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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*六十六・魔道具と魔鍛治士・ホワイトドボンと火野
しおりを挟む花梨は額に冷や汗を流す。
「気のせいかな? わたし、いやな予感しかしないんだけど」
中途半端な知識の咲希も、額に冷や汗を流す。
「わたしもある程度はいろんな知識をもっていつもりでしたが、ホワイトドボンなんて初耳です。初耳ですが、何故かわたしも、いやな予感しかしないです」
シロモコは光を放ち終わると、さらに巨大化して体長は5メートル以上。
口下からはえている二本の緑色の髭は体長の倍ほどの長さがあり、それは手招きしているような動きで。
眼は笑っているとしか思えない。
シロモコは、ブルードボンそっくりな、ホワイトドボンへと一気に成長した。
それを目にして、火野は笑う。
「ホワイトドボンは、ブルードボンの上位種。元ギルド巡礼SSSランク・月属性のみの魔道具使いと言われた僕の実力を知らしめるよい機会だ」
咲希と紗耶香は驚きを隠せない。
「「月属性のみで、SSSランク!」」
咲希は続ける。
「その言葉どおり、火野さんは月属性のみしか使えないんですか?」
「言葉どおりだ。けれども僕専用の魔道具・聖の指輪と、闇の指輪を使うには月属性のみで充分なんだよ」
それだけで花梨は察した。
「ということはその指輪は、魔道具。火と水。もしくは風と土。そのどちらかを合成するんだよね。というか、ホワイトドボンはまだ動いてないけど、そんなに凶暴なもの?」
紗耶香は、
「一気に成長した反動した反動かもしれません。ホワイトドボンの凶暴さは、ブルードボン以上です」
そう答えて。
咲希は、花梨を馬鹿にした口調になって、
「火と水? もしくは風と土? そんな反発する属性を合成出来る訳ないじゃないですか。不可能ですよ」
そう信じて疑わない。
「不可能じゃない」
だが、火野からそう短く返された言葉はその咲希の常識を容易く破るものだった。
火野は続ける。
「恐らく、そろそろ硬直が解けるぞ」
今の声が合図だったかのように、
「ドウゥ~ォォ~~ン」
ホワイトドボンは森のすべてを震わしてしまいそうな激しい鳴き声を響かせた。
火野は身に付けている、自身の短い黒髪と同色の小さな二つの髪飾りへ、それぞれ月属性を込めた。二つの髪飾りの中へそれぞれ収まっていた爪楊枝のような何かを引き抜いた。
それらは月属性を火と水属性のナイフとなる。
右の火のナイフは、その柄から聖の指輪の聖属性と、月属性の魔力を纏わせ。
左のナイフは、右と同じようにして闇の指輪から闇属性と月属性を纏わせ。
それらを一つに合わせて、真っ白な輝きを放つナイフを作り上げた。
「最初に忠告するが、これはあまり長い時間の維持は無理だから手加減出来ない。覚悟することだな」
火野は一直線へ駆け出す。
ホワイトドボンは髭を向かわせるが意味をなさず、切り裂かれ。
火野は、ホワイトドボン目掛けさらに加速する。
ホワイトドボンはそれ以上抵抗する間もなくブヨブヨな腹へ、真っ白なナイフで真一文字を切り刻まれた。
完全に沈黙したのを確認すると火野は真っ白なナイフを二本の爪楊枝へと戻し、髪飾りの鞘へと戻す。
それからホワイトドボンを遠くへ蹴り飛ばして、そこへあった石・魔紅鋼を手にする。
「これで、目的の物は取り戻した訳だ」
咲希はいまだに目を丸くしたままだ。聖の指輪と闇の指輪という名前から想像は出来るが、それでも普通ーー
「今のはなんです? 普通、火属性と水属性を合成出来る訳がないです」
花梨はなんでもないように答える。
「天界人の聖属性と、魔族の闇属性。それに月属性を加えたものをクッションとして、普通に使っただけだよね」
興奮しているのか理解が追いつかないのか分からないが、咲希は声を荒くする。
「その時点でもう普通じゃないこと、分かっているんですか? 聖は、天界人独自の属性。闇は、魔族独自の属性。もしくは天界人か魔族に認められた人しか使えないんですよ」
「聖の指輪と闇の指輪という名前から想像出来なかった?」
花梨はそう返したが、咲希の反応は普通だろう。
「出来ましたが、それでも普通は……無理です」
火野を例外とするならばそれを除いて、人が使える属性の種類は基本的に五種類。
火・水・風・土・月属性。
火と水。風と土。それらは反発すること。
月属性のみは反発する属性がないこと。
天界人の聖属性と魔族の闇属性は、今は失われているはずだということ。
それらの常識が一気に否定されたのだ。咲希に戸惑うなという方が無理だ。
咲希同様、紗耶香も驚きを隠せてない表情で言う。
「一般的なマホニュースとかの知識はとぼしいくせして、そんなことだけ知識が片寄ってませんか?」
花梨は困ったように返す。
「そんなこと言われても、わたしの知り合いにも、反発する属性を合成する技を持つ人はいるんだよ」
「ちょっとその話には興味はあるが、ボクはボクの家に戻る。さっさと最高の魔道具を作りたいからな。アレだったら、紗耶香の魔道具も作るがどうする?」
紗耶香は断る理由もなかったし、咲希が求めるような魔道具が欲しいと自身も思ったから、
「お願いします」
そう素直に答えた。
単純に作ってもらうこと事態をうらやましく感じて、花梨は便乗する。
「わたしも欲しいから、作ってもらってよいかな?」
「魔黒曜石を主体とした魔道具だと、炎翼の指輪以上のは無理だ」
花梨はそれでも良いから単純に欲しい。
「炎翼の指輪以下でいいから、さぁ」
「そんなのは、ボクのプライドが許さない」
「そっか。なら、仕方ないからあきらめる」
花梨はあっさりと引いた。
けれども火野はそれに悔しさを感じた。
「素材さえ持ってきたら、作ってもいいんだぞ」
「現状、そんなに困ってることってないんだよね」
投げやりな花梨の本音に、火野は怒りを覚えた。
「魔力ゼロなら、魔道具は一つでも欲しいのじゃないか?」
「もしかして、やっぱり作ってくれるの?」
「……」
花梨に対して今度は黙ったままの火野。
紗耶香はある提案をする。
「魔道具の素材に関しては心当たりはありませんが、花梨さん、良かったらわたしの故郷でとある試練を受けてみません? 多分、魔力ゼロで魔黒曜石の洞窟に行くということは何か訳ありだと思うので」
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