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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*六十四・魔道具と魔鍛治士・紅月見草と月見の砂
しおりを挟む紗耶香は言いづらそうに、けれどもはっきりと言う。
「今わたし達がいる杉林は、魔黒曜石の町から南の位置になりますよ」
女性は顔を真っ赤に染めて、
「わざわざ教えてくれて、ありがとうございます。わたしって方向音痴で、お恥ずかしいところをお見せしました。確かに北門から出たと思ったのですが、」
途中で早口になる。
「すみませんわたし急いでいるんで失礼します」
紗耶香は「ちょっと待って足をケガしていますよね」そう呼び止めた。
「ええっ。右足首をちょっと、でもそれが何か?」
紗耶香は宙に魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、月属性。月明かりよ、我の指に宿れ」
詠唱して、あわい月明かりを纏った右の手で女の人の右足首にふれた。
「どう?」
そう訊いた紗耶香へ、女の人は即答する。
「い、痛くないです。本当にありがとうございます。わたは早く魔黒曜石の町へ戻らないといけないので。月属性でも回復って可能だったんですね。初めて知りました」
「水属性の方が圧倒的に効率は良いですけどね」
「だけど普通に凄いですよ。本当にありがとうございました」
女性は頭を下げて、東へ駆け出した。
今度は咲希が呼び止める。
「そっちの方角は魔黒曜石の町へとは、違いますよ」
方向音痴な女性は再び顔を真っ赤に染めた。
そう言った咲希は、不安でたまらなくなりつい心の声がもれ。
「不安です」
気持ちは同じで紗耶香も、
「不安になります」
ついそう声にだしてしまった。
その気持ちは、咲希や紗耶香だけではなく方向音痴な本人以外皆が同じだ。
紗耶香はある提案を出す。
「わたし達も紅月見草を求めていますし。これも何かの縁ですし、わたし達と一緒に紅月見草を探しに行きません? それと、あまりにも方向音痴すぎて心配になりますから」
「ほ、本当に良いんですか?」
花梨も正直に言う。
「わたしも方向音痴すぎて心配だから、それで問題ないよ」
ロイも言う。
「方向音痴すぎて心配だから、俺も付き合ってやっても良いぞ」
紗耶香の意見に反対はなくそれを皆して口にすると、女性は深ぶかと頭を下げた。
「本当にありがとうございます。わたしは本当に運が良かったです。嬉しいです。わたしは、ツボミっていいます。よろしくお願いします。けれども皆遠慮ないですね。皆して方向音痴って言う必要はないじゃないですか」
ツボミはちょっと落ち込んで。
それからツボミへは簡単に自己紹介をすませた。
希望で明るくなったツボミは後ろを見ないで、西へどんどん進みだす。
たまらず咲希と紗耶香はツボミを追いかた。
咲希は呼び止め、
「ツボミさんそっちも違いますって。ツボミさんは、わたし達の後ろをついて来てください。でも紗耶香さんは、ツボミさんより後方。一番後ろで」
指示をだして。
その意見に紗耶香は同意する。
「確かにその方が無難そうですね」
ツボミとロイを加えた一行は魔黒曜石の町へと足を進めてから、北へ。
ーー今は樹齢何百年もありそうな広葉樹や、数ミリ~1メートル以上はあるいろんな野草が生い茂る森の中だ。生き物は身を潜めているのか姿が見あたらない。
一番後ろから紗耶香は声をかける。
「皆さん、ちょっと待ってください。この辺りが適度な場所だと思いますから」
皆の足が止まったことを確認すると、紗耶香は腰に結びつけている月の鈴をはずして地面に置く。
それを1メートルぐらいまで巨大化させ中に顔を突っ込み、
「アレでもない。コレでもない」
何故か独り言を言いながら探し始め、そしてその手に握っていたのは小さな布製の袋だ。
手を入れて一つかみの砂を握り、それを宙にまいた。
きらきらと赤く輝いて、宙を舞う砂。
それが分からない花梨は訊く。
「ねぇ今、何をまいたの?」
それに答えのは、ロイだ。
「月見の砂」
「はい。それであってます」
花梨は、紗耶香へ説明を求める。
「紗耶香さん、その月見の砂って、どういうものなの? さすがのわたしも知らないんだけど」
「説明は後でしますから、今はわたしの後ろをついて来てください」
紗耶香はそう言って駆け出した。
花梨、ロイ、咲希と駆け出してツボミも遅れて駆け出し始めて後を追う。
やがて空を舞う月見の砂は、ぴたりと止まりふわりと落ちる。
一つのコスモスのような紅色の花へと。
紗耶香はそれを指差す。
「あれが紅月見草です」
花梨は冷や汗をかいて言う。
「気のせいか、後ろに変なものが見えるような?」
咲希も続く。
「気のせいか、わたしも後ろに変なものが見えます」
ロイは二人を否定する。
「いや明らかに、気のせいじゃないだろう。それに紅月見草は魔力を秘めているから、たまに魔物を引き寄せることがあるからな」
変なもの。ちょっと離れているから確認しづらいが、それでも体長は3メートル以上はあり、紫で、カエルとほぼ同じ姿をもつ魔物だ。
口下からはえている二本の緑色の髭は体長の倍ほどの長さがあり、それは手招きしているような動きで。
眼は笑っているとしか思えない。
咲希はそれを目にしてつい感じたまま言う。
「はっきり言って恐ろしいです。意味は良くわかりませんが、不気味すぎます」
花梨は何の意味が分からないんだろう? そう心の中で突っ込みをいれたが、咲希と同じ恐怖を覚えていることはかわりない。
だから、
「意味の分からない恐ろしさがあるかも」
何も考えずについ咲希と同じことを口にしてしまった。
ロイも、いろんな経験上そういうのに耐性があるにも関わらず、初めて目にするそれに不気味さを覚えずにはいられない。
そんな状況の中。
一人だけ不気味さを覚えない者がいた。ツボミだ。
「意味の分からない恐ろしさは、正直わたしには良く分かりませんが。皆さん、あのとても愛くるしい姿に騙されてはいけません。あのブルードボンは半端なく凶暴なんです。けれども、新技を試すよい機会かもしれません」
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