魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*六十一・強さを求めて・花梨とロイの封印

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 炎の翼とはじけた矢と閃光により、ブラックドラゴンは体勢が前のめりになった。
 咲希はその隙を見逃さない。炎の翼をさらに伸ばして、ブラックドラゴンの脳天のど真ん中を貫き。
 ブラックドラゴンは沈黙し倒れて、そのまま動かなくなった。

 まだ玄武竜という敵はいるが、本当に限界ギリギリだった咲希と、魔力と闘気を酷使して弓すら維持が不可能になった紗耶香の二人は意識を完全に手放した。

 紗耶香と咲希の二人の信念。詳しい事情は分からないが、ロイへその二人の信念の強さだけは確実に伝わっていた。
 二人の信念の強さがそうさせたと、いった方がいいかもしれないが。

 花梨は異質な魔力の結界を解除してから、二人の信念を見届けたロイの元へ戻った。黒く固い地面に、顔から倒れている咲希と紗耶香へ声をかける。

「バトンタッチね。後のことは任せて」

 ロイは花梨の台詞を否定する。

「いや無理だ。実力は知らないが魔力を本当に失ったのなら、玄武竜は危険すぎる。魔力ゼロで簡単に勝てるほど甘い相手じゃない。だから俺がやる」

 さとすように言ったロイは、宙に魔法陣を描いて、「魔法陣にとおすは、我の魔力。魔力よ、我の封印を解け」
 そう詠唱して、封印を解く。
 それと同時。
 花梨も陣を描いて、「高めるは、我の魔力そのもの。さらに高まれ我の魔力。我の封印を解け」そう言霊をのせた。

 両者の耳は尖り、目測1メートル猫のような白い尻尾が生えてきた。
 花梨の眼は蒼く、ロイの眼は赤く変色。
 花梨とロイ。変色した眼を除いて両者の姿は、ほとんど同じといってもよい程そっくりだ。

 相変わらず指輪の残り香の魔力しか感じられないが、ロイは、花梨の姿に驚かずにはいられない。
 さらに説明をするならば、変身して封印を解いたロイは、封印を解く前よりも魔力に対して鋭敏になるのだ。本当にかすかな魔力の残り香すら感知が可能な程に。

 花梨の以前の月属性は、異質な魔力の核の成長をさまたげる一つのかせとなっていた。それが失われると、花梨の身体に影響を与えるまでに核が成長してしまった。 

 今の花梨は純粋な人ではない。
 それはロイも同じだが。

 ロイのその姿に花梨も驚かずにはいられないが、玄武竜は待ってはくれない。

 封印を解いたロイの姿と、それそっくりな花梨の姿に、玄武竜は驚きちょっと動きを止めたものの警戒するように距離をつめる。

 ーー花梨は、“西尾と早苗の封印を解いた姿”を目にしたことがある。よって花梨の方がロイより驚きに早く順応した。

 花梨は宙に陣を描いて、

「高めるは、冷気と我の魔力そのもの。さらに高まれ我の魔力と冷気。圧縮。我が魔力と冷気よ弾けろ」

 異質な魔力を高めて冷気の渦を作り、それは玄武竜を包み込んで氷付けにする。
 花梨は続けて今度は陣を描かず、突風を放つ。氷付けにされた玄武竜を、脳天から真っ二つに切り裂いた。

 花梨に遅れて魔法陣を描いて、詠唱を続けていたロイだが氷付けになった姿を見て詠唱を中断。
 真っ二つに切り裂かれた玄武竜に、ロイは魔法陣を展開したまま今まで以上の驚きに眼を染めていた。

 自分そっくりな姿もそうだが。
 右人差し指で描かれた魔力をまったく感じない陣。
 その右人差し指の先で展開されている陣から放たれた、魔力も、闘気すらも感じられないあきれてしまう程の威力のもった技。

 驚くなという方が無理だ。
 そして、ロイはちょっと悔しかった。
 封印を解いて本当の姿になって、全魔力を解放したのにも関わらず出番がなかったからだ。

 それを見透かすように花梨は言う。

「出番を奪って悪かったかも。ちなみにわたしのこの姿は、全魔力を解放すると自然とこういう姿になるから、あまり気にしないで」

「気にするなという方が無理だろう。俺がこの姿になっても魔力の残り香ぐらいしか感じ取れないし、それに尋常じゃない強さ……」

「そこらあたりのことは、秘密で。というかわたし自身、この姿は日が浅いからまだ良く分からないんだよね」

 ロイは、とりあえず素直に花梨の言葉を呑み込むことにした。

 花梨とロイは尻尾を引っ込め、耳を普通の人と同じように縮めてから、咲希と紗耶香が目を覚ますまで待つことにした。
 やがて、咲希と紗耶香意識がゆっくりと戻ってくる。
 意識が戻り最初に口を開いたのは、咲希だ。

