魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*六十・強さを求めて・咲希と紗耶香の戦い

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「ロイさん、わたしが後ろのヤツを足止めしとくから先に行って、いざとなった助けてあげて。きっと咲希ちゃんと紗耶香さんの二人は勝てるだろうけど」

「いや。それはーー」むちゃだ。と、ロイが言い終わる前に花梨は駆け出す。
 急いで後を追いかけようとしたが、薄く蒼い何かにはばまれた。
 魔力を感じない壁も気になるが、それよりーー花梨には何かしらの隠し玉があると思っているロイだが、相手はSSSランクの魔物。そう簡単にはいくはずがないと思い、魔法陣を描いて詠唱し突風を放つがびくともしない。

 それと気になるのは、今さっき見せた花梨のみょうな自信だ。それに興味がわいたロイは、戦いで余裕がないせいかこちらへまだ気付いてない咲希と紗耶香を見守ることにした。

 咲希は宙を縦横無尽に舞って、炎翼の指輪の翼を一瞬だけ伸ばして攻撃を仕掛け。
 紗耶香は水属性の弓と氷と闘気の矢でそのすきを狙い。時にはその矢でブラックドラゴンの体勢をくずして、すきをつくる。

 明らかに魔力量は多くないはずなのに、ブラックドラゴンはおのれの皮膚を切り裂く翼にいらだちを覚え始めた。
 紗耶香は、より狂暴さを増し荒れ狂うブラックドラゴンへ矢を射り続ける。

 ーー紗耶香は、元もと魔力を上手く扱えなかった。兄は、いつも丁寧に魔力の扱い方を教えてくれていた。魔力の総量が多くないからと、魔法とは違う闘気術も教えてくれた大好きな兄。
 そんな兄がいなくなったその日。いや、失踪と言いかえた方がいいだろう。
 兄が失踪したその日。
 その前の夜。紗耶香と一緒に寝た時を最後に、兄は姿を消していた。

 当然ながら、いつも大好きな兄の背中を追いかけていた紗耶香は納得が出来なかった。
 だからこそ、兄と、その強さを求めて努力をし続けた。自分に限界を感じても、闘気術と魔力と合成するすべを編み出した。
 兄への執念がそうさせたのだ。

 兄を探し求め。再び兄を目にするまでは、絶対に生き延びると。

 ーーブラックドラゴンへ矢を射り続ける。

 咲希は炎の翼で宙を自在に舞うが、ブラックドラゴンは一挙一動自体が速い。両の鋭い鍵爪で傷をふやされていく。
 流れる血は治癒力を高めた魔力が止めてくれるが、ダメージと疲れは蓄積される。

 咲希がモロにくらいそうになる攻撃は、さすがに矢だけでは対処できずに、紗耶香も前に出て攻撃を水属性の弓で受け止めたりそらしたり。

 ダメージと疲れは、咲希と紗耶香をちょっとずつ蝕んでいく。

 それでも二人は逃げない。
 魔力と気配で分かる。ロイや花梨の方にも魔物が近くにいたのだ。下手に逃げると、最悪な事態になりかねない。

 咲希もある一つの信念を胸に秘めていた。

 ーーどうしてあの時、アナタは逃げなかったのかしら。逃げることだって出来たはずよ咲希。そんなあなたを、誰がおくびょう者って馬鹿にできるの?
 けれども咲希は反論する。
 それは成りゆきです。

 だが、相手はそうは思っていなかった。
 逃げなかったことは、それだけで勇気なのよ。時と場面を選ぶとしても。

 その時は意味が良く分からなかった咲希だが、眠っていた魔族の血を呼び覚ますには充分なきっかけだった。
 後から早苗によって封印されたが。
 ただし、生命の危機におちいればその限りではない。そして、そのことを咲希自身知っている。

 大切なものは、うしないたくない。という思いに、人との交流は大切にしなさい。それが強くなる為の一歩でもあるんだから、その言葉が重くのし掛かる。

 だからこそ咲希は、色んなことを口にしても花梨とコンビを組んだ。

 眠っていた魔族の血を呼び覚まされたその経験で、ものごとには色んな理由があると思い知らされたのも理由の一つだろう。

 早苗は、咲希の魔族の血が暴走しても、きっと上手く対処してくれると花梨を信頼していた。
 咲希は、自分を成長させる為だけだと思い込んでいるが。

 ーーそして、今。
 咲希は花梨とロイを守るという信念の元、ブラックドラゴンと真正面から向き合っている。
 魔族の血が目覚めたその経験は、弱いことのつらさを、必要以上に思い知らされていたのだから。

 咲希は指輪の炎の翼で宙を舞い。翼を伸縮させながら、攻撃を繰り返すが決定打にいまいち欠けていた。

 ブラックドラゴンにだって、魔力の心臓部。核となる部分があるはずです。そこを狙えばーー
 咲希は激しく宙を飛び回りながらも、ゆっくりと神経を今まで以上に研ぎ澄ませていく。

 ーーDランクや、魔力を失った能天気な花梨だって出来たんです。わたしがやって、やれないはずはないです。

 咲希は心の中でそうゆっくりつぶやきながらも、ブラックドラゴンをしっかり見据えて宙を舞い続け。
 やがて、ほんのちょっとしか違わない魔力の心臓部・核を見つけ出す。

 咲希はブラックドラゴンへの脳天のへ視線を移し、そこへ炎の翼を伸ばした。
 瞬間。
 紗耶香は炎の翼を追い掛けさせるように矢を放ち、ブラックドラゴンの目と鼻の先。矢がその位置までせまったところで腹の底から叫んだ。

「咲希さん! 思いきり目をつぶってください!」

 いきなりの叫び声に、咲希は驚きながも言われたとおりに目をつぶった。
 瞬間。
 矢がはじけ青い閃光が走った。
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