魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*七十一・咲希の封印・魔力の消失

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「えっ?」

 咲希は、いきなり現れた赤紫色の巨大な竜に戸惑うばかりだ。
 けれども赤紫の竜が咆哮をあげた瞬間。
 ドクンッ、と。
 咲希の心臓がなった。

 竜の闇属性が封印された咲希の闇属性に共鳴を呼びかけ、無理矢理に叩き起こそうとしているのだ。

 竜は意識してそうしているのではなく自身の魔族独自の闇属性と、咲希の封印との相性ゆえ。

 もし早苗がそれを知っていれば、まだ未熟な咲希を行かせはしなかったと断言してもいいが、今の状況は予想すら不可能だったと言いきってもいい。

 事態は悪い方に傾いているが。“それぐらいのレベルの状況”は、西尾か早苗がその場にいることが可能なら、最悪な結果だけなら避けられるはずだ。

 だからこそ早苗は、花梨を頼ったのだ。

 普通なら、闇と闇のそういう共鳴現象は起きなかったが。
 同じ人でも、穏やかな人もいるし、気性が荒い人だっている。中には、人によって態度を変える人もいるのだ。
 それは、魔族も例外でなく。
 属性にも同じことがいえる。
 例えば、同じ火属性でもその性質は人によって微妙に違う。
 咲希の封印され今は解けかかっている闇属性と、竜の闇属性との相性が悪かった。それだけにすぎない。

 ゆえに早苗も予測がつかなかったのだ。
 だが、そういう不足の事態を予測しなかった訳じゃない。
 だからこそ早苗は己が一番信頼出来て、なおかつ西尾や早苗より自由が利く花梨を頼ったのだ。

 やがて咲希の意識はもうろうとしてきて。
 赤紫の竜の闇属性は、咲希の火と風属性の核へも共鳴を呼びかけ。
 その核は、小さいけれど強い光を放つ赤と緑の二つの玉となって。
 竜の闇属性はそれを喰らう為、咲希の胸から外へ引きずりだそうとする。

 咲希の本能はそれを許さない。
 意識はすでに失いつつありながらも抵抗しようと、本能は必死にあがく。
 やがて咲希の意識は暴走する。

 それは、咲希の魔力の核を喰らおうとする竜の闇属性も同じだった。
 闇属性は竜を操り、魔力の核を咲希もろとも喰らう為に上下の牙を脳天に突き刺そうとする。
 けど花梨は、咲希と竜の間に一瞬にして移動しその牙を両手で受け止める。

「ーーその手を離せ」

 今のレオンの台詞を、花梨は理解が出来なかった。

「今、危なかったよね?」

 レオンもすべての状況を把握している訳じゃないが、咲希に何が起きつつあるかは予想が出来ていた。

「とりあえず黙って聞けよ。咲希は、恐らく自身の手であの勝たないと魔力の核を失う。たとえ竜に勝ったとしても、自身の闇属性に負けたらどうなるか分からない」

「それでも、」

 花梨をさえぎりレオンは続ける。
 
「言いたいことは分かる」

 竜は花梨から離れ、距離をとっていた咲希へせまり。
 レオンは続け。
 花梨はその場から動かず聞く。

「けどな、まずは勝つことが重要なんだよ。そうしないとどっちにしろ、あの闇属性は咲希の属性を喰らう。そして一番最悪な場合、咲希はすべての魔力を失う。その意味は、元もと魔力があったやつにとって、自身の手足を失うことと同じなんだよ。いや、それ以上かもしれない。だから今は見守れ」

 竜は、口から白い光を放ち。
 咲希はそれを、左右の手に形成していた巨大な炎の剣で受け止め。
 一瞬動きが止まった咲希へ、身体を高速で回転させ尻尾を振り落とし。
 咲希はそれをかわす。

 花梨と小春も助けたい衝動を抑え、黙ったまま見守るのみ。
 クオンは助けたいと思ってもレベルが違いすぎてどうにもならず、黙って見守ることしか出来ない。

 竜は前右の足を振り落とす。だが咲希はさらに一歩踏み出してそれを避け、左右の炎の剣を一回ずつ振るい尻尾を切り落とした。
 が、咲希はすでにボロボロだ。
 そして竜も咲希も動きを完全に止めた。

 ーー竜は早い段階で目を覚ましたが、咲希はまだ気を失ったまま。

「ボクが自身の闇属性に飲まれてしまうとは、夢にも思わなかった」

 紗耶香は頭の中に最悪な考えが浮かんだ。

「それで咲希は大丈夫なの?」

 紗耶香の問いに竜は考えられる事実のみをべた。

「分からない。ボクが魔力の核を分けようとしても弾くし、もし命が助かったとしても、恐らく魔力は、全てを失っている可能性が高い。それと、」

 レオンは、竜の台詞の合間をぬって言う。

「問題はそれだけじゃないだろう」

 竜は続ける。

「そう。ボクの闇属性が、そこの女の子の闇属性をも飲み込み粉ごなに吹き飛ばしてしまった」

 小春は当然のように言う。

「そんなの、見たら分かるけど。魔力のないわたしですら分かるんだから」

 竜は続ける。

「それがこの世界のあらゆるところに飛び散り、その欠片はまだそのままだ。ほかの生き物がそれを手にした場合、どうなるか分からない。ボクのせいだ」

 小春は当然のように続ける。

「そんなのアナタのせいじゃないじゃん。たまたま運が悪かっただけだよ。それより咲希さんが心配だよ」

 紗耶香は短く答えた。

「ですね」

 *

 レオンと別れてーー
 紗耶香は元自身の住んでいた家へと、咲希を運んでベッドに寝かせた。
 そして。
 咲希の寝ている部屋とは別な部屋で、紗耶香とクオンは寝ていた。

「まさか、わたしの収納鈴から眠り薬を黙ってもって行くなんて……花梨のしようとしていることは分かるよ」

「だけど、」

「花梨は止めても無理そうだから、わたしも手伝う」

「……そんなことをしたら」

「花梨、大丈夫だよ。わたしの寿命も腐る程に長いんだから。それに花梨の核だけだと半端ない量の血が必要になるし、わたしの核だと、咲希さんの寿命をいたずらに伸ばしてしまう可能性。咲希さん自身が無事でも、今の咲希さんの、咲希さん自身の核を変えて殺してしまう可能性もあるし……だけど、二人合わせたら調度いい具合になるはずだから」

「……」
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