魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

文字の大きさ
上 下
70 / 99
第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*七十・とある試練へ・小春の試練

しおりを挟む
  
 審判の彼は思わず吹き出す。

「魔力がゼロのくせしてまったくためらいもせず、唯一の生命線のかなめともいえる指輪と、ダメージ吸収の水晶を簡単に手放すか。気に入った。見守ってやるからせいぜい頑張れよ」

 彼は中へ足を踏み入れて。
 小春も続いて行く。

 内部全体の壁と地面が赤い光を放つ為、その明かりでよどみなく奥へ進むと開けた場所に出た。

 地面から放たれる赤とは違う、うごめくような黒が混じりの赤い線で描かれた直径5メートルをゆうに越える魔法陣。
 一歩手前で彼は立ち止まった。

「ここがその試練の場所だ」

「その試練って何をするの?」

「三回、戦ってもらうだけだよ」

「魔道具と魔武器は駄目とは聞いたけどやっぱり、なんの武器もなし?」

「武器はこちらで用意しているから安心しろ。ただし、魔道具や魔武器という訳じゃないがな」

 腰の帯に結び付けている鈴を外すと巨大化させ、中から刃渡り1メートルの簡素な剣を取りだし地面に突き刺す。次に小さなナイフを取り出した。

「武器ぐらいは選ばせてやるよ。どっちがいいか?」

「んじゃナイフで」

「ほら、よ」と、彼はナイフを渡す。

「……てっきり剣の方を選ぶと思っていたが。ん……そう言えば名は何という? 呼び名がないというのは、意外と不便だからな」

「単純にこっちの方が軽くって使いやすいと思ったからだよ。それと呼び名は、小春でいいよ」

「なるほどな。こっちも名乗っとくか。俺は、リオン。とりあえず一回戦目だ」

 リオンは宙に魔法陣を描いて、
「我の魔法陣にとおすは、月属性。一匹の獣よ我の声に応えよ」
 詠唱。

 するとその魔法陣から、一匹の赤い狼が飛び出した。
 1メートル50センチを越えるぐらいで、今まで咲希や紗耶香達が戦ってきた魔物と比べれば小さい部類だろう。それでも小春を明らかに越える巨体だ。

 今、小春が手にしている物は只の小さなナイフ一本。
 それで魔力がないのなら不安を覚えるのが普通だろう。

 リオンは高みの見物をするように固い地面に座り込んで。
 小春はナイフを軽く握りしめたまま赤い狼の喉元に狙いを付け、駆け出す。

 赤い眼でその動きを追い小春の脳天へ、顔を振るって牙を振るう。
 だが、小春はちょっと身体を後ろにそらすだけで、牙は空をきり。

 赤い狼が顔を上げた瞬間、喉元へ深ぶか刺されたナイフを突き刺してそのまま引き裂くと、真っ赤な血が吹き出した。

 小春は自身の異質な魔力を使わず、赤い狼はあっけなく地面に横たわった。

 リオンはその様子に内心ちょっとだけ感心した。
 魔力をまったく使っていないのにも関わらず、小春の動きが自身と同等。下手をしたらそれ以上に鋭かったからだ。魔力を使えば話は別だが。

「まあまあ、だな。これで一つ強くなった訳だ」

 小春は自身の異質な魔力の核とは、別な何かを感じた。ファイナルドラゴンクエストとは微妙に違うが。

「この感じ、もしかして」

「魔力の核。月属性の魔力の核がお前に根付いたところだ。まあここでは、月属性のみだがな。三回戦目をクリアしないと結局消えてなくなるんだから、あくまで下準備といった状況だがな」

「それって、この巨大な魔法陣のおかげ?」

「勘がいいなそのとおりだ。んじゃ次は二回戦目行くか」

 レオンはさっきとまったく同じ魔法陣を描いて、同じ詠唱。体長は3メートル以上の一体の灰色の熊を呼び出した。
 強さとしては赤い狼を完全に上回るが、小春はそれすらも余裕で倒した。

 レオンは流石に、驚きの表情がちょっとだけにじみ出てしまった。

 最後は勝てる訳がない相手。レオンですら勝てるか分からない相手。だからこその審判。けれども、レオンはみょうな胸騒ぎがしてならない。
 レオンはそれを胸に抱えたまま魔法陣を描いて詠唱。

 巨大な魔法陣の上に、全長7メートルは越え、四本の足で地面を踏み、背中に身体を覆い隠せそうな翼を生やした赤紫色の竜を呼び出した。

「さすがに最後はでかいね」

「そりゃ、締めくくりだからな。魔力の塊を具現化して、獣の意思だけを移した相手とは違う」

「だから倒した時、霧散したの?」

「霧散したというかその魔力は巨大な魔法陣をとおして、お前の中に魔力の核を築き上げようとしているんだよ」

 レオンは赤紫の竜の眼がいつもなら赤く透明感のある眼が、真っ黒く濁っていることが引っ掛かってならない。

 じっと、濁った眼で視線を小春とレオンから外さなかったが突如として雄叫びをあげ、出入口へ突き進み。
 小春はまったく訳が分からず、レオンも何故なのか分からず。二人は後を追う。

 赤紫の竜に反応して、しめ縄のようなものが再度結界をはって。
 それでも無理矢理に突き進んで赤紫の竜は外に出て、真っ直ぐに顔を上げ、咲希へ視線を移した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

【完結】百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました

平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。 ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

処理中です...