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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*五十六・強さを求めて・魔黒曜石の町へ
しおりを挟むお腹を減らせた二人は、魔黒曜石の洞窟の町へ足を進めて。
咲希は足を止めた。
「着きましたよ、魔黒曜石の町です」
魔黒曜石の町は、近くの洞窟で純度の高い魔黒曜石が採れるようになり急速に発展する。
黒曜石は、物づくりの原点ともいわれている素材だ。
洗濯物を二階の窓から干しているレンガ造りの家。売られている剣や槍、鉄製の胸当てやローブなどが外から丸見えのお店。かるく見積もっても八人は並んでとおれそうな黒い石畳。そこを、雑談や笑い話に花を咲かせて行き交う様ざまな人達。
花梨は、前より明らかに人が多いと思った。
「前より賑やきかも」
「最近、前より高い純度の魔黒曜石が採れるらしいですよ」
「そうなんだ。まあ、それはそれとしてお腹減ったね……確かこの町って、新しい食堂が出来たんだよね? 結構美味しいって評判の」
「確かそうですね。その食堂は、ギルド・黒曜の近くだったです。がらのいい人ばかりではないので注意してくださいよ」
「ん、分かってるって。とりあえずはその食堂へ行こうよ。わたしも、ギガントグリズリー退治の報酬をそれなりに貰ちゃったし」
報酬の取り分は、咲希七割で花梨三割だ。三割でも花梨がそれなりにと言ったのは、Aランクの依頼でありその額が元もと高かった為だ。
花梨としては、わたしあまり活躍してないから咲希ちゃんが十割でいいと言った。
だが、それを咲希は許さなかった。アナタにも助けられたのは、事実ですと言って七割しか受け取らなかった。
そのことに関して花梨が余計なことを言わないかったのは、その方が咲希ちゃんもすっきりするだろうと思ったからだ。
三階建てで窓がいくつもあるギルド・黒曜に近付くにつれて多くなる人どおり。
「んで、食堂はどこにあるの?」
「確か、この辺りにあったはずなんですが」
咲希は辺りを見回すと、
「す、すみません!」
突如、女性の悲鳴が響いてそれは人の流れ変えた。女性は誰かに頭を下げているようだ。
どんどん集まる人達は、深く頭を下げている女性に対面している相手の状況を悪くする一方だ。
「いや、だから。最初からいいって言ってるから。どうせ安もんだし。気にすることはないよ。だから俺としては、顔を上げてくれると嬉しいんだけど」
「は、はい」
ちょっと噛みながらも、黒い髪を腰まで伸ばした紺色のマントを纏っている女性は顔を上げた。
対して、赤い短髪で緋色のマントを纏っている男性は額に冷や汗をにじませたまま。
女性にこれ以上かける言葉が見つからない男性は、不意に咲希から飛び蹴りを受け石畳に身体を強打する。
「男のくせして、か弱い女の子を泣かせるなんていい度胸じゃない」
あまりの剣幕に女性はうろたえて、
「あ、あ。違うんです。だからやめてください」
咲希に思いきり抱き付いた。
花梨も駆け付けて、
「ちょっとは落ち着いたら?」
咲希の脳天へチョップを放つ。
完全に意識が男性と女性へ傾けていた咲希が反応が出来るはずもなく、体勢をくずして女性とともに倒れた。
女性は顔面を打ちつける直前で、小咲希から離した手を石畳につく。けれども咲希はぎりぎりまで抱きつかれていたせいで身動きできず、石畳へ顔面をぶつけてしまった。
これくらいなら大丈夫だろうと思っていたが、まったく予想してない結果に花梨はあせり、
「大丈夫……」
「これぐらい、大丈夫よ」
その言葉に内心ほっとするが、遅れて流れ出した鼻血に思わず吹き出す。
痛い思いをさせた張本人が吹き出したのだ。咲希が怒りを覚えないはずがない。
「と、言うとでも思った?」
間近で咲希は鼻血を流したまま素敵な笑みを浮かべ、右手のひらへ炎も浮かべてそれを花梨の脳天へ叩き付けけた。
花梨は涙目になり頭をさすりながらも、魔力ゼロで素人同然と思っているのならと、
「手加減ぐらいしてくれてもいいんじゃない咲希ちゃん? わたし、最低のEランクなんだよ」
そう反論したが、
「指輪の魔力の残り香が身体から感じられます。だから、これぐらいなら大丈夫なはずです。手加減もしましたし、現にめちゃめちゃ元気じゃないですか」
やっぱりきちんと手加減はされていたようで、さすったその頭にでっかいタンコブが出来た程度にとどまっていた。
花梨としては、たまったもんじゃないが。
額に大粒の冷や汗をにじませ二人のやり取りを見ていた女性は、
「あの。お昼まだ食べてないのでしたら、そこのお店に入りません? こういう状況になったのは私に原因が十割あるのでおごりますよ」
本当に心の底からの気遣いでそう言った。
けれどもそれは花梨と咲希の二人にとって、聞き捨てならない言葉だった。
「それはどういう意味です?」
「それはどういう意味なの?」
「とにかく、そこの食堂に入りません?」
そう言って女性は、視線を横へずらす。
花梨と咲希はついその視線をなぞると、二人して大きい腹の音を響かせた。
花梨と咲希はかなり恥ずかしかったらしく、二人とも素直に女性の言葉にしたがって食堂・ブタのシッポへ。
ーー入り口の前で何かを思い出しかける花梨。
「なんか忘れてない?」
「そう言えばなんか忘れているわね」
と、咲希も思い出せないようだ。
「何も忘れてないかと」
と、女性。
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