「あれ、ブラックドラゴンはどうしたんですか? それともう一匹魔物がいたはずなんですが?」

「そうです。いったい誰が?」

 意識が途切れてしまったせいで状況を飲み込めていない咲希と紗耶香へ、ロイが説明をする。

「ああ。それなら、お前ら二人で倒しただろう。ブラックドラゴンはSランクでも、どちらかというとSSランクより。それを倒すとは、さすがはAランクの紗耶香と咲希だ。強いな。それともう一匹なら、俺はまったく手を出してないんだがいなくなったぞ」

 何一つ嘘を付くことなく。
 何一つ嘘はないが、勘違いをするのが咲希だ。

「と言うことは、きっと、わたし達の実力に恐れをなしたんですね」

 咲希そう言ったが、紗耶香は違和感がぬぐえなかった。
 魔力と闘気を内に秘めていそうなあの感じからして、もう一匹は恐らく玄武竜。玄武竜なら、ブラックドラゴンよりはるかに強いはずなのに、逃げるのは変です。わたしと咲希さんは気を失っていた訳ですし。それに、あれはーー

 紗耶香が視線を向けた先は、氷付けにされ真っ二つに分断された玄武竜だ。氷でその姿自体を確認しづらいが。
 ーーもしかしたら玄武竜かもしれません。そう思ったが、紗耶香はすぐにその考えを捨てた。
 どう見ても一撃で真っ二つにしたとしか思えない程、断面がきれいだったからだ。玄武竜の相手にそれはありえないから。

 咲希は、二人掛かりで炎翼の指輪というレアアイテムを使ったとはいえブラックドラゴンを倒した感動でいっぱいで。視界には氷付けにされた玄武竜を入れているはずなのに、まったく見てなかった。

 そして前に進む、と。
 黒い壁の一部に、黒い輝きを内に秘めた何かがあった。

 咲希はそれを見てほんのちょっとだけ興奮ぎみに言う。

「コレ、めちゃめちゃ純度が高いかもしれないです」

 違和感は気になるものの、紗耶香もあまりの純度にほんのちょっとだけ眼を輝かせた。

「もしかしたら魔物がいたせいで、採取が無理だったのかも。これだけ純度の高い魔黒曜石なら、良い魔道具を作れるかもしれませんね」

 さっそく咲希と紗耶香は、魔法陣を描いて詠唱し、握り拳ぐらいの大きさの純度が異様に高い魔黒曜石を三つ取り出すことに成功した。

 それから夕日にあわく照らされた魔黒曜石の町へと戻って、そして今。
 食堂・ブタのシッポで、紗耶香とロイ、咲希と花梨の四人は魔黒曜石をどう分けるか悩んでいた。

「わたしは炎翼の指輪があるから、いらないよ。それに実は、氷翼の指輪も持ってるんだよね」

 そうつぶやいた花梨だが、咲希がそれを許さない。

「魔力ゼロのくせして何を言ってるですか。受け取る必要が一番あるのは、アナタですよ」

「けれども、ことの発端ほったんは咲希ちゃんが強くなる為だよね?」

 そう言い争っている花梨と咲希へ、紗耶香が声をかける。

「ロイはまだDランクですし。それにわたしは、ロイの魔道具を一つ壊していますし。わたしが受け取らないのが一番妥当だと思いますよ」

 ロイは紗耶香の意見を呑み込み、

「俺もそれで問題ない」

 そう答えて素直に紗耶香から魔黒曜石を一つもらった。

 ーー兄がいなくなったせいで紗耶香は、今どのギルドにも所属していないことを咲希は知り、その話に感動してギルド巡礼へと誘って。
 咲希と花梨は、紗耶香と一緒にギルド巡礼へと戻ることになった。

 ちなみにロイは早苗の名前を出したとたん、俺アイツ苦手という理由を述べて。
 ロイとはそこで別れた。
 早苗と知り合いならと、恐いくらいに納得が出来てしまう花梨と咲希だった。
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