって。一応試験はあるみたいだけど、咲希ちゃんならきっと楽勝だよ」 
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