魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

文字の大きさ
上 下
65 / 99
第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*六十五・魔道具と魔鍛治士・ブルードボン

しおりを挟む
  
 ツボミはと右の握りこぶしに闘気を集めて、闘気の剣を形成。それに風属性の魔力を纏わせて地を蹴った。

 闘気と魔力の剣に驚きはしたものの、紗耶香は水属性の魔力を巨大な弓と矢へと具現化。水の矢を、氷の矢に変換。闘気もたっぷり込めて移動。ツボミとは別方向からブルードボンの脳天へ狙いをさだめて矢を放った。

 それに気付いたツボミは一瞬だけ足を止め。矢は彼女を追い抜き、ブルードボンの操る二本のひげに叩き落とされた。
 瞬間。
 ツボミは体勢を低くしてさらに加速してせまり、ブルードボンの二本の脚目掛けて闘気と魔力の剣を真横に一直線へ振るう。けれども強い弾力にはじかれる。

 ツボミさんだけでは勝てないです。やっぱり、怖いですけどーーそう思った咲希は両手に炎のナイフを纏って。
 思った以上にやっかいな髭で遠距離攻撃は厳しいと判断した紗耶香は、意味の分からない怖さへ勇気を振りしぼり、水属性の弓を氷の弓に変換。闘気もたっぷり込めてから、形状を細長く伸ばして。
 咲希と紗耶香も駆け出した。

 ブルードボンは、紗耶香へ髭の一本を伸ばす。
 脳天目掛けて一直線に振り落とされたそれを、紗耶香は闘気と氷の弓で受け止めて。
 咲希は、もう一本真正面から伸ばされた髭を炎のナイフで受け止めた。

 頭の芯へと響くような衝撃だったが咲希と紗耶香は、二本の髭を掴んで離さない。
 さらには二人は左右から、ブルードボンを後ずさりさせる程の力で二本の髭を引っ張り。
 紗耶香は氷の魔力を、髭からブルードボン本体へと伸ばして。
 紗耶香と咲希は手を離した。

 ブルードボンはしりもちを付く。けれど本体へとせまる氷は止まらず、口下を凍らす。

 そこへ、ツボミは魔力と闘気の剣を叩き込み一気に引き裂いた。
 ブルードボンが完全に動かなくなったのを確認すると、ツボミは剣を消した。

「姿自体はとっても可愛かったのですが、仕方ありませんよね」

 そして振り返り、視線を咲希と紗耶香へ向ける。

「……それにしても組んだばかりとは思えない、凄い息の合ったコンビネーションですね。さすがはAランクです。けれどもあの人直伝の技があるから近い将来、わたしもAランクかもしれませんけど」

 紗耶香は、ツボミへ顔と顔がふれそうな程に詰め寄った。

「もしかしてその人の髪の色って、深い青でしたか、長かったですか?」

「腰まである長い髪に、濃い青でしたが?」

「やっぱりその人、わたしのお兄さんさんです。その人は今どこへいるか分かりますか?」

「確か、南へ行くとしか」

「それだけ分かれば。ツボミさん、本当にありがとうございます。ありがとうございます」

「紗耶香さん、とりあえず落ち着いてください。まずは、紅月見草という目標から頑張りましょう。さいわい、紅月見草は大きな花を咲かせたのが、三つもあることですし」

「それを摘んで、ツボミさんは早く友人さんを助けてください」

「ですね」

 ーーそして再び魔黒曜石の町へ。

 その町の魔法薬を売っている店で、店主へ紅月見草を一つだけ渡して、それを加工して作られた液状のものを小さなビンへと入れてもらった。

 それから宿屋・『カリントウ』へと、ツボミを連れて行った。
 ツボミは、「ちょっとだけ待ってくれると嬉しいです」そう言って中へ、
やがて病人だったとは思えない程に顔色の良い女性と二人で出てきた。

 ツボミの友人。桜色のノースリーブの上と短いスカートを身に付けている女性は、深ぶかと頭を下げた。

「アナタ達が、ツボミとわたしを助けてくれたんですね。本当にありがとうございます。正直言うと、アホな感性で、超方向音痴なツボミが紅月見草をとりに行ったときは絶望していましたから、本当にありがとうございます」

 それから早苗が苦手なロイと別れてギルド巡礼へと戻り、今は広い食堂で、咲希・花梨・紗耶香は、早苗を交えて一休みという状況だ。

 様ざまな人達が食事を楽しみ。いくつも並ぶテーブル。
 紅茶を入れた白いカップと、その受け皿だけが用意されたテーブル。
 白い椅子に腰掛けている早苗は紅茶を一口ふくんで、喉にとおす。

「紗耶香ちゃん。お兄さんの情報が入ったわ。このギルド巡礼から、ずっと南を目指しているみたいよ」

 紗耶香は思わず笑顔になって、

「やっぱり、そうなんですね。早苗さん、ありがとうございます」

 そう頭を下げた。

「何かしら、紗耶香さんも情報を得た口振りね」

「はい」

 今が会話の途切れ目だと思って、咲希は言う。

「話は変わりますが早苗さん。ブラックドラゴンと闘った時から気になっていたことがあるんですが、あれって本当に普通の炎翼の指輪なんですか? 何かしら特別なことは、本当にほどこしてないんですか?」

「あの時も言ったけど咲希、あの炎翼の指輪はなんの細工なんてしてないわよ。するとしたら花梨だけど……」

 咲希は断言する。

「いくらなんでも、魔力を失ったのにそんなこと出来る訳ないじゃないですか。おまけに能天気の固まりですし」

 花梨はちょっとだけ傷ついて声には出さなかったが、同時に内心はクスリと笑っていた。

 *

 樹齢何百年もありそうな広葉樹と、数ミリから咲希や花梨の背丈と同等まで伸びた様ざま野草。それらが生い茂る広大な森。
 赤いリンゴのような実をところ狭しと稔らせている、樹齢何百年はありそうな程に巨大な広葉樹。

 火野はその位置を確認して、開けた場所を指差す。

「確か、あの辺りだったはずなんだが」

 咲希はそのちょっと離れた場所へ視線を移して。

「あっ、いました。シロモコです」

 紗耶香も三匹いるシロモコへ視線を移してから、腰に結びつけている月の鈴をはずして地面に置く。
 それを1メートルぐらいまで巨大化させて紅月見草を取り出した。
 それに気づいたのか、臆病なはずのシロモコが三匹ともいっせいに近づいてくる。

 シロモコは、体長30センチぐらいと可愛らしい毛むくじゃらな丸い生き物だ。

 三匹の中には、身体と同じぐらいの大きさの赤黒い石を身体に付けたシロモコがいた。
 それを付たまま口を大きく開けて、紗耶香が手にしている紅月見草を口にパクりと含み。
 そのとたん。
 ほかの二匹のシロモコはどこかへワープをして、その場から消えた。

 一匹残ったシロモコは、紅月見草を飲み込むと身体がふくらみ3メートルぐらいまで巨大化して、目がくらむような真っ白な光を放った。

 まばゆいばかりの光景に、紗耶香は不安を口にする。

「もしかしたら、あのシロモコ。ホワイトドボンへ、一気に成長しようとしているところかもしれません」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...