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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*七十二・咲希の封印・散った闇属性
しおりを挟む二人は咲希の寝ているベッドの前で、あらかじめそれぞれ用意してあったナイフで自身の心の臓をつらぬいて、慎重に、したたる血を咲希へと飲ました。
“咲希の人生そのものを壊さないで、守る為に”。
寿命は縮んでしまうがためらいはない。
ーーきっと似たような気持ち……いや、西尾お兄ちゃんの場合はその責任感からなんだろうな。
そしてしばらく時間を置いた花梨は、西尾お兄ちゃんが謝った寿命のことに関しても、なんとなく呑み込めていた。
昔、こことは違う異世界で西尾から魔力の核を分け与えられた小春も、花梨と似たようなことを思っていた。
花梨と小春の命と魔力の核の一部を譲り受けた紗耶香は、小春本人は与えるつもりはなかった月属性をも譲り受けた。自身の元もと宿していた、火と風、封印されていた闇属性のすべてを失って。
小春から譲り受けた月属性も、花梨と小春の異質な魔力に押されて消滅してしまった。
ーー夜が明けた。
咲希は一命をとりとめたが、そこに以前と同じ覇気はない。
気力を失ったままベンチに腰掛け、ギルド狐の眼を眺めている。以前、紗耶香が所属していたギルドを。
小春が近寄って声をかける。
「似合わないよそんな顔。わたしも魔力はゼロなんだしさ、クオンも花梨だって」
咲希は何も答えない。誰に向けている訳ではないが、その無言の威圧感は半端ない。
紗耶香は何も言えない。
花梨が声をかける。
「……だからさぁ、」
その台詞をさえぎり咲希は言う。
「アナタらに何が分かるって言うんですか? わたしは魔力を使った生き方しか知らないんですよ」
「魔力を失っても、意外と不便はないものだよ」
「……わたしは、花梨とは違います」
そんな会話をしていると、見知らぬ二人の会話が飛び込んできた。
「知っているか? 一晩で、ワンランク上がった依頼の話を」
「依頼を受けたものが命からがら逃げたという、依頼だろ。なんでも急に魔物が強くなったと聞くな」
咲希は、昨日のことが関係してないとは思えなかった。そうでなければ、あまりにも話が出来すぎているからだ。
咲希は反応をみせず、聞き流すふりをした。それは自身が原因だから、皆に迷惑をかけたくなかったーーいや、自分自分を許せなかった。
思いを表情に隠しきれなくなった咲希を見て、小春は近くで話していた二人に声をかける。
「ちょっと、すみません。その依頼を、もうちょっと具体的に教えて欲しいんだけど。いいですか?」
二人は振り向いて。そのうちの一人が答える。
「ん? ……いいぜ。ここから西の森にかなり高い塔があるんだよ。その一番上にやっかいな魔物が巣を作って、そこを根城として森に入った者を襲うんだよ。自分より弱いヤツを選んでな。魔力を隠したり封印したりして森の中に入ってもそれを見抜いてか、絶対に自分より強いヤツは襲わない。魔力を奪う石で造られた塔だから、その磁場のせいで空からの侵入も無理だからやっかいだぜ」
「ありがとう。かっこいいお兄さん」
「そう言われると、照れるな。ところで闘気術は使えるか?」
「わたしは使えないよ」
「そうか、あまり無茶をするなよ。まあ、頑張れ」
ギルド狐の眼に向かい、その巨大な建物の入り口の前で紗耶香は立ち止まる。
「あれは、絶対に昨日のことが関係していると思います。恐らくそれは、咲希さんも勘付いているはずです。クオンさんは、恐らく闘気術は使えますよね」
クオンは肯定する。
「ああ。魔力がゼロだから、それぐらいは身に付けないと厳しいからな」
紗耶香は続ける。
「だったら決まりです。今回の依頼は、クオンとわたしで受けます。今の咲希さん、小春さん、花梨さんでは無理があります」
咲希は悔しかったがどうしてもくつがえせない事実で、素直に従うしかなかった。
花梨と小春は素直に従うふりをして。
紗耶香とクオンはギルド狐の眼の扉を開けて中へ。
扉を閉まったのを確認して、小春はニヤリと笑みを浮かべた。
「んじゃ、先回りしようか」
すぐさま反応する咲希。
「それは、どういう意味です?」
小春はニヤニヤした笑みで続ける。
「咲希さんも先回りか、尾行する気満まんだったでしょう?」
「しませんよ。しても、すぐに気付かれる可能性は高いですし。今のわたしは魔力ゼロで、闘気術も満足に使えません。くやしいですけど、戦う術のないわたしはお荷物ですから」
花梨は否定する。
「大丈夫。わたしらが戦い方を教えるから」
咲希は嘆息する。
「塔のてっぺんで戦うのなら、魔道具は意味をなさないんですよ。それに今の実力で先回りをしても、襲われて何も出来ないまま逃げることになるのがオチです」
花梨は否定する。
「絶対にそうはならないよ。もしかしたらある程度は苦戦をするかもだけど、ね。その時は、わたしと小春ちゃんがサポートするから」
「だから大丈夫だよ」
「……」
ーーそれから先回りする予定を変更ーーそして。
どうしても我慢で出来なくなったと、咲希と小春と花梨は、その意図を伝えて、紗耶香とクオンと一緒に今は紗耶香の故郷の近くの森の前だ。
紗耶香は一歩前に出て、
「とりあえず下見ですから、これ以上は先に行かないでくださいよ」
そう注意をしてから、クオンと森の中に足を踏み入れて行く。
すぐ、小さな風切り音が鳴り次第に強くなり上空から、体長4メートルを越える巨大な氷の翼をもつ鷹のような魔物が姿を現した。
紗耶香は、昨日と同じ闇属性の魔力を感じて、
「依頼を受けた魔物に間違いありません。咲希さんと小春さんと、花梨さんは逃げてください」
自意識過剰と思いながらもそう口にした。
氷の翼をもつ魔物は空を舞い。翼を振るい1メートルを越える氷の刃を無数に放って。
それを、紗耶香とクオンは後ろに飛び退いてかわす。
無数の氷の刃は、大地を2メートルぐらいの深さでえぐり取って凍らせた。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
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