魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。

*五十七・強さを求めて・腹ごしらえとロイと紗耶香

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「恐らく、俺のことだと思うんだが」

 そう声をかけたのは、女性の隣を歩いていた男性だ。
 彼を自ら蹴り飛ばしたはずなのに咲希は、花梨と女性と三人して忘れていたのだ。ずっとそばにいたのにも関わらず。

 咲希は恥ずかしくなって思わず男性へ頭を下げた。

「すみません。完全に忘れていました」

 花梨も続いて頭を下げる。

「蹴っておいてそれを忘れるなんて、あんまりじゃないかな。まあ、わたしも忘れていたけど」

 咲希はツンと返す。

「能天気なアナタだけには言われたくありません」

 今のやりとりで、女性と男性はこの二人は似た者同士だと悟って食堂の中へ。
 花梨と咲希も、その後に続いて行った。
「アナタのせいで恥をかいたじゃないですか」と、咲希はぼやきながら。
「いや、それはおかしいよ」と、花梨は抵抗しながら。

 中に入ってもまだ言い争っている二人を見て、女性と男性は内心で苦笑いを浮かべながらも、中なか息のあったコンビだと感じられずにはいられなかった。

 *

「めちゃめちゃ美味しい~!」
「本当に美味しいですね」

 花梨と咲希そう言ってから、二人してナイフとフォークを使って極上のステーキを頬張って咀嚼そしゃくして飲み込んで。

 咲希は本題へと入る。

「凄くあやまっていましたけど、そのそもそも原因ってなんなんですか?」

「それは、ある魔物に襲われていたところを彼に助けてもらったんですよ」

「実質、逆に助けられたのは俺の方だが」

 ちょっと恥ずかしそうにそう言った男性へ女性はクスクスと笑って言う。

「Dランク中級で無理をするからですよ。武器に関しては、すみません」

「そうは言っても女の子が魔物に襲われていたら、助けるのが男ってもんだ。実力がどうこういう前にな。だから、魔武器が壊れてしまったのは俺のせいでもある。気にするな」

「そこまで言うのならもう気にしません。けれどもDランクで、Aランク初級の魔物へ挑むのは無謀ですよ。私が同じ立場なら例えどんなにかっこ悪くっても、二人して逃げる道を選びますから。そう言えば、今更ですが……名前を聞いてませんでしたね」

「確かに。自己紹介が遅くなったが、俺は、ロイ。あらためてよろしくな。あと敬語はいらない。ランク的にもDランク中級の俺の方が下だしな」

「こちらこそよろしくです。遅れましたがわたしは、紗耶香さやかです。こう見えてもAランク初級なんですよ」 

 Aランク初級という言葉に、咲希に対抗心が生まれる。

「わたしは咲希といいます。わたしもAランク初級ですよ」

「わたしは花梨だよ。ランクは、Eランク初級かな」

 あまりの低さに紗耶香はつい聞き返す。

「Eランク初級?」

「わたし……とある理由で魔力を失ってしまって、んで、ちょっと失敗しちゃったから」

「ということは魔力ゼロなんですか?」

 花梨は否定をしない。

「そういうことになるよね」

「初対面で失礼かもしれませんが、それで良く冒険者のランクを剥奪されなかったですね」

「まあわたしは、闘気術とか使えるしね。マホスマホもマホ電池とかも開発されているし、結構世の中便利になってたりするし」

「それでも魔力ゼロというのは厳しいと思うのですが?」

「大丈夫だよ。魔力がないんだったら、それ相応のやり方というのもあるんだから……戦い方だってね。んで、これから咲希ちゃんと魔黒曜石を採りに行くところだったし」

 紗耶香は一つの提案をする。

「……でしたら、こうやって出会えたのもなにかの縁。この町へ行く人の大抵の目的は魔黒曜石のはずですし、もし良かったら皆で魔黒曜石をとりに行きません? それに魔力ゼロの人が魔黒曜石の洞窟へ行くのも、ちょっと不安なところもありますし」

 こうして花梨達のパーティーに紗耶香とロイが加わることとなった。

 ーーそして今。
 陽射しも完全に強くなった時刻。
 町から数キロ離れた森の中にある、黒く固い岩で覆われた魔黒曜石の洞窟の入口の近く。 

 咲希は、花梨へ手を差し出す。

「わたしの魔力を込めますから、炎翼の指輪を出してください」

「ありがとう咲希ちゃん。よろしくお願いね」

 花梨は左の人差し指から外して、咲希へ手渡す。
 咲希は、受け取ったそれを握りしめて魔力を込めた。

「魔力は込めましたが無理はしないで、いざとなったら逃げてください。アナタは能天気なところがあるんで気を付けてくださいよ」

 紗耶香も近寄る。

「そういうことなら、わたしの魔力も込めさせてもらっても良いですか? わたしの魔力もちょっとは足しになると思いますんで」

「そういうことなら、こちらとしても助かりますが、花梨が戦う唯一の方法なんです。紗耶香さんを疑う訳じゃないんですが指輪は、わたしが握とっきます。それに触れて魔力を込めるようにお願いします」

「結構、用心深いんですね」

「なにかあったら、わたしが早苗さんから大目玉ですから」

 紗耶香は条件を呑み込んで、クスクスと笑いながらへ魔力を指輪へ。
 そのままそれを、咲希は、花梨へと戻す。

「また、ありがとうね」

 花梨は左人差し指へ受け取った指輪をはめると、ロイはかるい口調で言う。

「Aランクが二人も魔力を込めたんだ。俺の魔力は必要ないかもな。俺は俺で、ランクが低いから最低でも自分の身ぐらいはなるべく自分で守ることにするか」

 まあ、いざとなったら俺が守る方にまわるけどな。そう思いながら。
 花梨は、いざとなったらーー最悪、“封印”を解いたらまあなんとか大丈夫だよね。と深く考えないで。

 花梨は炎翼の指輪の魔力を纏い。
 咲希は神経を尖らせて。
 紗耶香も気を引き締めて。
 ロイも、ものごとを必要以上に深く考えないで、むしろ、最悪の展開の場合どうやってを自身の強さを誤魔化そうかとどうでもいいことで悩み。

 花梨や紗耶香達は、大きく口を開けている魔黒曜石の洞窟の中へと足を踏み入れて行った。
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