魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*五十九・強さを求めて・玄武龍とブラックドラゴン

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 落ちた先で待ち構えていたのは、ランクS。咲希と紗耶香の実力をもってしても下手をしたら生き延びることすら厳しい相手。黒い岩のような肌で、体長は8メートルを越えた巨大なブラックドラゴンだ。

 黒く固い岩の地面を、根付くようにしっかりと二本の足で踏み締めて。鋭い鍵爪を生やした手足と、巨体に似合う黒い翼を振るわせて。
 赤い眼。その赤い眼光で、咲希と紗耶香を射る。

 咲希と紗耶香が落とし穴に落ちて残った花梨とロイは、ランクSSS・全長10メートルを越える亀のような甲羅をもった玄武竜の魔力と気配を感じ取っていたーーだけどまだ相手は遠い。

 落とし穴の先の魔力も、花梨は感じとった。

「ちょっと遠くで危ない気配。多分、玄武竜の気配がプンプンするけどまだ気付かれていない。こりゃわたし達より、咲希ちゃん達の方がかなりピンチかも」

「かなり離れているはずなのに、分かるのか?」

「まあ、ね」

「……んで、どうするつもりだ?」

「こうするんだよ。咲希ちゃんと紗耶香さん達なら、きっと上手くやると思うから」

 花梨はそう言って身体に染み付いた火属性の魔力に、自身の異質な魔力をたっぷりと付与して炎翼の指輪へ。
 それを外して落とし穴へと投げ入れた。

 紗耶香は炎翼の指輪の魔力の動きを感じとって、

 咲希もそれを感じとった。

「使えという意味ですか」

「咲希さん、そういう意味しかありませんよ」

「……火属性が得意なわたしが使うことにしますよ、紗耶香さん」

 咲希は、花梨は馬鹿です。わたし達はピンチしれないですが、花梨の生命線となる指輪のはずです。
 心の中でそう愚痴りながらも感謝せずにはいられない。

 自分よりはるかに強い相手を一秒でも早く倒す為に、なんのためらいもなく右人差し指へ炎翼の指輪をはめてブラックドラゴンへとせまる。

 紗耶香も水属性の魔力を巨大な弓と矢に具現化。
 水の矢を、氷の矢に変換。闘気もたっぷり込めて、それを弓につがえてブラックドラゴンへと狙いをさだめた。

 距離があと6~7メートルというところで、咲希は指輪へ自身の魔力を送り込み、1メートルぐらいの炎の翼を具現化。指輪の魔力をまとう。
 消費した魔力量よりも確かな手応えに咲希はとまどってしまうがすぐに冷静さを取り戻し、真上へ跳躍。炎を翼をはためかせて宙からブラックドラゴンへとせまり。

 紗耶香は正確にブラックドラゴンの眉間へ狙いをさだめていた矢を射る。
 それは巨大な口から放たれた黒い炎によって半分ほど小さく削られるが、勢いは弱まらず眉間へと突き刺さった。
 実質的なダメージはゼロに等しかったが、動きを一瞬だけ止めるには充分だった。

 その隙を咲希は見逃さない。炎の翼で宙を舞って、ブラックドラゴンと視線を合わせ。翼を一瞬だけ2メートル以上に伸ばしてブラックドラゴンの顔面を薙ぐ。
 と、狙ったブラックドラゴンの鼻の下、口の上から真っ赤な血が流れた。

 手応えと与えたダメージのつりあいがとれているのだが、それらと使用した魔力量の釣り合いがとれていない事実は、咲希にだけ動揺を与えるだけにとどまらず。
 ブラックドラゴンでさえ感じた少ない魔力量のみで、自分が皮膚を切り裂かれた事実に驚き動揺して動きを止めてしまった。

 良く分からないがチャンスです。このままーーそう思考し、さらに魔力を指輪に送り込もうとするが途中、ブラックドラゴンが不意に距離をつめた。

 咲希も前へ距離をつめて突進しながらも、頭からの突進を避けようとする。けれども、そのブラックドラゴンも咲希の動きに合わせ距離をつめて鍵爪を振り上げ。
 振り落とされたそれは、紗耶香の氷と闘気の矢で軌道をずらされた。

「油断は禁物ですよ」

「確かに、ちょっと油断していたかもしれないですね」

 そう返して気を引き締める咲希だった。

 *

「そろそろ魔力の封印を解いてもいいんじゃないか?」

 突然そう言ったロイの台詞を、花梨は理解が出来なかった。

「え?」

 だから、ついそう返したのは当然のことだろう。

「俺の勘だと、魔力を隠しているんだろう? ブラックゴーレムの核を狙ってあっさり倒す正確さ、地脈が乱れて属性や魔力の認識が困難なこの場所で、かなり距離があるはずの玄武竜を感じるするどさ普通に怪しいだろう」

「そ、そうかな?」

「玄武竜クラスなら、暴れている状況なら、余程鈍いヤツでもない限り分かるだろうが……魔力を失ってしまったら、勘がどうしても鈍るんもんなんだよ。多少のことなら、魔力を失って間もないって言い訳は出来るかも知れないが……あそこまでの正確さや鋭さで、言い訳は厳しいものがあるぞ」 

「いや、だから魔力なんてまったく隠してないって」

「本当の、本当にか?」

「そもそも魔力を隠してなんになるの?」

 堂どうとそう断言しきった花梨に、ロイは愕然とするしかなかった。

 花梨は続ける。 

「咲希ちゃん達と玄武竜の気配はまだ距離があるし、運が良かったら玄武竜は避けられるかもしれないし、とりあえず先に進もうよ」

「……おう、そうだな」

 ーーーーやがて花梨とロイは、ブラックドラゴンと戦っている咲希と紗耶香の姿をとらえる。
 ブラックドラゴンへそれなりのダメージも与えているが、二人ともボロボロの状態だ。

 ブラックドラゴンを倒すにはまだ実力不足だと思っていたロイと花梨だが、二人の戦っている光景を目の前にして考えなおすことになる。
 もしかしたら、ひょっとすると勝ってしまうんじゃないかと。

 只それには明らかに、後方の玄武竜が邪魔だ。
 地脈が乱れているはずなのにそこまでしっかりと届いた気配。咲希と紗耶香とブラックドラゴンの闘いで発せられた魔力に興味をひかれたのか、玄武竜はこちらへ近付いて来ている。
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