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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*五十八・強さを求めて・それぞれの実力
しおりを挟む奥へ進んで辺りが薄暗くなったところで、咲希が首元から月属性の魔力を込めた魔道具・照明を取り出した。
花梨が昔を思い出す。
「懐かしいなコレ、前はわたしも良く使っていたんだよ。今は使えないけどね」
「雑用係だったということですね」
「まあ、そうとも言うかな」
咲希が照明へ火属性の魔力を流すと、月属性の魔力が反応して辺りを昼間のように照らした。
ちなみに火属性でも明かりとなる魔道具はあるが、その場合は反発する水属性の魔力では反応しない為、反発するものがない月属性の魔道具・照明がポプュラーだ。
ーー周りの気配が増えたことに気付いたロイが注意を促す。
「和んでいるところ悪いがーー」
花梨が分かってるよ、と言わんばかりに続きを言う。
「いきなり敵さんの気配が増えたよね」
ロイと花梨にそう言われて、咲希もいくつもの気配に気付く。
「どうやら、そのようですね」
続いて紗耶香も気付いた。
「これは、ちょっとヤバイかもしれませんね。ロイさんと花梨さんは下がってください。EやDランクだと厳しすぎます」
ロイと花梨が下がったのを確認すると、咲希と紗耶香は奥で眼を光らせている魔物の群れへと突っ込んで行く。
途中。
紗耶香は足を止め水属性を弓状に形成。水属性を氷。それを矢に形成。
2メートルはある一体の黒く固い岩の人形・ブラックゴーレム。その眉間へ水属性の弓で狙いを定めた。
咲希は左右の手に炎を纏い。その両手に30センチぐらいの炎のナイフを作り出して、紗耶香が狙いを定めたブラックゴーレムへ視線を移す。
狙いは悪くありませんが魔力量が不充分。良くて怯ませる程度です。
矢が放たれたと同時に、咲希はブラックゴーレムへせまる。
けれども紗耶香が放った氷の矢はブラックゴーレムの眉間のど真ん中へ命中し、首から上を跡形もなく吹き飛ばした。
ロイと花梨は、魔力だけではなく闘気もを感じとっていたが。
魔力だけしか頭になくって実力的にもそれしか感知できない咲希は、予測をはるかに越えた威力に理解が追いつかない。
続けて放たれた紗耶香の矢は、奥でまだ眼を光らせているブラックゴレームの身体のど真ん中を貫いてそこへどでかい風穴をあけた。
ロイも矢の軌道外から奥へ進み魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは風の魔力。風よ刃となれ」
詠唱。魔法陣から突風が放たれ、ブラックゴレームを右肩から左の脇腹の位置を切り裂き分断して、動きを完全に停止させる。
咲希は驚きを隠せない。
「ロイもどういうことなの? たったあれだけの魔力量で、ブラックゴレームを一撃なんて」
「俺の場合は、ブラックゴレームの核を狙ったんだ」
ロイが言ったことを、咲希は一瞬呑み込めなかった。
「か、核って。核っていうのは同じ魔物でも、一体、一体、ある場所が違うものなんです。ほんのちょっとしか魔力の色が違わないそれを感じとったというんですか? もしそうなら感覚はAランクのわたし以上ですよ」
「なら、感覚だけなら俺の方が上という意味じゃないか? 恐らくは、紗耶香の闘気混じりの魔力の矢にも気付けなかっただろう」
「わたしと同じAランク初級のはずなのに、そんな技術を」
驚きと悔しさのあまり表情がひきつっている咲希へ、ロイは続ける。
「Aランク成り立て。つまりは、限りなくBに近いAランクと、紗耶香とでは違うってことだな。まあ俺の場合は、すぐれているのは感覚だけだがな」
さらに駄目だしとなったのは、
「魔法陣にとおすは、火属性。唸れ、炎よ」
花梨が描いた魔法陣から放たれた唸りをあげる真っ赤な炎だ。それはブラックゴーレムの右肩を一撃で貫いて行動不能にする。
咲希はさらなる衝撃を受けられずにはいられない。
「うそ。能天気な花梨まで、核を一撃で貫いたというのですか」
「もう、能天気は余計だよ」
「けど、事実じゃないですか」
そう。それらは事実だ。それらの事実は咲希をへこますのには充分だったが、確実に視野を広げた。強さを求めている咲希にとってそれは、間違いなく成長への足掛かりとなったはずだ。
それはロイへ、花梨への疑惑も強くさせた。
花梨が倒したブラックゴーレムで最後だったらしく奥へと進んで行く。
そしてふと花梨は、あれ? と思う。
「照明はどうしたの?」
咲希は堂どうと言う。
「照明ですか? 照明なら戦いの時にじゃまになったんで、わたしの胸の谷間ですよ」
紗耶香は、
「うそですよね?」
わたしでさえ無理なのにと、そこだけは声に出さないで。
花梨は、
「早苗さんといい。もういいよ、そのネタは」
と、二人してまさかの即答。
実際は紐で首から下げているだけなのだが、そう即答されると悲しいものがある咲希だった。
紗耶香は、咲希へ良く分からない対抗心を燃やし始めていた。紗耶香自身、その理由をよく把握してなかったが。
普段なら冷静なはずの紗耶香は、意味のない対抗心をもやして。残りの咲希や花梨、ロイはもとから物事を深く考えないたちだ。
そんな一行で進めば、迷うのは当然のこと。
花梨はなんとなく、
「ここ、さっきとおらなかった?」
「いや、そんなはずはないですよ」
咲希もなんとなく気付いたが、それを認めるのは恥ずかしかったようだ。
けれどもロイがそれを否定する。
「冷や汗をかきながら言っても、説得力がないんだが」
けれども紗耶香も恥ずかしいようだ。
「気のせいだと、思いますよ。ね、咲希さん」
「で、ですよ」
良く分からない対抗心。互いにそういう思いがあるはずなのに、手と手を取り合っている二人だった。比喩ではなく現実的に。
何故か、テンションが二人で仲良く上がってスキップ。そして地盤がもろくなり自然の落とし穴となっているところへ、足を踏み入れて落ちた。
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