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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*七十・とある試練へ・小春の試練
しおりを挟む審判の彼は思わず吹き出す。
「魔力がゼロのくせしてまったくためらいもせず、唯一の生命線の要ともいえる指輪と、ダメージ吸収の水晶を簡単に手放すか。気に入った。見守ってやるからせいぜい頑張れよ」
彼は中へ足を踏み入れて。
小春も続いて行く。
内部全体の壁と地面が赤い光を放つ為、その明かりでよどみなく奥へ進むと開けた場所に出た。
地面から放たれる赤とは違う、うごめくような黒が混じりの赤い線で描かれた直径5メートルをゆうに越える魔法陣。
一歩手前で彼は立ち止まった。
「ここがその試練の場所だ」
「その試練って何をするの?」
「三回、戦ってもらうだけだよ」
「魔道具と魔武器は駄目とは聞いたけどやっぱり、なんの武器もなし?」
「武器はこちらで用意しているから安心しろ。ただし、魔道具や魔武器という訳じゃないがな」
腰の帯に結び付けている鈴を外すと巨大化させ、中から刃渡り1メートルの簡素な剣を取りだし地面に突き刺す。次に小さなナイフを取り出した。
「武器ぐらいは選ばせてやるよ。どっちがいいか?」
「んじゃナイフで」
「ほら、よ」と、彼はナイフを渡す。
「……てっきり剣の方を選ぶと思っていたが。ん……そう言えば名は何という? 呼び名がないというのは、意外と不便だからな」
「単純にこっちの方が軽くって使いやすいと思ったからだよ。それと呼び名は、小春でいいよ」
「なるほどな。こっちも名乗っとくか。俺は、リオン。とりあえず一回戦目だ」
リオンは宙に魔法陣を描いて、
「我の魔法陣にとおすは、月属性。一匹の獣よ我の声に応えよ」
詠唱。
するとその魔法陣から、一匹の赤い狼が飛び出した。
1メートル50センチを越えるぐらいで、今まで咲希や紗耶香達が戦ってきた魔物と比べれば小さい部類だろう。それでも小春を明らかに越える巨体だ。
今、小春が手にしている物は只の小さなナイフ一本。
それで魔力がないのなら不安を覚えるのが普通だろう。
リオンは高みの見物をするように固い地面に座り込んで。
小春はナイフを軽く握りしめたまま赤い狼の喉元に狙いを付け、駆け出す。
赤い眼でその動きを追い小春の脳天へ、顔を振るって牙を振るう。
だが、小春はちょっと身体を後ろにそらすだけで、牙は空をきり。
赤い狼が顔を上げた瞬間、喉元へ深ぶか刺されたナイフを突き刺してそのまま引き裂くと、真っ赤な血が吹き出した。
小春は自身の異質な魔力を使わず、赤い狼はあっけなく地面に横たわった。
リオンはその様子に内心ちょっとだけ感心した。
魔力をまったく使っていないのにも関わらず、小春の動きが自身と同等。下手をしたらそれ以上に鋭かったからだ。魔力を使えば話は別だが。
「まあまあ、だな。これで一つ強くなった訳だ」
小春は自身の異質な魔力の核とは、別な何かを感じた。ファイナルドラゴンクエストとは微妙に違うが。
「この感じ、もしかして」
「魔力の核。月属性の魔力の核がお前に根付いたところだ。まあここでは、月属性のみだがな。三回戦目をクリアしないと結局消えてなくなるんだから、あくまで下準備といった状況だがな」
「それって、この巨大な魔法陣のおかげ?」
「勘がいいなそのとおりだ。んじゃ次は二回戦目行くか」
レオンはさっきとまったく同じ魔法陣を描いて、同じ詠唱。体長は3メートル以上の一体の灰色の熊を呼び出した。
強さとしては赤い狼を完全に上回るが、小春はそれすらも余裕で倒した。
レオンは流石に、驚きの表情がちょっとだけにじみ出てしまった。
最後は勝てる訳がない相手。レオンですら勝てるか分からない相手。だからこその審判。けれども、レオンは妙な胸騒ぎがしてならない。
レオンはそれを胸に抱えたまま魔法陣を描いて詠唱。
巨大な魔法陣の上に、全長7メートルは越え、四本の足で地面を踏み、背中に身体を覆い隠せそうな翼を生やした赤紫色の竜を呼び出した。
「さすがに最後はでかいね」
「そりゃ、締めくくりだからな。魔力の塊を具現化して、獣の意思だけを移した相手とは違う」
「だから倒した時、霧散したの?」
「霧散したというかその魔力は巨大な魔法陣をとおして、お前の中に魔力の核を築き上げようとしているんだよ」
レオンは赤紫の竜の眼がいつもなら赤く透明感のある眼が、真っ黒く濁っていることが引っ掛かってならない。
じっと、濁った眼で視線を小春とレオンから外さなかったが突如として雄叫びをあげ、出入口へ突き進み。
小春はまったく訳が分からず、レオンも何故なのか分からず。二人は後を追う。
赤紫の竜に反応して、しめ縄のようなものが再度結界をはって。
それでも無理矢理に突き進んで赤紫の竜は外に出て、真っ直ぐに顔を上げ、咲希へ視線を移した。
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